総務省の情報通信審議会 情報通信政策部会「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」はこのほど、第31回会合を開き、放送コンテンツの二次利用促進を図るための取引市場データベース(DB)に関する議論を行った。だが、同委員会委員で、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ(DMC)統合研究機構教授の中村伊知哉氏は「リスクとコストを負担して、取引市場の創設を希望する者はいるのか?」と、今後の議論にやや悲観的な見方を示した。

放送コンテンツの取引市場に関しては、同委員会の「取引市場ワーキング・グループ(WG)」が昨年9月から今年1月まで、8回にわたって議論を行ってきた。同WGの主査でもある中村氏は、取引市場DBに関する概観と今後の議論の進め方について、同WGでの議論の中間報告的な意味を含めて、今回の委員会で発表した。

政府の経済財政諮問会議や知的財産戦略本部では、過去のテレビ番組の再放送が著しく制限されているなど、日本の貴重なデジタル・コンテンツの多くが利用されずに死蔵されており、その原因として、著作権、商標権、意匠権などの全ての権利者から事前に個別に許諾を得る必要があることなどが指摘されている。

その上で、デジタル・コンテンツ市場を飛躍的に拡大させるため、全ての権利者からの事前の許諾に代替しうる、世界最先端のデジタル・コンテンツ流通法制を2007年から2年以内に整備すべきと提言している。

こうした提言を実現させるための制度について、中村氏は、同WGで「取引市場DBの構築というアプローチは?」と提言。同DBに関するこれまでの議論について、以下のような点が論点となっていると説明した。

  • どのような市場において、誰が、どのような放送コンテンツを欲しているのか
  • 上記の市場は、既存の放送コンテンツの市場と競合しないのか

さらに、こうした議論の中でも、権利情報の集約と公開の推進による取引市場形成を具体化するには、以下の点のさらなる検証が必要だと強調した。

  1. リスクとコストを負担して、取引市場の創設を希望する者がいるのか
  2. 「取引市場データベース」のバリエーションの検証
  3. 「取引市場データベース」に係る「トライアル」の選択肢の整理

ここで中村氏は、1の点に関し、「ニーズがなければ、官が関与して、『相対取引』の現状を変える必要はあるのか」と、取引市場WGの主査ながら、取引市場そのものの実現に関し、やや悲観的な見方を示した。

これに対し、慶應義塾大学DMC機構准教授で、デジタルメディア協会(AMD)参与の菊池尚人氏は、「『相対取引』を脱し、製作者、サービス事業者の両方の選択機会を拡大する上でも、取引市場データベースは必要」と強調。「ネット機能付きテレビが開発されるなど、テレビですら放送のみの窓口でなくなってきている現在、放送コンテンツの二次利用促進はぜひとも必要」と述べた。

また、権利者を代表して検討委員会に参加している、委員で日本芸能実演家団体協議会常任理事の椎名和夫氏は、「確かに権利処理のコストはかさむが、(今日同委員会で二次利用促進への希望を表明した東北新社や『Yahoo!動画』を運営するTVバンクなどの)放送コンテンツの二次利用を望む人が及び腰では、流通の拡大は困難だ。二次利用を望む事業者らがYouTubeの問題などを解決し、自ら動かないといけない」と述べ、今後の議論に期待を示した。