Maglev Haptics~磁石の力だ! 無接点制御のフィードバック付き入力デバイス

カーネギー・メロン大学のロボティックス研究科からのスピンオフ企業Butterfly Haptics社も、画面内3Dグラフィックスへのインタラクションを目的としたインタフェースデバイス(HAPTICSデバイス)を開発し、今回のSIGGRAPHで発表していた。その制御に「マグネット」(磁石)を使い、形状は「レバー」の形をしているため、名前を「Maglev Haptics」としている。

レバーは全方位最大±6度(中央付近では±8度)まで傾けることができ、さらに上下方向に最大±12mmまで動かすことが出来る。そう、前出のSPIDAR同様に全方位、全方向の入力が行えるHAPTICSインタフェースなのだ。

このシステムで画期的なのは、作動中には物理的な接触点が一切なくなるという点。

どういうことかというと、作動中はこのレバーがどこからも支えられることなく空中に浮遊した状態となるのだ。

Maglevの内部構造図

Maglevの実物。先端は杖みたいになっているが、操作感覚としてはフォースフィードバック付きの無段階アナログジョイスティックみたいな感じ

レバーの下部にはコイル(電磁石)が6個、花びらのように取り付けられており、この6個の花びらの電磁石を挟み込むような形で永久磁石が12個、円状に配置されている。このコイルに流す電流を変化させることでローレンツ力を制御、初期段階としてレバーを浮遊させる。リニアモーターカーが浮遊するのと原理は似たようなものだと思えばいい。

ユーザーがレバーを傾けたときには、レバー先端に仕込まれた光学センサー群が入力角度や距離を検出する。

ユーザーからの入力に対してのフィードバックとして、レバーの入力を重くしたり、あるいはレバーがどちらかに押されたりするような効果は、6個の電磁石の電流量を自在に変化させることで制御できる。高速に電磁石を駆動すれば意図的に複雑な振動を作り出すことも可能だ。

デモでは2つのMaglevをそれぞれつかんで画面内の2つの箱を個別に操作し、ボールが乗ったレール状のシーソーを左右に振らせたり、あるいは他のオブジェクトをその操作している箱で挟んで持ち上げたり出来る「インタラクティブ積み木」のような遊びが体験できるようになっていた。

シーソーを動かすと、球が左右に揺れるたびに、Maglevを支えている手に下方向の重みが左右に移動する。そう、かなり精度の高い重みの変化が手に感じられるのだ。さらに、他の物体に対して衝突をさせると、前出のSPIDARのように衝撃が伝わる。こちらも堅い物に衝突した場合はゴチンという衝撃が来る。担当者によればMaglevでも触覚の制御解像力は毎秒400~1000回だとのこと。画面内で堅い物に衝突させると、本当にMaglevが何かに衝突したような強い衝撃が来るが、実際にはMaglevは浮遊したままで電磁力操作でMaglevを任意の角度方向、位置で瞬間的に衝撃振動を再生しさらに浮遊固定させることで表現しているというのだ。

年配の方にも大人気

球が移動するとその重みの移動が腕にも伝わる。

Maglevの特徴はなんといっても「機械可動部分がない」というのが利点だという。これまでの触覚インタフェースは物理的にワイヤーで吊ったりするのが定番だが(まさしく前出のSPIDARもそうだったが)、Maglevではこれがないので基本的に機械的な摩擦や消耗がないため壊れにくく、いわばメンテナンスフリーとなる。また、堅い物への衝突感や重い物への重量感の表現には強い力を出す制御系が必要になるが、一般的な小型モーターにワイヤーを組み合わせたシステムではこれが難しい。小型モーターでは出せる力に限度があるし、細いワイヤーでは力を伝達する前に伸縮したり切れてしまう。Maglevは強力な電磁力パワーで力を作り出すことができるし、さらにそれを伝えるのにはワイヤーいらずの非接触だ。

非常に入力精度とフィードバック精度が高いことから、遠隔医療、医療訓練といった用途や、地雷撤去や災害救助のような危険地帯へのロボットインタフェースとして有効だと担当者は言う。もちろん、今回のインタラクティブデモのようなゲームインタフェースとしても利用しても面白そうだ。

なお、Maglevシステムは既に販売を開始しており、Maglev一本とその制御専用PC(インタフェースボード搭載、専用ソフトインストール済み)で約500万円からだとのこと。

2本のMaglevで2つの箱を操作。画面内の他のオブジェクトを挟んで持ち上げることも出来る。もちろんの際には腕に重みが伝わってくる

他のオブジェクトと衝突させるとゴチンという衝撃が腕に伝わる