20代~30代の人たちと話をしていると、国の年金制度に不信感を持っている人が多いと感じます。「俺たち(私たち)の世代はもらえないんでしょ」という言葉を安易にふりまく前に、まず年金の仕組みをきちんと知りたい。特におひとりさまは、その上で、冷静に対策を考えよう。

公的年金に完成形はなし?

国の年金制度に詳しい人も、そうでない人も、年金財政が厳しいことは小耳にはさんでいるはずだ。新聞等でときおり取り上げられて、このままいけば将来、年金を払うためのお金が足りなくなるのではないかと心配されている。「このままいけば」とは、どういうことかというと、現在、日本の年金はおおまかに次のような仕組みになっている。

  • 日本に住む20歳以上60歳未満の人は全員、国民年金に加入する

  • 会社員は厚生年金に加入することで、国民年金にも加入していることになる(会社員の公的年金は、国民年金と厚生年金の2階建て)

  • 会社員が加入する厚生年金は、収入に応じて保険料が決まり、支払った保険料により将来の年金額が決まる

  • いずれかの年金に25年以上加入していると、65歳から老齢年金(いわゆる公的年金)をもらえる

  • 賃金や物価が上昇したときは年金額も上がる仕組みだが、100%連動するわけではない

  • 年金には、みんなが払う保険料のみならず税金が投入されている

  • 自分が積立てた保険料を将来、自分で受け取るのではなく、現役世代が収めた保険料で高齢者の年金をまかなう世代間扶養

公的年金の仕組みは、様々な変遷を経て、現在、このようになっているが、世代間扶養であることにより、問題がおきているわけだ。日本では少子高齢化が進んでいる。寿命が伸びて高齢者が増える一方、生まれてくる子どもの数が減って、現役世代は少ない人数で高齢者を支えなければならない。どうやって、やりくりするのだろうか?

国の年金制度は5年ごとに収支を確認して見通しを示すことになっていて、改正も行われる。つまり、現在の制度が完成形ではなく、今後も見直しが行われるということだ。例えば、すでに決まっている改正としては、年金をもらうための加入期間を25年から10年に短縮することなどがある。

また、制度を維持していくために、次のようなことも予定・検討されている。

  • 保険料を払う人を増やす→働く時間の短いパートやアルバイトも対象にする。高齢者や女性が働きやすい環境を整備して、厚生年金加入者を増やす

  • 年金を減らす→物価や賃金が上がったときの連動率を下げる。受取り始める年齢を65歳よりもっと先に延ばすことで払う年金を減らす

将来の給付率の目安は?

もらえる年金の水準が、今よりも低くなる可能性が高いわけだが、どれくらいの水準なのだろうか? 標準的な世帯(夫が会社員で妻は専業主婦)の場合、現役男性会社員の手取り収入と比較して現在は6割程度もらっているものが5割に減ると見込まれている。

ただし、おひとりさまの場合は、これには当てはならない。標準的な世帯(夫が会社員で妻は専業主婦)は2人分の年金を合計するが、おひとりさまは年金も1人分だ。5割よりも低くなると覚悟しておいた方がいいかもしれない。また、勘違いしないように注意したいのは、比較しているのは、その時点での平均的な男性会社員の手取り収入であって、自分が現役のときの収入ではないことだ。

切実な問題は自分が具体的にいくらもらえるかだ。50歳を過ぎると、これまで支払った保険料をもとに、このまま同じ条件で働き続けたら年金がいくらになるかが「ねんきん定期便」で示されるが、20代~30代のおひとりさまには、まだ遠い話である。

公的年金だけで老後の生活費をまかなうのは難しそうだが、制度を維持するための方策がとられていることは、わかってもらえただろうか?

勤務先の年金制度についても確認しておきたい

会社員の場合、国の年金に上乗せして勤務先ごとに定められている企業年金をもらえるケースが多い。こちらも、企業によっては積立不足などが懸念されていて、今後、制度変更される可能性が高い。それでも、自営業者や専業主婦だった人が、国民年金のみであることに比べれば、会社員は、国民年金、厚生年金、企業年金の3階建てなので、恵まれているとも言える。自分が加入している企業年金が、どんな仕組みで、どれくらいの給付があるかも、確認しておきたい。

国の年金の最大のメリットは死ぬまでもらえること

国の年金は、もらい始めた後は、死ぬまで受け取ることができる。このことは、最大のメリットと言える。貯金なら、貯めていた分がなくなったら終わりだ。今後、給付の水準が下がったとしても、老後の収入の基盤となることには変わりはない。

見逃せない老後以外の保障機能

さらに、老後以外にも、障害や遺族への保障がある。事故や病気で障害者となったときは、認定された時点以降、障害年金をもらうことができる。年金加入者が亡くなったときは生計が一緒であった遺族に遺族年金が給付される(条件あり)。おひとりさまの場合、障害年金は、もしものときの大きな保障になるだろう。

今後の制度改正をしっかりウォッチ

日本の年金制度が、一夜明けたら想像もつかない仕組みに変わっていたとか、無くなっていたなどということはあり得ない。事前に様々な議論が行われた上で、制度の改正が実施される。つまり、受け取る側にも準備の期間があるということだ。

会社員は、給与から自動的に厚生年金保険料を引かれていて、自分だけ入らないということはできない。ならば、しっかり仕組みを知り、どのような対策をとるかを冷静に考えたい。当たり前ではあるが、第2回でも書いたとおり、貯蓄目標を決めて、将来に向けてしっかりお金の管理をしていくことだ。

<著者プロフィール>

ファイナンシャルプランナー 坂本綾子

20年を超える取材記者としての経験を生かして、生活者向けの金融・経済記事の執筆、家計相談、セミナー講師を行っている。著書『お金の教科書』全7巻(学研教育出版)、セミナー『子育て力のあるお金の貯め方、使い方』『小さな消費者へのお金の教育』など。