ウィルコム 執行役員 開発本部長 黒澤泉氏

mobidec2007でウィルコムは、次世代PHSへの取り組みについて執行役員開発本部長の黒澤泉氏が説明した。

黒澤氏は、PHSは世界で約1億人が利用しており、利用者数ではGSMとCDMA(cdmaOneおよびCDMA2000)に次ぐ世界3位の通信方式とアピール。その特徴はマイクロセル。通常の携帯電話ではひとつの基地局で半径約2kmの範囲をカバーしているが、PHSは半径数百mしかカバーしないため、基地局が密集している。携帯電話では綿密なエリア設計に基づいて基地局を配置しないと電波の干渉が起きるが、PHSはコードレス電話の技術が元になっており一定の干渉を自律的に回避できるよう設計されているので、トラフィックが多いエリアに集中して基地局を設置できる。これにより、基地局ごとに細かくトラフィックを分散できる。

このPHSの特徴を最大限に活かして高速化を実現したのが、次世代PHSとなる。既存のPHS技術に加え、無線LANやモバイルWiMAXなどで採用されているOFDMAやMIMO技術を使用。要素技術はWiMAXと共通で、多くの部品をWiMAXと共用できるようになっているため、低コストで部品が用意できるとしている。

次世代PHSは、既存のPHSの技術をベースにWiMAXでも採用されている最先端技術を組み合わせて作られている

WiMAXとの大きな違いは想定するセルのサイズなどで、次世代PHSはやはり現行PHSと同じくマイクロセルに対応している。次世代PHSでは上り下りのデータ通信を2.5msごとに交互に行っており、これも現行と同様。一方WiMAXでは下り3.3ms上り1.7msの時間を割り当てている。また、制御チャンネルでは次世代PHSが専用制御チャンネルを設定しているのに対して、WiMAXは全帯域に制御チャンネルを配置している。部品は共用できても、このような細かなパラメーターは、基本的な思想が違うため変える必要があるのだ。

基本となる技術はWiMAXと似ているが、電波の利用方法で細かな点が異なる

ウィルコムでは次世代PHSを生かすために、すべてのバックボーンのIP化を推進中。もともとバックボーンにはISDNを利用していたが、2001年に独自のものに変更することで256kbpsのパケット通信を実現した。2006年にはW-OAM対応の基地局を設置することで通信速度を512kbpsまでアップしており、2009年以降はすべてをIP化することで次世代PHSにも対応し、次世代PHSのサービスでは通信速度を20Mbps以上にする予定だ。現行PHSと次世代PHSのデュアル端末を用意することで、次世代PHSのエリアが限定的になるサービス開始時でも、次世代PHS対応端末を全国で利用できるようにするという。また、W-SIMを活用することで、誰でも参加可能なオープンな環境を用意する。

ITUへの標準化活動も進んでおり、次世代PHSはBWAのひとつとして既に勧告化されている(ITU-R M.1801)。PHSの標準化団体であるPHS MOUでも標準化作業が完了し、ARIBでの標準化も推進している。ただし、次世代PHSサービスを実現するためには総務省からの2.5GHz帯事業免許取得が必須となる。ウィルコムではこの免許取得のために努力を惜しまないとしている。