急性大動脈解離では外科的治療を行うこともある

血管は私たちの体の至るところに張り巡らされ、生きるうえで大切な血液を循環させる役割を担っている。そのため、血管に何らかの異常が見つかった場合、重篤な疾患につながりかねないことは容易に想像できるだろう。例えば、血管が詰まることで起きる脳梗塞や心筋梗塞などがその一例で、国内でも患者が多い。

その一方で、脳梗塞などの疾患に比べれば患者の絶対数こそ少ないものの、その恐ろしさではひけをとらない心血管疾患として大動脈解離がある。今回は消化器外科・外科の小林奈々医師に大動脈解離の中でも突発的に起きる急性大動脈解離についてうかがった。

――まず、急性大動脈解離の症状にはどのようなものがあるのかを教えていただけますでしょうか。

急性大動脈解離は血管の何層かの壁が裂ける疾患です。血管が裂けるときに激しい痛みがあります。裂けた箇所によって出現する症状は多岐にわたるため、状態の把握がとても大切な病気と言えます。一般的な症状としては突然の激しい胸背部痛や意識消失、腹痛、手足の痛み、腹部の張り、顔面浮腫、手足の麻痺などがあります。また、裂けた血管から血管外へ血液が流れ出したり、心筋梗塞を起こしたりすると、突然死するケースもあります。

――非常に怖い病気ですね。急性期で死亡するケースも決して珍しくないということで、発病自体を避ける必要があると感じます。急性大動脈解離の原因は何なのでしょうか。

高血圧や動脈硬化が発病のトリガーとなる症例が多いです。つまり動脈硬化の原因となる脂質異常症や糖尿病、高尿酸血症、肥満、喫煙などが危険因子となります。けがや血管の炎症、生まれつき血管が脆いことも原因となることがあります。急性大動脈解離の発症は年間で10万人に3人前後と言われていますが、年々増加傾向にあると報告されており、発症のピークは70代です。

――加齢に伴い動脈硬化になる人が増えていくと一般的に言われているため、それだけ急性大動脈解離の発病リスクも高まるということですね。高齢者で発病するとなると予後の問題もありますが、5年生存率などはどうなっているのでしょうか。

血管が裂ける場所と裂け方、裂けたことに伴う合併症によって予後はかなり違ってきます。未治療の場合は発症後48時間以内に50%、1週間以内に70%、2週間以内に80%の高確率で死亡すると言われています。報告によって差はあり、かつ血管の裂け方や状態で幅はありますが、5年生存率は25%弱~85%前後です。

――予防という観点では、日ごろからどのようなことに気をつけていればいいのでしょうか。

高血圧の症状がある場合は、しっかりと血圧のコントロールをすることが予防につながりますね。そして、動脈硬化を防ぐことも大切です。脂質異常症や糖尿病、高尿酸血症、肥満、喫煙などが動脈硬化の危険因子であるため、注意を払う必要があります。

また、採血や血圧測定(左右の腕で測定値に差がある)で急性大動脈解離が判明するケースもありますし、心臓に近い部分で血管が裂けると心臓の症状(胸痛や呼吸困難、意識消失など)が出ることもあります。少しでもいつもと違う胸や背中の痛みがある場合は、医療機関を受診してください。

――ありがとうございます。ただ、どれだけ予防に努めていたとしても、病気を100%防ぐのは難しいと思います。万一、急性大動脈解離に罹ってしまった場合はどのような治療が行われるのでしょうか。

治療は血管の裂けている場所や状態でまったく異なります。血圧やレントゲン検査、採血、エコー、心電図、CTなどの検査を行い、状態を把握し治療方法を決めます。その際、既往歴や全身状態、年齢なども加味します。

実際の治療にあたっては、人工血管を移植する手術などの外科的治療や降圧、鎮痛などによる保存的治療を選択します。血管内治療が選択されるケースもあります。命に関わる症例もあるため、しっかりとした全身管理と専門医による判断および治療が必要になります。

急性大動脈解離が起きる年代は高齢が多いです。つまり、予防としての高血圧・動脈硬化対策を若いうちからしっかりと意識づけしておくことが肝要と言えます。ちゃんと健康診断を受け、全身チェックをしっかりとしておきましょう。

※写真と本文は関係ありません


取材協力: 小林奈々(コバヤシ・ナナ)

消化器科、消化器外科、外科医
クリニックでは専門である消化器疾患、痔を含め全般的な内科疾患の診療に従事。週2回の病院勤務では消化器疾患の手術を行いながら、消化器疾患中心の外来診療に携わっております。
このほか予防医学、早期発見早期治療の重要さを伝えるべく講演や新聞、雑誌などへのコラム掲載を行っております。
患者さんを第一に考え、患者さんの目線にたちながら、常に笑顔で、女性外科医だから行える気くばりと柔らかさのある診療を行うべく日夜励んでおります。
En女医会所属。さくら総合病院、自由が丘メディカルプラザ勤務。


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