地方から都市の大学などに進学し、そのまま都市で就職したという方も多いだろう。その都市にとどまるにせよ、転勤で別の都市に行くにせよ、一旦都市に出た地方出身者が、実家に戻ることは少なくなってきているケースが増えている。だが、その結果、両親が亡くなった後の実家を空き家のまま放置していると、大変な目に遭う可能性があると指摘するのが、『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版、定価 : 本体1,400円+税)を上梓した高橋正典氏だ。では、実家をどうすればいいのだろうか? 高橋氏に聞いてみた。

高橋正典氏は、1970年生まれ。宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー、国土交通大臣登録証明書事業不動産コンサルティング技能登録者。顧客と業者の間に大きな情報格差があり、"売りっぱなしの「紹介ビジネス」といわれる"日本の不動産業界の慣習を変え、より顧客に寄り添う株式会社バイヤーズスタイルを設立。一般的に売りづらいとされている、築年数の古い中古住宅の売買に精通しており、顧客から信頼を得ているという。著書に『マイホームは、中古の戸建てを買いなさい!』(ダイヤモンド社)、『プロだけが知っている! 中古住宅の選び方・買い方』(朝日新聞出版)などがある。

高橋正典氏

親に相続の話をもちかけたりすると、喧嘩になるケースも

――不動産のコンサルタントをされているということですが、実家をどう処分すればいいかという相談は持ち込まれるものでしょうか。

持ち込まれます。空き家になっている実家をどうしたらいいのかという相談は年々増えています。

――いつごろから増えている感じですか。

数として増えたなと思うのは昨年からです。今年から相続税が上がるという話になったのが一つの要因です。もう一つの要因は、空き家特措法(「空家等対策の推進に関する特別措置法」)が今年5月に全面施行されたのが大きいです。

また、プライベートな話ですが、父が1年前に他界したんです。父の家は持家ではなかったので、15年ぐらい前、私が30歳ぐらいの時に、自分で土地を買って親との二世帯住宅を建てたんです。親の老後を考えたときに、その方が得策だろうと考えたのですが、そうした意味で、実家をどうするかというテーマは自分自身の問題でもあったわけです。

――この本を書こうと思ったきっかけと背景には、そういうご自身の経験と、空き家の問題が年々増えているという社会的背景があったわけですね。特に誰に対してこの本を読んでほしいと思われますか。

実を言うと、親世代に読んでほしいのです。僕の本意からすると、子どもがこういう心配(実家をどうすればいいかという心配)をしているということを親に知ってほしいということがあります。この本にも書いていますが、実家のことを悩んでいるのも、相続税対策で悩んでいるのも、基本的に財産を受け取る予定の子どもたちがほとんどです。それに対して、相続させる側の親は現実を直視していないところがあって、子どもだけがあがいています。親に相続の話をもちかけたりすると、喧嘩になったりしますから。

――私も親にちょっと聞いてみたことがあったんです。「財産をいくら持っているの?」というような直接的な聞き方ではなかったのですが、その手のことをちらっと話をしたら、嫌なことを聞くな、という声色に変わったんですね。私は九州が実家ですが、なかなかこういうことを話すのは難しくて、妻にこの話しをしたら、そんな話を親にするのは絶対まだやめておいた方がいいみたいな感じで言われました。ただ、相続問題をうやむやにしていると、親にも迷惑がかかわるわけですよね。

困らない親もいるでしょうけど、ほったらかしにしておくと、お金に窮して施設に入るときに、あわてて家を売ったりということになってしまうケースもあります。

親の幸せを考えて、親にとってもポジティブに感じられるように話す

――父が定年退職して持病があるので父がいつ倒れるかわからないと思っているのですが、そこで話を持ち出すと、まだ元気だよというメールが返ってくる。相続の話をしておきたいんですけど、言いにくいんですね。今回の本には、親と実家や相続について話をする方法が書かれていますが、どうやったら一番いいでしょうか。親の幸せを考えて、親にとってもポジティブに感じられるように話すのがいいと書かれていますね。

たとえば、実家の処分の話を先に持っていくと角が立ってしまうと思うのですが、きっかけとして、親がいて自分がいて、自分にも子ども(親からすれば孫)がいるケースですと、自分が子供のためにこんなことをして残していきたいということを考えているんだという相談を親に投げかけます。この本を読んでいる方が40代ぐらいだとして、自分がいつどうなるかわからない中で、子どものためにこんな準備をしているけどどう思うか、というような相談を親に持ちかけるという方法があります。そうすると、親は自らも子供たちと同じだと気づいて相続のことを考えるようになる可能性があります。

「一人帰省」がオススメ

――相続の話になりやすいということですね。

親父が考えていることもあるだろうけど、俺も考えている。ざっくばらんに話す、というのがいいと思います。入口は、自分が悩んでいるので親に相談するというスタイルをとることですね。悩みにのってもらうんです。その悩みは多少作り話でもいいと思います。最もいい方法は、今回の本にも書きましたけど、家族がいても実家に一人で帰省することです。

――私もこの部分がすごく印象的でした。実家に帰るときは子どもや妻を連れて帰るんですが、今回一人で帰ってみようかなとこの本を読んで思いました。

そうすると、さっきの話がしやすいと思います。つまり、自分と自分の子供の話を入口にして、親との相続の話につなげていくという。

――親子水入らずで話すきっかけをつくるということですね。この本を読んでいる人は、実家が遠いところにあることが前提ですものね。そういう時間を設けるということが大切ですね。親と自分の相続に関する話はポジティブな話題から始めることがおすすめということですが、親の今後のビジョンを聞けばいいんですか。

そうですね。実は、3、4日前にこの本を読んでくださったお客さんの相談で小田原市に行ってきたんですが、そこではお母さんと娘さんと3人で話をして、お母さんはありがたいけど私はまだまだ元気だよとおっしゃっているんです。お母さんは現在77歳で、娘さんはあと3年くらいで足腰が弱ってくるからという話ですが、私が最後に娘さんに言ったのは、今日はこの辺でいいじゃないですかと。この話(相続の話)が出たことで、今日はこれでよしとしておきましょうねと。

――お母さんと娘さんとどんな話をされたのですか。

お母さんと3人でざっくばらんに話をしたんですが、この家を売りたいのか、売りたくないのという話を私からしました。すごくいい家でお母さんは売りたくないだろうから、この家は売らない方がいいですねと私から言うと、お母さんが喜ぶので。今回は「実家の処分」というキーワードで本を書いていますが、ポジティブな話というのは、何とかこの家を維持していきたいという切り口であれば、親にとってポジティブな話になります。

――「実家の処分」ではなく、なんとか維持する方法はないかと相談することが、ポジティブな話というわけですね。

東京で仕事をしているけれども、万が一の時はこの家を維持していきたいんだけど、いい方法がないかと思っている。できれば将来は実家に帰りたいと思っているだ、というふうに本音を話すというスタンスで話をすると、逆に親の方からは、いやそうは言ってもあんたは東京に仕事があるんだろうという話にもなります。ポジティブに球を投げるというのはそういうことです。