このように、1人のハッカーの単純な動機からスタートしたマッシュアップだが、いまでは次世代Webアプリケーションの標準的な開発スタイルとして、広く利用されている。自身で一から部品を積み上げなくても、既存の他社が提供するWebサービスを組み合わせることでリッチなアプリケーションが開発できる。このプロセスを単純にしようというのが新ツールの「Mashup Editor」の狙いだ。基調講演で紹介されたデモではGoogle MapsにGoogle Baseの検索データを連動させる仕組みを、わずか数行のコーディングで実現した。

Google Mashup Editorについて解説する米GoogleのPaul McDonald氏

マッシュアップとともにHuber氏が重要なアイテムとして紹介したのが「ガジェット」だ。ガジェットはiGoogleやGoogle Desktop上のアイテムとして配置できるほか、自身で作成したWebページ、Google Page Creatorなど、さまざまな場所で利用できる。自作のガジェットが人気作となって多くの人に利用されるようになれば、自身のサービスへ人々を誘導するきっかけとなるだろう。壇上のデモではパックマンやToDoリストなどの人気ガジェットが紹介されたほか、商業サイトの好例としてExpediaの航空運賃カレンダーが挙げられた。

Mashup Editorの基本画面。ここでコードの編集を行いつつ、Sandboxでプレビューで内容を確認する。画面の例は、Google MapsにGoogle Baseの検索機能を組み込んだところ

「Reach」のカテゴリの例として、ガジェットを紹介。人気ガジェットは利用される率も高く、使い方しだいでは自身のプロモーションやさらなるビジネス機会につながるものとなる。写真の例は、ガジェット版パックマン、ToDoリスト、Expediaの航空運賃参照カレンダー

こうしたガジェットは「Reach」のアイデアを実現する1つの要素だと同氏は強調する。これをさらに広げるためのツールの1つが、すでに他のGoogle Developer Day会場でも発表されている「Mapplets」だ。MappletsはMaps APIを拡張したもので、Gadgets APIとの連携を可能にする。これにより、Google Maps上に作成したガジェットを埋め込むことができ、Google Mapsを通して自身のサイトやコンテンツへと誘導できる。

発表されたばかりのMappletsの活用例。ホテル検索アプリケーションに、さらにターゲットのホテルの近くにあるレストランを検索するツールを埋め込む

また最後のカテゴリである「Build」についてHuber氏は、Google Web Toolkit(GWT)を例に挙げた。実装が複雑なAjaxのJavaScriptの記述を、部品コンポーネントの組み合わせやJavaによるコーディングで簡単に行えるようにするGWTは、すでに100万以上がダウンロードされており、Googleのツール製品の中でも人気が高いと同氏は説明する。このような基本的なシステム実装を簡単にするツールの1つとして紹介されたのが「Google Gears」だ。

既存のWebアプリケーション最大の弱点。それはオフラインでの利用。Google Gearsはこの問題を解決する

Mapplets同様にすでに発表済みのGearsだが、特にオフラインの重要性という部分にフォーカスを当てて紹介された。Huber氏は「(すでにGearsに対応済みの)Google Readerだけでなく、GmailやCalendarなどもすぐに対応してほしいものだ」と述べ、Googleの主力サービスがオフライン/デスクトップの世界にやってくることを促した。また壇上には米AdobeのKevin Lynch氏が登場し、恒例のApolloによるリッチインタフェースやWebアプリケーションのオフライン/デスクトップ動作の実演デモを行った。

Google Readerを使ったGearsのデモ。オフラインモード移行前にデータをいったんキャッシュし、完了後はオンラインのときと同様にデータを読み出せる。また再びオンラインになったときには接続状態を自動認識し、サーバとシンクロして差分を読み込む

興味深いのは、Googleしかり、Salesforce.comしかり、Adobeしかり、Webアプリケーションの世界で活躍する企業がWebアプリケーションの問題点について、共通の認識を持っていることを再確認できた点だ。GoogleやSalesforce.comら新興企業が自身のWebアプリケーションをいかにデスクトップやオフラインの世界へと持ち込もうかと試行錯誤している一方で、Microsoftのような従来型ソフトウェア企業は自身のデスクトップ・アプリケーションをいかにWebになじませるかに腐心するという真逆のアプローチをとっている。どちらが正しい姿かはわからないが、行き着く先はどちらも同じなのかもしれない。

Google Gearsのようなオフライン/デスクトップでのアプリケーション利用については、Opera、Mozilla Firefox、そしてAdobeとの提携を行っている

米Adobeシニアバイスプレジデントで、プラットフォームビジネス部門チーフソフトウェアアーキテクトのKevin Lynch氏。先日開催されたWeb 2.0 ExpoやSalesforce.comの開発者カンファレンスのときと同様、Apolloによる多彩なデモを披露

米Google Developer Dayのまとめ。Gears、Mapplets、Mashup Editorの3つの新ツールが発表された

講演の最後には共同創業者の1人のSergey Brin氏が登場