当連載第137回「蒸気機関車に転機 - 真岡鐵道の減車報道、野辺山SLランド閉園など」(9月5日掲載)にて、真岡鐵道が保有する蒸気機関車のうち1台を減車するという話題を紹介した際、放出された場合の引受け先として東武鉄道が最有力ではないかと予想した。掲載から1カ月後、筆者の友人から「東武の2台目は、もう決まっているみたいですよ」とメッセージが届いた。

  • 東武鉄道が蒸気機関車「C11 1」の復元に挑戦。11月14日に搬入作業の様子が報道公開された

情報源は日本鉄道保存協会の会報9月号で、公式サイトでも公開されている。そこには「約400万円で東武博物館に売却」とあった。譲渡価格まで示された理由は、会報が会員向けの報告書という意味合いもあるからだろう。日本鉄道保存協会のメンバーはもちろん知っているはずだし、鉄道保存に関心のある非会員も、日本鉄道保存協会の会報をチェックして知っていただろう。だから一部の鉄道ファンにとっては、「東武鉄道がいつ正式に発表するか」に関心が移っていたと思われる。

東武鉄道が「SL大樹」に2台目の蒸気機関車を用意するという話は納得できる。現在、「SL大樹」を牽引する蒸気機関車C11形207号機は調子が芳しくない。デビューしてから2カ月を待たずに故障運休を余儀なくされ、急遽ディーゼル機関車を先頭に立たせ、「DL大樹」として代走した。これが意外にも「DL列車人気」を誘発し、現在も蒸気機関車の整備期間中は「DL大樹」が運行されている。

蒸気機関車が2台あれば、1台を運行中に別の1台を入念に点検整備できる。だから東武鉄道は2台目を必要としていた。そういう見方には説得力がある。一方、C11形207号機の調子に関わらず、当初から蒸気機関車2台体制を狙っていたという説もある。根拠は下今市駅SL機関庫で、レンガを貼ったレトロな建物に、2台分の収容スペースが設けられていた。2台目の獲得は当初の構想通りであり、その東武鉄道が選んだ機関車が、日本鉄道保存協会で静態保存されていた「C11 1」というわけだ。

  • 下今市SL機関庫は機関車2台を収容できる(2017年5月の報道公開にて撮影)

SL列車に起用される蒸気機関車は静態保存機からの復元が多い。近年の復元作業で最も大きな話題となった蒸気機関車は、JR東日本が高崎エリアで運行するC61形20号機だった。この蒸気機関車は群馬県伊勢崎市の華蔵寺公園遊園地で静態保存されていた。復活までの道のりを映画監督の山田洋次氏が映像化したことなどでも有名になった。

それ以前から高崎地区で運行しているD51形498号機も、かつて上越線後閑駅の駅前に静態保存されていた蒸気機関車だ。「SLばんえつ物語」のC57形180号機は新津駅付近の磐越西線の線路沿いにある小学校校庭に安置されていた。JR九州の「SL人吉」で活躍する8620形58654号機は、人吉鉄道記念館で静態保存された蒸気機関車を復元したもの。東武鉄道がJR北海道から借り受けたC11形207号機も、過去に公園で静態保存されていた。

それにしても、蒸気機関車の復元はお金がかかる。過去の報道をおさらいすると、JR東日本のC57形180号機の復元費用は約2億円。C61形20号機は約3億円。JR九州の「SL人吉」は蒸気機関車と客車を合わせて約4億円。もっとも、ディーゼルカーや電車の新製も1両あたり1億円以上の費用がかかるといわれる。電車・ディーゼルカーを4両新製したところで、蒸気機関車ほどの人気と集客を得られるかどうか。そう考えれば、蒸気機関車のコストパフォーマンスは悪くないともいえそうだ。

  • 40年以上にわたり静態保存されていた「C11 1」。トレーラーに積み込まれ、11月8日に北海道江別市を出発した(写真は東武鉄道提供)

日本鉄道保存協会が保有していた「C11 1」は、倉庫に保管されていたという。報道されている搬出・搬入時の写真を見ると、サビや汚れがかなり目立つけれども、公園で野ざらしになっている静態保存機よりは良い状態のはず。復元の手間と費用は野ざらし展示の静態保存機より好条件になるだろう。

新たな蒸気機関車を運行しようとすれば、動態保存されている機関車を借りるか、静態保存機を復元するしかない。むしろ復元できてこそSL列車の運行として一人前といえる。東武鉄道が今後も蒸気機関車の保存運行を続けるならば、2台目は復元せざるをえない。タイミングとしては、「C11 1」の交渉中に真岡鐵道の情報を察知したかもしれない。しかし「SL大樹」で鉄道文化遺産の保存に取り組むと宣言したからには、復元にチャレンジする。そのほうが東武鉄道らしい選択だと思う。