さて、最初の問いに戻ろう。インドの宇宙開発の成功の秘密はどこにあるのか。

「発展途上国の宇宙活動における社会経済的ベネフィット」のセッションで発表していたジョージワシントン大学のジェイソン・ヘイ氏らは、インドの宇宙開発の強さの理由について、以下のように分析する。

「インドの宇宙プログラムは、経済発展に貢献し、実用的な目的を持ち、科学技術インフラを構築することが中心となっている。また、インドの場合、伝統的に教育を重視していること、植民地だったので自立の意識が強いこと、軍備のため飛翔体のニーズが強いこと、安全保障の意識が強いことなどが宇宙開発への内的な動機付けとなっている」

つまり、インドでは、宇宙開発をする動機がもともとあるうえに、通信衛星や災害監視など、衛星を打上げることが国民の生活向上に直結しているのである。国土が広くて地上インフラが発達していないので、衛星を上げればとても役に立つ。教育用衛星EDUSATにより、地方の学校でもテレビを通して、都市と同じレベルの教育を受けることができるようになりつつある。こういう国では、衛星は生活に必要不可欠なものといっても過言ではない。

インド宇宙研究機関(ISRO)のマドハバン・ナール長官によれば、「インドは10年以内にロケット打上げ大国となる。失敗の確率はいまのところ10%で、それでも十分だが、じきに5%まで減らし、10年以内に1%を切るだろう」ということだし、打ち上げ本数も年間5本は上げたいとのこと。インドの宇宙予算は年間で1,000億円程度ということだから、日本の宇宙予算の半分以下。物価と賃金が安いとはいえ、この予算で2万人のスタッフを擁している。自前の宇宙開発に固執しつつも、お金のかかる月ミッションのような場合は、海外と提携して資金も出してもらうなど、柔軟な姿勢も持っている。

国の重要な事業としての位置づけが宇宙開発にあり、軍備・国民の福利・技術開発などのすべての観点から見て、宇宙開発を推し進めるべきだというコンセンサスが得られるような状況がインドにはある。

しかし、それだけではない。最後に、未来のインドの宇宙開発を担っていくであろう若い方の声を紹介しておこう。ISROは今回56名の学生をIACに派遣したが、そのうちの6名はノミネートされての派遣。アムラット・ヤラギさんは16歳のとき、リモートセンシングに興味を持ち、ISROにコンタクト。そこで親切に教えてもらって以来、宇宙にずっと関心を持って勉強を続けており、今回はノミネートされての参加。

アムラット・ヤラギさん バンガロールで物理を学ぶ大学院生

「宇宙は、普通の人たちみんなにとっての資源なんです」

彼は、真顔でそういった。そういえば、ベローの学生たちもそう言っていた。そう信じることで、そうなっていく。インドの宇宙開発の強さは、哲学的なバックボーンにも支えられているのかもしれない。