アップルのスティーブ・ジョブズは、生前「テレビの再定義」を考えていたという。それがどういうものかはまったくわからないが、ごく大雑把に言って「iPadを大きくしたもの」に近いイメージだと思われる。テレビ放送とネット機能をいかに上手く組み合わせるか、そこが鍵になることは間違いないだろう。
すでに現在のテレビでも、ネット接続をすることで、使い勝手はガラリと変わる。もっとも大きいのは「アクトビラ」や「Hulu」などの映像オンデマンドサービスが使えるようになることだ。従来は、週末にレンタル店で映画やドラマのDVDやブルーレイディスク(BD)を借りてきて楽しむというのが定番パターンだった。だが、オンデマンドサービスを利用すれば、レンタル時や返却時に店舗に足を運ばずともドラマや映画を楽しめるようになる。
自宅をマルチメディアコンセントにしたいという方は、パナソニック電工の「配線計画」のサイトを見ておくことをおすすめする。マルチメディアコンセント(商品名はマルチメディアポート)の選び方について、詳しい解説と案内がある。すでに光インターネット回線にも対応している |
このようなオンデマンドサービスを利用するには、テレビがインターネット接続されていることが前提だ。しかし、この「テレビにネット接続」が意外と難しい。というのは、日本の伝統的な家屋の考え方では、電話系の端末は部屋の入口近く、テレビおよび録画機器などのテレビ周辺機器は部屋の奥というのが定番の配置だったためだ。「サザエさん」に登場する磯野家でも電話は玄関近くの廊下に置かれているし、今でも電話コンセントが廊下の壁に設置されている住宅は多い。このため、多くの家ではインターネット回線をテレビに接続しようと思えば、部屋の入口近くにインターネットルーターを置き、そこから部屋の奥にあるテレビまでLANケーブルを接続することになってしまう。
もちろん昨今ではこのような感覚も徐々に変わってきてはいるが、それでも電話系コンセントとテレビ系コンセントの位置が離れていることは多い。このようなコンセントをひとつにまとめようと「マルチメディアコンセント」も販売され始めているが、壁内配線をやり直さなければならないため、実際には「新築時でないと工事が難しい」「価格が高い」などの壁にはばまれて、普及はまだまだこれからだろう(条件によって価格は異なるが、一戸建ての場合は20万円以上かかることが多いようだ)。
経済的に余裕があって、家を新築ないしは改築し、マルチメディアコンセントを配備できれば申し分ないが、テレビのために家を建て直すなどという人はいない。かといって、部屋の中をLANケーブルが這いまわっているのはイヤだという場合は、ワイヤレス接続を選ぶのが得策だ。
ワイヤレス環境を手に入れる方法はいくつかある。
- Wi-Fi機能内蔵テレビを購入する
- Wi-Fi機能内蔵レコーダーを購入する
もし現在、テレビやレコーダーの購入を考えているのであれば、ぜひともWi-Fi機能を内蔵する機種を検討すべきだ。特に、レコーダーをワイヤレス化しておくと、家中のどのテレビからも、レコーダーに録画してある映像を再生できるようになる。リビングのレコーダーで録画したニュースを寝室の小型テレビから観たり、録画してある料理番組をキッチンのテレビから観たりできるのだ。
といってもアナログ停波が完了したばかりの今、テレビもレコーダーもしばらくは買い換える予定はないという人も多いだろう。それでもワイヤレステレビ化はできる。しかも、追加出費は2万円程度で済む。テレビ用のWi-Fi子機を購入してきてテレビに接続すればいいのだ。
ただし、あらかじめチェックしておいた方が良いことがあるので、そこを紹介してみたい。
- 1 【テレビまたはレコーダーがオンデマンドサービスに対応しているか?】
当たり前だが、対応機種ではないテレビをネットに接続しても意味がない。アクトビラに関してはほとんどのテレビが対応していると思うが、古い機種だとアクトビラの動画サービスには対応していない場合がある。また、Huluなど最近登場したオンデマンドサービスに対応している機種は、まだそう多くはない。取扱説明書をもう一度引っ張り出して、自分のテレビやレコーダーがどのサービスに対応しているかを確認しよう。取扱説明書を紛失してしまった、どこにしまったかわからないという場合は、メーカーのサイトにいけば、PDF形式の説明書がダウンロードできることが多い。
- 2 【自宅のインターネット回線の速度は十分か?】
光回線を導入している場合は問題ないが、ADSLなどでは映像を送信するのに十分ではないこともある。自宅のインターネット回線がどのくらいの速度がでているかは、ADSLプロバイダーのサイトにいけば、計測コーナーが用意されている。一般的には、標準画質で6Mbps、ハイビジョン画質で12Mbps程度必要といわれている。ただし、実際にはある程度映像を読みこんでから再生する(バッファリング)などの工夫がされているので、多少下回っている程度であれば問題はない。
インターネット回線の速度テストが可能なサービスは、「ブロードバンドテスト」などで検索すればすぐに見つかる。ただし、測定方法もさまざまなであり、一度の測定ではなかなか正確な値はでない。あくまでも目安と考えておくべきだ。LANケーブルで接続しているパソコンから測定して、12Mbps以上の値が出るのであれば、ワイヤレステレビ化してもハイビジョン動画の観賞にも十分だ |
- 3 【すでに使っているルーターは最新のものか?】
この3つめの条件がちょっと面倒なところ。Wi-Fiルーターには、対応している規格というものがある。細かいことを知る必要はないと思うが、IEEE802.11nという規格に対応していることが重要だ。要は、この11n規格でないと転送速度が遅く、ハイビジョン映像を送るには荷が重いのだ。また、同じ11n規格でも、スピードがでない製品もある。いろいろ技術的なポイントはあるが、11n規格がなぜ高速で無線通信できるかというと、もっとも大きいのは4チャンネル同時使用できることだ。つまり、1つの映像を4本の回線で同時に送ることで高速通信が可能になるのだ。製品の広告などには「デュアルチャンネル」「ワイドチャンネル」などと表現されている。しかし日本では電波法の規制があり、2007年6月まではこのワイドチャンネルが利用できなかった。そのため、2007年6月以前に発売されていたWi-Fiルーターは、11n規格対応といってもワイドチャンネルが利用できない。また、現在でも価格面を抑えるために、11n規格対応ルーターといってもワイドチャンネルではないものもある。
つまり、5年ほど前にWi-Fiルーターを購入したのであれば、最新のルーターに買い換えた方が無難というわけだ。現在、Wi-Fiルーターは1万円強が相場だ。
ただし、ここはあまり神経質にならなくて良いかもしれない。というのは、ルーターとテレビの位置関係により通信速度は大きく左右されるからだ。環境がよければ、古いルーターでも問題ない場合が多いので、まずはテレビをワイヤレス接続してみて映像が頻繁に途切れるようであれば、その後でルーターの買い換えを検討しても遅くはないからだ。
この3点に注意していただければ、あとはWi-Fi子機を購入してきてテレビに接続し、設定を行うだけでOKだ。Wi-Fi子機はLAN端子に接続するものとUSB端子に接続するものの2種類がある。次回は、この子機と設定の仕方の注意点についてご紹介したい。
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