ボケをコントロールする3要素

「ボケ」というのは、簡単にいえば、ピントを外れた部分のこと。像を結ばずにぼやけたように見えるが、これが写真全体の印象を左右する。同じ構図でもボケの量によって全く違った作品になってしまう。特に花マクロ撮影では、ボケをコントロールして画面を構成することが多く、作品を作るときに重要な役割を担っている。

ボケの量は、「絞り値」、「焦点距離」、「被写体との距離」という3つの要素で、コントロールする。ボケの3要素については、通常の撮影でも同じことが言えるので覚えておくと作品作りで役立つだろう。

「絞り値」はF値が小さければ小さいほど、絞りが開くため被写界深度が浅くなり、ボケの量が多くなる。「焦点距離」は、焦点距離が長ければ長いほど大きなボケとなる。「被写体との距離」では、被写体に寄るほど背景は大きくボケる。また被写体と脇役(背景)との距離が離れれば離れるほどボケの効果は大きい。

ボケは柔らかい印象を与えることができる。しかし、大きなボケを作るときは、なにを見せたいか意図を持って撮影しないと、何を写したかわからない作品になってしまうので注意が必要だ。3要素を使いこなして、自分が表現したいイメージを作っていこう。

【絞り値によるボケの違い】

F2.8で撮影

F4で撮影

F8で撮影

F16で撮影

【焦点距離によるボケの違い】

180mmで撮影。ボケる範囲が大きくなり、背景はまとまっている

100mmで撮影。背景の被写体の形も残りボケの要素となる

50mmで撮影。背景が写り込む範囲が多くなり、ボケの効果も少ない

【撮影距離によるボケの違い】

100mmレンズで被写体から150cmほど離れて撮影

被写体から100cmほど離れて撮影

被写体から70cmほど離れて撮影

被写体から50cmほど離れて撮影

ボケの効果で被写体を引き立てる

ボケは背景をボカすだけではない。被写体の後ろをボカすことを「後ろボケ」というが、被写体の前にボケがある「前ボケ」も花マクロでは効果的だ。どちらも被写体を引き立てる効果を持っているが、効果的に使うには、ボケの形と大きさ、色を意識したい。例えば、淡い色の被写体を主役に見せたいとしよう。しかし、脇役に主役より目立つボケを持ってくると被写体が目立たなくなってしまうのだ。前ボケを利用して柔らかい画面を作ったり、後ボケを利用して背景をまとめたりすることで、主役を上手に引き立てよう。

また、ボケのひとつに「丸ボケ」と呼ばれるものもある。丸ボケは、被写体の前後に点光源を入れることで発生する光のボケだ。丸ボケを入れると幻想的な雰囲気を作り出すことができる。丸ボケを作るポイントは、絞り値を開放値にすること。絞り羽根の形がボケになるので、シャープなイメージにしたい場合は絞って角形のボケにすることもできる。点光源には、木々の隙間から洩れる光や水面反射などがある。

【被写体の前にボケを入れる前ボケ】

絞りF3.5で撮影。前ボケは主役の被写体の邪魔にならない被写体を配置しよう。前に置く被写体の色や形、大きさなどで印象は大きく変わる

左の写真と同じ位置で、絞りF32で撮影。主役の被写体と前ボケの被写体は50cm程度離れている

【被写体の後ろにボカす後ボケ】

絞りF2.8で撮影。背景をボケでまとめることで、手前の被写体を引き立てることができる

左と同じ位置で、F25で撮影。絞り値を絞ると背景がゴチャゴチャしていることがわかる

【点光源を生かした丸ボケ】

木陰のアジサイを煽って撮影。木々の間から洩れる光が、丸ボケとなって幻想的な雰囲気を作り出す

幻想的な柔らかい描写のソフトフィルター

マクロレンズのボケ味とは違う柔らかさを表現するものに「ソフトフィルター」がある。まるで霧の中にいるような幻想的な写真を演出することができ、人物写真から風景写真まで幅広いジャンルで使用できる。フィルター効果は、強すぎると被写体の良さを殺してしまうので、自然な印象を残す弱めのものを選ぼう。

ソフトフィルターのケンコー PRO1D プロソフトンA(W)

ソフトフィルターなし。通常の背景がボケた写真。見せたい部分にピントが合い、シャープな印象を与えている

ソフトフィルターあり。画面全体に霧がかっかったような、幻想的な柔らかい雰囲気を演出する