人生における住まいのコストは、暮らし方で大きな差がつきます。おひとりさまが住まいを選択するときに、押さえるべきポイントとは?

おひとりさまの住まいについて考えよう!

暮らしていくために必要な要素として、「衣・食・住」が挙げられるが、もっともコストがかかるのが住と言えるだろう。自分で家賃を払ったとすると、例えば月々6万円として1年で72万円、20歳から80歳までの60年間では4320万円にもなる(敷金、礼金、更新料や家賃の値上がりなどは考慮せず)。一方、家を買うとなると、場所や築年数により価格は異なるが数千万円程度はかかる。

だたし、おひとりさまの場合、特に若い時期は親と同居していて、自分で負担する住のコストはゼロという人もいるだろう。とはいえ一生、コストゼロで住むことはほとんど不可能だ。今回は、おひとりさまと住まいについて考えたい。

おひとりさまの住宅すごろくは?

おひとりさまの住み替えには次のようなパターンが考えられる。

その1、ずっと、あるいは最終的には親の持ち家に住む

親が健在な間は同居し、亡くなった後も、1人っ子であるため、あるいは兄弟姉妹との話し合いがまとまり相続して住むことができるケース。いったん実家を離れて賃貸に住み、最終的には実家に戻って住むケースも含む。このパターンは、もっともコストが安く済む。当たり前のことだが、家賃がかからない。ただし、場所によっては相続の際に相続税がかかる人もいるかもしれない。また家が自分の名義になった後は固定資産税の負担が生じる。親の家ということは、築年数が立って古くなっているはずだ。気持ちよく住み続けようと思ったら、家のメンテナンス費用、リフォーム費用などを自分で出す必要がある。家賃がかからない分を貯蓄や投資に回し、金融資産を持っておきたい。

その2、賃貸で1人暮らし

親の家を出て賃貸で1人暮らし。そのままずっと賃貸に住むパターン。

その3、購入して1人暮らし

親の家を出て自分で家を購入。または、しばらく賃貸に住んだ後、購入するパターン。

その2とその3については、家賃がいくらか、買う家がいくらかにより、コストは大きく違ってくる。賃貸と持ち家、おひとりさまにはどっちがふさわしいのだろう?

持ち家と賃貸はどっちが得?

永遠のテーマとも言えるのが、持ち家と賃貸はどちらが得かという話だ。土地の値段、住宅ローンの金利と借入額、家賃などの条件設定により、どちらが得かという試算の結果は違ってくる。だから、最終的には自分の好みで決めるしかない。場所にもよるがトータルのコストは、実はあまり変わらないという試算結果もある。私自身は、土地の価格が安い地域で、相続税を払わずに子どもに相続させることができるなら、買った本人よりも子どもにとって得だと考えるが、一生おひとりさまなら、家を買っても相続させたい子どもはいない。おひとりさまの場合、住まいはあくまで自分が生きている間に使う空間としてとらえた方がいいだろう。その上で、持ち家と賃貸を比較してみると次のようになる。

持ち家

  • コスト…都心なら高い。土地の価格が安い地域で中古なら、だいぶ下がる。住宅ローンを組むと利息分が価格に上乗せされる

  • メリット…改築などが自分の好みに自由にできる。持ち家にこだわる人なら、精神的な満足感がある

  • デメリット…別の場所に住みたくなっても簡単には引っ越しできない。固定資産税などの税負担がある。家の補修などは、すべて自分持ち。買い値よりも安く売って、住宅ローンが残っている場合は、大きな損失となる

賃貸

  • コスト…家賃の額により異なるが、一生賃貸なら、かなりの額になる。公営住宅など家賃の安いところに入れば抑えることができる

  • メリット…引っ越しが比較的、簡単。水回りなど設備が故障したときの修理代は原則、大家さん持ち。固定資産税がかからない

  • デメリット…ずっと家賃を負担することに。設備やインテリアに不満があっても改築は通常、難しい

どちらにもメリットとデメリットがあるが、おひとりさまが家を買う際に注意したい点がふたつある。

最後までその家に住み続ける場合は、自分の死後に家をどうするかだ。配偶者も子どももいない場合の法律上の相続人は、親が健在なら親、親はなく兄弟姉妹が生きているなら兄弟姉妹。自分が一番長生きで兄弟姉妹が亡くなっているなら、その子ども。兄弟姉妹も、その子どももいないなら、家を含む資産は国庫に入ることになる。生きている間に自分で使い切る発想で、持ち家を売って老人ホームなどに移ることも考えられる。

もうひとつは無理なく買えるかどうかだ。途中で住宅ローンの支払いができず、売るようなことになったとき、価格が下がっていると、大きな負債を抱えることになる。また貯蓄を住宅の頭金などに使い切ってしまい金融資産がないと、病気・失業など何かあったときに困ったことになる。余裕を持って買えるか、慎重に試算した上で検討したい。

逆に賃貸の人は、固定資産税や住宅ローンの利息などを払わなくて済む分をしっかり貯めて、金融資産を築いておきたい。

人生の後半に向けて身動きの取れる選択を

現在、国の政策として、バリアフリ―で介護サービスと連携した「サービス付き高齢者向け住宅」の建設が進められている。公的年金の範囲内で払えるよう家賃が設定されている施設が多い。年を取ったら家を借りるのが難しいのでは? と不安に思っている人もいるかもしれないが、これからの超高齢社会では、住宅も含め高齢者向けのサービスが充実してくるはずだから、あまり心配しなくてもいいようだ。

それよりも、金融資産をしっかり築きつつ、コストも納得がいき、満足のいく生活ができるかという視点で、自分に合う住まいを選択する方がいいだろう。もしかすると、人生の後半で結婚することになるかもしれない。

おひとりさまが、目いっぱい住宅ローンを組んで家を買うことは、身動きが取れなくなるので避けたい。冷静に、現在負担している住まいのコスト、自分が住んでいる地域や住みたい地域の家賃や住宅価格の相場、自分の収入や暮らし方を見つめて検討しよう。

(※画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

ファイナンシャルプランナー 坂本綾子

20年を超える取材記者としての経験を生かして、生活者向けの金融・経済記事の執筆、家計相談、セミナー講師を行っている。著書『お金の教科書』全7巻(学研教育出版)、セミナー『子育て力のあるお金の貯め方、使い方』『小さな消費者へのお金の教育』など。