ソニーが4月に発売したオープンエアー型ヘッドホン「MDR-MA100」。店頭では、1,980円程度で販売されているケースが多いが、ただの低価格ヘッドホンというわけではない。オープンエアー型らしい、拡がりのあるサウンドを楽しませてくれる1本だ。

筆者がメインで使用していたヘッドホンは、エレガというメーカーのDR-592C2というモデルだ。これは、モニターレプリカとでもいうべき分野の製品で、優れた定位と高い解像度をもった密閉型ヘッドホンだ。その反面、音の拡がりに乏しく、高域の伸びはあまり感じられないし、低域もそれほど出るわけではない。いわゆる、現代的ではないモニターヘッドホンを、少しだけコンシューマ向けに味付けしたというような製品なのだ。デザインは少々無骨で、側圧は最近のヘッドホンと比較するとかなり強い。

かなりレトロなヘッドホン「DR-590C2」

確かに、DR-592C2はメインのヘッドホンなのだが、いつもそればかりを使用しているというわけではない。例えば仕事中に音楽を聴いたり、深夜にテレビを観たりするときに、こんな大袈裟なヘッドホンを使用するのはばかげている。そういった用途向けに、2年ぐらい前から、JVCケンウッド(当時は日本ビクター)の「HP-X73」というモデルを使用していた。HP-X73は、購入した当時でも2,000円もしなかった(と記憶している)ほど低価格なヘッドホンだ。軽量な密閉型のヘッドホンで、長時間使用していても負担にならない掛け心地で、密閉型なのに音の籠もった感じが少なく、中高域もバランスが良い。なかなかコストパフォーマンスが高い製品だ。

壊れた「HP-X73」の代わりに購入したのが、この「MDR-MA100」。質感は、価格ほどには低くない。大型のハウジングは上位モデルと変わらないし、ハウジングバックのメッシュ部分も同様だ

ところが先日、バッファローの「ゼン録」のレビューのために、機器の配置換えをしている際に、誤って踏みつけ、壊してしまったのだ。というわけで、その代わりとして何を使おうかと思っていたところ、ちょうど良さそうなモデルが発売された。ソニーの「MDR-MA100」だ。メーカー機能小売価格は2,468円だが、同社のショッピングサイト「ソニーストアicon」での販売価格は、5月14日時点で1,980円となっている低価格モデルだ。低価格モデルではあるが、価格を下げた犠牲として音質が悪くなっているわけではない。

MDR-MA100は、ソニーが4月に発売したオープンエアーヘッドホン5モデルのうちの1つだ。各モデルについては、ニュース記事を参照して欲しいが、残念ながらこの記事では、MDR-MA100についてはあまり触れられていない(筆者自ら書いておいて「残念ながら」も何もないのだが……)。というのもMDR-MA100は、シリーズのローエンドに位置するモデルで、上位機種に比べると、目を惹く技術や機構が採用されているわけではないからだ。

それはさておき、ここで4製品の全体的な特徴を簡単にまとめると、オープンエアー型でありながら、低域が出るヘッドホンということになるだろう。もちろん、同社の「MDR-XB1000」のように、何を聴いてもクラブサウンドにしてしまうような強力なチューニングが施されているわけではない。オープンエアータイプならではの音の拡がりとバランスをキープしたまま、低域再生能力を向上させているのが特徴だ。

「MDR-MA900」は、新開発の70mmドライバーとアコースティックバスレンズと呼ばれる、低域を中心に集中させる機構によって、低域再生能力を高めている。「MDR-MA500」以下のモデルは40mmドライバーだが、MDR-MA500と「MDR-MA300」はフレキシブルイヤーメカニズムを採用している。耳乗せタイプのヘッドホンでは、ハウジングが動き、ユーザーの耳にフィットする。それに対して耳を覆うタイプのヘッドホンでは、ドライバーの角度は固定されている。フレキシブルイヤーメカニズムは、人によって異なる耳の角度にあわせて、ハウジング内でドライバーの角度が動くというものだ。これも低域の再生能力を高める構造だ。

MDR-MA100にはそういった機構は採用されていないが、よく見てみると、ドライバーが斜めに配置されていることがわかる。これが、限定的にではあるが、低域再生能力を高めているのだろう。また、使用されているドライバーは、MDR-MA300と同じものだ。

4モデルのうち、MDR-MA100とMDR-MA300がフェライトマグネットで、MDR-MA500とMDR-MA900がネオジウムマグネットを採用している。

イヤカップの内部でドライバーが斜めに取り付けられている

一般的に低価格なヘッドホンでは、コード部分もそれなりのものになってしまうのだが、MDR-MA100のコードは、直径約3mmと、このクラスとしては太い。この太さのおかげで、放っておいても、コードは絡まりにくい

筆者は、プレス向けに行われた商品説明会に行っており、そこで、実際に4製品の音を聴いた。各モデルを比べてみると、MDR-MA500と300の音色は比較的近い。一方、MDR-MA100は、MDR-MA500とMDR-MA300には似ていない。どちらかというとMDR-MA900に近いサウンドだ。使用しているマグネットの差よりも、フレキシブルイヤーメカニズムの有無の差のほうが、影響が大きいようだ。

もちろん、ほとんどの面で、MDR-MA100はMDR-MA900のレベルに届いていない。しかし、それはMDR-MA900と比較したからであって、もし、そうでなかったら、それはそれで問題だろう。MDR-MA900は別格なのだが、MDR-MA100はMDR-MA900の廉価版といった品質に仕上がっている。実際、説明会で音を聞いて、一番驚かされたのが、このMDR-MA100のサウンドのクオリティの高さだった。

というわけで購入したMDR-MA100だが、方式の違いとドライバーのサイズの違いがが影響しているのか、今まで使用していたHP-X73よりも、ボリュームを上げ気味にしなければならないとか、これからの季節は耳全体を覆うタイプのヘッドホンは、やはり暑いだろうなぁ……といった細かいことは気にせずに、オープンエアー型に特有の、自然でワイドなサウンドを筆者は楽しんでいる。

ヘッドバンドの調節部分がとがっていて、頭に当たると痛いというのも問題といえば問題だが、気にしない

さて、ヘッドホンは密閉型ばかりを使用しているという人は、比較的多いのではないだろうか。何といっても、公共交通機関内で使うことを考えたら、密閉型を選択せざるを得ない。しかし、密閉型のヘッドホンのサウンドに慣れていると、拡がりがありヌケのよいMDR-MA100のオープンエアーらしいサウンドは、非常に新鮮に聞こえるはずだ。MDR-MA100は低価格ではあるが、十分にオープンエアー型ヘッドホンの良さを感じさせてくれるヘッドホンである。メイン用途で1本持っておく密閉型ヘッドホンに加えて、さらにもう1本持っておくのであれば、この手軽なMDR-MA100はなかなか面白いヘッドホンだ。