――今のような人間圏の在り様そのものが、地球に優しくないわけですね。

「地球に優しいということは、地球システムから負のフィードバックを受けないということです。だとすれば、今の生き方を変えない限り、地球に優しくはできない」

――地球に優しく生きるには、根本的に生き方を変える必要があるんですね。

「『地球に優しい』とか皆さん言いますが、それは地球を知らない人の言葉です。地球にとっては、人間圏が拡大しようがどうということはない。過去にそんな変動は何度となく繰り返してるんだから。人間圏があろうがなかろうが、地球はあと50億年存続するんです」

――なるほど。

「本来、『人間圏に優しい』とか『人間圏が危ない』とか言うべきところを、"人間圏"という言葉も概念もない人たちが情緒的にそれを語っているだけのこと。僕に言わせれば"人間圏"を"地球"に置き換えてるわけで、とんでもないことです」

――私たちにとって好ましい状態でなくなるだけだと……。

「我々がいようがいまいが、どんなに環境を壊そうが、いられなくなるのは我々だけであって、地球にとっては全然問題ない。生物圏だって完全に絶滅するなんてことはない。過去のもっとすごい環境変化にも生物圏は生き残っているわけだから」

――そうですね。

「我々が生物圏の心配をしたり、地球のことを心配するというのは、我々の傲慢さの反映ですね。我々がすべてを支配しているんだと思い込んでる」

――地球環境問題を語るときに、しばしば"汚染"という言葉が「汚染は悪だ」いった意味で使われますが、これについてはどうお考えでしょう。

「汚染が悪だったら、地球環境の歴史は悪の歴史です。地球システムの構成要素が変わるたびに、汚染は起こる。汚染とは、新しい構成要素(物質圏)が誕生し、地球の上で物やエネルギーの流れが変わって、結果としてその影響がほかの物質圏に出るということ」

――新しい構成要素が出現すると、ほかの構成要素に影響が出るわけなんですね。

「例えば、大陸地殻は昔なかったわけ。それが海洋地殻、海の下の地殻から分かれて、40億年ぐらい前に生まれたんだけれども、これは軽いから海の上に顔を出す。するとそこに雨が降ると、侵食されて大陸物質が流されて海の中に入っていく。これは今ふうに言えば、海が汚染されたわけだ」

――それで、海の水が塩辛くなった……。

「ナトリウムとかカルシウムとか鉄とかマグネシウムとか。これが塩分の正体です。その結果、海は中和されたわけ。それ以前の海はもっと酸性だったと考えられます。中和されて、大気中に残っていた二酸化炭素が海に溶け込むことで、窒素主成分の今の大気に変わった」

――なるほど。

「生物圏が生まれたときだって、汚染は起こってる。具体的に言えば、地球大気中に酸素分子が溜まるということです」

――光合成を行う生物の出現によって……。

「光合成をする生物が生まれて、それが異常に増えたために、それまで窒素が主成分だった大気に酸素が溜まり始める。20%も溜まったのが、今の大気です。これは生物圏が誕生したことによる汚染です」

――そうですね。

「我々が今汚染を観測しているということは、人間圏という構成要素が地球システムに加わった、ということを目撃していることです。これが良いとか悪いとか論じようということ自体が、先程から言っているように人間の傲慢なんです」