日本IBMと京都大学は、数百万レベルの車両をシミュレートするマルチエージェント交通シミュレーションシステムを共同開発したと発表した。

今回両者が共同で開発したシステムは、京都大学が人間ひとりひとりをエージェントとしてモデル化し、そのデータをIBMが開発したマルチエージェント交通シミュレータ「IBM Mega Traffic Simulator」にデータの一部として取り込み、シミュレーションを行うというもの。このシステムを用いると、数百万レベルの車両を使ったシミュレーションが可能だという。

システム全体の概要

京都大学大学院 情報学研究科 石田亨 教授

エージェントモデルを作成するにあたって京都大学では、被験者にドライビングシュミレータを運転してもらい、その後インタビューなどを行って、それぞれの状況においてどういった行動をとるかという、運動行動モデルを抽出する。この運動行動モデルは年齢、性別等を考慮して、できる限り多くのサンプルを取得する必要があるが、今回システムの開発あたった京都大学大学院 情報学研究科 石田亨 教授によれば、一人分のデータを取得するのに時間がかかることや、ドライビングシュミレータが現在、高速道路用のみで、市街地の運転データは取得できない等の理由もあり、取得データは数十人レベルに留まっているという。

日本IBM 東京基礎研究所の加藤整氏

「IBM Mega Traffic Simulator」には、エージェントの運動行動モデル以外にも、道路データ、エージェントがどこからどこに向かうかという起点終点データを入力する。日本IBM 東京基礎研究所の加藤整氏によれば、「起点から終点に向かうルートは複数あるが、現在どのルートを通るかというモデルができていない。シミュレーションの精度を上げるには、この部分のモデリングが必要」と述べた。

「IBM Mega Traffic Simulator」の概要

また、「IBM Mega Traffic Simulator」は、同社の大規模マルチエージェントシミュレーション環境「IBM Zonal Agent-based Simulation Environment」上で動作させるが、この環境ではシングルプロセスで数百万、クラスタだと1億以上のエージェントを動作させることができるという。また、今回の交通シミュレータのほかにも、排出権取引市場シミュレータ、オークションシミュレータ、避難誘導シミュレータが動作可能だという。

実際のシミュレータの画面(拡大)。格子状のものが道路で、赤や青の点1つ1つが1台の車両を表す

IBMでは、昨年10月に京都市において実施された社会実験「歩いて楽しいまちなか戦略」での交通量観測結果と、IBM Mega Traffic Simulatorのシミュレーション結果を比較したところ、良好な再現性を示すことが確認できたという。

京都大学とIBMでは、このシステムを渋滞解消や温暖化ガス排出抑制のための交通施策、さらに将来の少子高齢化社会に向けた都市計画の実現等のための評価システムとして活用したい考えだ。そのためIBMでは、今回の成果を整理、公開していくことを計画している。