中国では現在、トロイの木馬などのコンピュータウイルスの作成・流布から、ユーザーデータの窃盗、データ売却、資金洗浄(マネー・ローンダリング)にまで至る、役割分担のはっきりしたネット上の「闇産業チェーン」があるといわれる。その脅威は、一部の中小企業が、電子商取引の安全確保のため、一種の"みかじめ料"である「保護費」を定期的に支払わなければならないようになっているほどだ。本稿では、中国インターネット世界を脅かす闇世界「ウイルス産業」の実態について迫る。

「パンダの線香焚き」ウイルスで荒稼ぎ

「これこそ、不動産業よりも儲けが得られる暴利の産業だ」と言ったのは、「熊猫焼香(日本語訳は「パンダの線香焚き」)」というウイルスで大掛かりに稼いだといわれる王磊が、同容疑で逮捕された時に語った言葉だ。しかし、当時の人々は、まだそれをネット世界で起きた1つの出来事としか見ていなかった。

しかし、2007年を振り返ってみると、熊猫焼香だけでなく、「灰鴿子(日本語訳は「灰色の鳩」)」、「AV終結者」といったPCウイルスが次々に現れ、初心者でもこれらを容易に手に入れて黒客(ハッカー)の一員となり、ネットワーク上で盗みや強盗、詐欺を始めるという、恐るべき状況が現れ始めた。

(以下では、臨場感を増すため、ハッカーを中国語の「黒客」と表記する)

冒頭に述べたトロイの木馬とは、標的としたPCに正体を偽って侵入し、データの消去やファイルの外部流出といった活動を行なうプログラムのことをいう。ユーザー名やパスワードを盗むことにより、ユーザーの現実の資産、あるいはネットワーク上の資産を盗む。

末端価格が3億5千万円するウイルスも登場

2007年初めに猛威を振るったトロイの木馬、熊猫焼香は、たった2カ月で100万以上の個人ユーザー、ネットカフェ、企業イントラネットのユーザーなどに多大な損害を与えたといわれる。

熊猫焼香の作成者とされる李俊は、2007年2月に同容疑で警察に逮捕され、昨年9月に出た判決で4年の禁固刑を言い渡された。しかし、李の逮捕によっても、ウイルス産業の膨張を食い止めることはできなかった。むしろ、熊猫焼香は、その後猛威を振るった灰鴿子に比べれば、取るに足らぬものだったといえるかもしれない。

灰鴿子は2001年に登場したウイルスで、3年連続で「ワースト10ウイルス」のランキングに入り、アンチウイルスの専門家たちから、最も危険なウイルスだと称された。

灰鴿子の「2007バージョン」は、登場後まもなく、2007年3月に大爆発した。かなりの高額で取り引きされているようだが、それでもユーザーのデータを盗むことで得られる"闇の利益"の規模を考えてか、相当数が売れたとされる。そして今も、灰鴿子のさまざまな亜種がネットワークに危害を与え続けている。