Ericsson北東アジアCTOの藤岡雅宣氏

日本エリクソンは6日、報道関係者およびアナリスト向けのセミナーを開催し、Ericsson北東アジアCTOの藤岡雅宣氏が移動体通信の市場動向と同社の取り組みについて解説した。

W-CDMA方式に関しては、標準化プロジェクトの3GPPにおいて今年末にも、Release 8と呼ばれる最新仕様の標準化作業が完了する見込み。HSDPAでは、現在使用されている変調方式(16QAM)のままでも14Mbpsまでの高速化が可能だが、新たに64QAMを導入した場合は21Mbpsまで、16QAMのまま2×2MIMOを導入した場合は28Mbpsまで伸ばすことができる(ともにRelease 7で標準化済み)。Release 8では64QAMと2×2MIMOの両方を使うことで、新たに42Mbpsまでの高速化が視野に入れられている。

ただし、変調方式の追加が主にソフトウェアの変更で対応できるのに対し、同一帯域に2系統の送信設備がない場合、MIMOの導入には基地局ハードウェアへの投資が要求される。この問題については、複数の周波数帯域を同時使用する"マルチキャリア"による高速化が考えられており、Release 8には「Dual-Cell HSDPA(DC-HSDPA)」と呼ばれる仕様が盛り込まれる予定。DC-HSDPAでは、同一の基地局が隣接する2つの帯域を使用することで2×2MIMOと同等の高速化が可能とされ、5MHzの帯域(現行HSDPAで使用)を2個連続して免許されている通信事業者であれば、基地局のハードウェアに大きな更新を加えなくても下り通信速度を2倍にできる。将来的には複数の基地局の利用や、上りの通信にもマルチキャリアを適用することが考えられている。

Release 7では64QAMもしくは2×2MIMOの導入が標準化されていたが、Release 8では両方の導入で最大42Mbpsに

2本の下りキャリアを利用して、ハードウェア投資なしで速度を倍にするDC-HSDPA。ただし、5MHz×2の帯域が連続して必要

一方、次世代(4G)を視野に入れた新方式のLTEについては、日本国内で使用される可能性のある周波数帯として、FDD(送受信を別周波数で行う)方式で2GHz帯、800MHz帯、1.7GHz帯、1.5GHz帯、TDD(送受信を時分割し同一周波数で行う)方式で2GHz帯が挙げられた。このうちFDDの2GHz帯は既にNTTドコモが使用する方針を示しているほか、800MHzも周波数再編後に使われる可能性が高い。1.7GHz帯は「LTEをやるかはわからないが使える」(藤岡氏)、1.5GHz帯については「来年再割り当てが行われるが、(LTEに)使われる可能性はあると考えている」(同)とした。また、アナログテレビ放送終了後に再編される700/900MHz帯や、4G用の帯域である3.5GHz帯でもLTE適用の可能性はあるとしている。

日本でLTE適用の可能性がある周波数帯の一覧。2GHz帯、800MHz帯はほぼ確実、1.5MHz帯も可能性あり

現在W-CDMA方式の対抗技術でもあるCDMA2000方式を採用しているKDDIが、W-CDMAの後継技術であるLTEを採用することが確実となったが、CDMA(cdmaOne/CDMA2000)からW-CDMA/LTEへという動きは昨年ごろから全世界的に見られている。また、欧州では各国で2.6GHz帯の周波数オークションが予定されており、そこでも各事業者のLTE採用の意向は高く、例としてスウェーデンでは周波数を獲得した5社(FDDで4社、TDDで1社)のうち3社がLTEを採用する見込みという。

CDMA陣営大手のVerizon Wirelessが次期システムにLTEの採用を決定するなど、W-CDMA/LTEへの動きは強まっている

スウェーデンでは2.6GHz帯の周波数を獲得した5社のうち3社がLTE導入の意向を示す

LTE導入で移動と固定の融合も進む

LTEは、SAE(System Architecture Evolution)と呼ばれるオールIP仕様のコアネットワークに収容される。音声用、パケット用それぞれにさまざまな交換機が用意され複雑なレイヤー構造になっていた従来のネットワークとは異なり、SAEでは基本的に基地局の後ろにはパケット交換機とMME(Mobility Management Entity)と呼ばれる制御機能だけが控える形となり、装置の効率化が図れることに加え、通信における遅延時間の大幅な短縮が可能になる。

LTEを収容するSAEはオールIPのフラットなコアネットワークとなる。この特徴はWiMAXなど無線アクセス系の技術と共通

Ericssonの最新基地局「RBS6000」。同一筐体にGSM/W-CDMA/LTEを収めることが可能で、将来は完全同一ハード上でソフトの切り替えのみで複数方式をサポートしたいという

基幹ネットワークのオールIP化は固定通信の分野でも世界的な潮流となっている。藤岡氏は「ある意味では、SAEには携帯でなく固定系も収容できるということで、FMCの核になる」と話し、同社としてはLTEの展開を、移動系と固定系に対して同一の基盤を提供する契機にもしていきたい考えだ。

オールIP化により移動系と固定系のネットワーク機能の統合が可能に。コスト削減のほか、どちらからアクセスしても同じアカウントやサービスを利用することも可能にしていきたい考え

またEricssonでは、チャットやファイル転送のような付加サービスを携帯電話やPC、テレビといったさまざまな機器に統一展開するための基盤技術「IMS(IP Multimedia Subsystem)」を提供しているが、IMSが通信事業者に導入されても、同一事業者の加入者同士でしか通信できない、端末メーカーが異なるとサービスが利用できないといった問題がある。この問題を解消するため、今年2月に各国の有力インフラベンダー、端末メーカー、通信事業者による業界団体「Rich Communication Suite(RCS) Initiative」が設立され、日本からもNTTドコモとKDDIが参画しているという。

RCS Initiativeでは、これまでは事業者をまたいで使えなかったインスタントメッセージングのようなサービスを、事業者・端末メーカーを問わず使えるようにすべく取り組む。EricssonではRCS Initiativeの仕様に基づいたソリューションを用意しており、電話機のアドレス帳機能を拡張する形で、アバターや相手の状態表示、チャットやファイル転送といった機能を提供していく。最初のクライアントソフトはSony Ericsson製携帯電話に搭載されており、今後他のメーカーや携帯電話以外の機器にも対応を広げていく。

RCS Initiativeには世界の有力ベンダー、事業者が参画

例えば別々の事業者に加入するSony EricssonとNokiaの携帯電話の間で、同じ付加コミュニケーションサービスを利用できるようにしていく

環境配慮型の"デザイン基地局"も

この日のセミナーでは、携帯電話基地局の消費エネルギー削減への取り組みについても説明された。基地局の消費エネルギーは携帯電話システム全体の3分の2を占めているといい、これをどう削減していくかが環境対応における大きな課題となる。

まず根本的な対策として、基地局の配置をより効率化することで局数を減らすという方法があるが、通信品質や無線ネットワークの容量を確保しなければならないので限界もある。そのため、基地局装置そのものの省エネ化が必要となるが、特に電力消費の大きいパワーアンプの高効率化が進められており、現在20~30%程度の電力効率を50%まで引き上げることを目標にしている。また、トラフィックの少ない夜間に省電力モードへ移行するタイプの基地局を開発し、この機能によって15~20%の消費電力削減を実現したという。

置局の効率化、装置の省電力化のほか、代替エネルギーの利用も検討。インドの事業者では、料理に使用した植物油を燃料として利用するといった試みも行われたという

エリクソンのネットワークを利用する加入者1名あたりのCO2排出量の推移

スウェーデンのデザイナー・Thomas Sandell氏によるデザインの「Tower Tube」。高さ40mで、根元はベンチになっている

また、従来の基地局は鉄塔が景観に与える影響が大きかったが、昨年発表した「Tower Tube」という名称の基地局は、なめらかなチューブ型のコンクリート製タワー内部にアンテナや各種装置を収容しており、公園の広場など人目に触れやすい場所に設置する場合にも違和感を抑えることができる。アンテナの直下に基地局装置を設置するため給電線での損失を最小限にできるほか、煙突型の構造としたことでファンなどでの強制冷却を行わなくても良いため、従来の鉄塔型基地局と比較して最大40%のCO2削減効果もあるという。

給電線が長くなるほど損失が大きくなるが、アンテナの直下に基地局装置を設置することでこれを最小化

従来の鉄塔型基地局は景観への影響が大きかったほか、セキュリティ用フェンスなどが必要だった