欧米でビジネスパーソンのマストアイテムといえば、今でも「BlackBerry」が挙げられるだろう。そのくらい、数年前に大ブームとなったBlackBerryは、ビジネスユーザーの日常に完全に浸透している。そのBlackBerryを提供するカナダResearch In Motion(RIM)を創業したMike Lazaridis氏が、BlackBerryの成功について語った。キーワードは「徹底したフォーカス」といえそうだ。

RIMを学生のときに創業したMike Lazaridis氏。慈善家としても知られる

RIMを創業し、現在社長兼共同CEOを務めるLazaridis氏は10月17日、英ロンドンで開催されたイベント「Smartphone Show 2007」(主催:英Symbian)にて基調講演を行った。テーマは、スマートフォンの受け入れをさらに加速するためにはどうすればよいか。その答えは、「カタリスト(触媒)を理解すること」という。

BlackBerryは、エンタープライズという特定分野に絞り込んだ携帯端末だ。サーバ「BlackBerry Enterprise Server」とセットで導入することで、企業の電子メールをプッシュ形式で受信できる。このプッシュ電子メール機能が、欧米での人気に火をつけた。

携帯端末「BlackBerry」 - 今年7月には、Wi-Fi/GPSにも対応した「BlackBerry 8820」が発表された

Lazaridis氏は「フォーカスは企業市場。約10年間、一貫してこの市場にフォーカスしてきた。これがRIMの成長に繋がった」という。現在、同社の四半期の売上高は10億ドルを上回る規模で、年間成長率は100%以上。従業員は7,000人を超えたという。規模が大きくなればなるほどフォーカスを強めるよう意識しており、ユーザーのエクスペリエンスの全要素を分析しているという。

RIMは急成長を続けている

BlackBerryがエンタープライズ分野で成功した理由について、Lazaridis氏はまず、「ユーザーが何をしているのかにフォーカスした」という。大切なことは、今あるものをリプレース(置き換え)しないこと。そこで、「Microsoft Exchange」「IBM/Lotus Domino」などの主要な電子メール/PIMシステムをサポートし、既存システムの拡張、あるいはコントローラーとなるように製品を位置付けた。「BlackBerryは単なるガジェットと思われているが、ソフトウェアが機能の実現に重要な役割を果たしている」とLazaridis氏。

このほかに強化したことが、インターネットとWeb分野だ。プラットフォームの持つ特徴を生かし、SAP、Oracle、Javaクライアント、.NETなどの異なるサービスでワイヤレスプッシュ機能、安全なブラウジング機能を提供した。

また、ビジネスユーザーにとって重要な機能であるインスタントメッセージングについては、管理、セキュリティなど要件が厳しいため、エンタープライズ級のメッセージングシステムをサポートした。そのほか、音声システムへの対応も強化、レガシーPBX、IP PBXなどをサポートした。

次に、RIMが行ったことは、BlackBerryサービスが利用できる端末の選択肢を拡大することだ。そこで開始したのが、オペレータ、端末ベンダーらと提携し、BlackBerry機能を統合する「BlackBerry Connect」プログラムだ。現在、NokiaのEシリーズなど45以上の対応機種があり、今年だけで25機種が投入されたという。また、「BlackBerry Application Suite」もリリースする計画だ。これはインストールモデルをとるもので、端末にインストールすることでBlackBerryのアプリケーションを運用できる。まずは「Windows Mobile 6.0」向けにリリースする予定だ。

モバイルアプリケーションについて、Lazaridis氏は、企業内にあるカスタムアプリケーション、SFAやCRMなどのフロントオフィス、電子メール・イントラネットアクセスなどに、顧客は高い価値を見出しているという。「企業は、従業員の生産性があがるものであれば対価を払いたいと思っている」とLazaridis氏。そこで、同社はまずSAPと提携し、SAPアプリケーションをBlackBerryでも利用できる「SAP Mobile Business Solution」を実現した。

ここでも、RIMは最初の戦略にフォーカスした。リプレースではなく拡張――デスクトップをリプレースするのではなく、デスクトップで利用する機能をBlackBerryに拡大すること。しかも、自然でシームレスな形でできるようにし、容易な実装や信頼性にも配慮した。

SAPの成功を受け、「Cognos 8 Go !」「Salesforce.com」などの業務アプリケーションがBlackBerryで実装できる。これ以外にも、IT管理者向けの「idokorro」、弁護士など法務専門家向け「Interwoven Worksite Mobile」などもある。ユニークな事例は、GPSレシーバーを利用した「Telenav」だ。ここではアドレス帳と統合し、コンタクト先をクリックすると地図情報を表示するようにした。ナビゲーション専用端末をリプレースするのではなく、ユニークなエクスペリエンスを提供する、とLazaridis氏。

RIMは先日、セキュリティ国際評価基準「Common Criteria」の認定を受けた。モバイルソリューションとしては初であり、唯一という。「これにより病院などのヘルスケア、バイオ、防衛など大きなチャンスがひらける」と見ている。

BlackBerryの戦略と成功を紹介した後、Lazaridis氏は「スマートフォンが市場に受け入れられるためには、カタリスト(触媒)となるものを理解することが大切」と繰り返す。特に、スマートフォン、PDAなどの複雑で高機能な端末の場合は重要という。「スマートフォンは現在、自然な進化を遂げている。だが、カタリストを理解すれば、実際の受け入れは加速化する」とLazaridis氏。「ビジネスユーザーはコンシューマでもある。ビジネスユーザーが使うことは、広告より効果的だ」とLazaridis氏は締めくくった。