幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第48回は女優の黒島結菜さんについて。現在『行列の女神~らーめん才遊記~』(テレビ東京系)に出演中の黒崎さん。今、学生服を着て高校生を演じてもなんの違和感がないほどの、健康そうなビジュアル。あれはどんな女優さんが求めても手に入ることのない宝ですよね。そのルーツはどこにあるのだろうと、初めて公式サイトをチェックしたら出身が沖縄県だと知りました。おお、納得の理由でございます。

爽やかで、純粋で。男性の理想女性像をそのままに

  • 『行列の女神~らーめん才遊記~』に出演している黒島結菜

    黒島結菜

ラーメン専門のフード・コンサルティング会社『清流企画』の社長・芹沢達美(鈴木京香)。経営不安に喘ぐラーメン店を次々に軌道に乗せてきた、まさにラーメン界の救いの女神。もちろん芹沢本人も一流のラーメン職人でもある。この会社に採用された新入社員の汐見ゆとり(黒島結菜)。実は実の母親は一流の料理評論家であり、芹沢の因縁のライバル。再び勝負が起きようとしていた。

と、いうのが『行列の女神~らーめん才遊記~』(以下『行列の女神』略)のあらすじ。新型コロナウイルス騒動の影響で、途中で撮影が止まってしまう春ドラマが多いなか、6月15日(月)の放送できっちりと最終回を迎えることができる、貴重な作品だ。黒島さんはこのドラマでやたら張り切って、ややうざったい新入社員・汐見ゆとりを演じている。役名だけで何かを彷彿させるのは私だけだろうか。

母親はクッキングスクールも展開する、料理評論家。父親はフードカメラマン。つまり料理のプロに囲まれて育ってきたわけだから、若くてもその腕も目も一流。ゆえについ調子に乗ってしまうのだけど、芹沢のコンサル力にそれらも敢えなくぶっ潰される。

確か第三話。コンペに負けたゆとりに、芹沢はこう言った。

「客のほとんどは保守的で、知名度や誰かの推薦を頼りに店を選んでいる。そこで食べた味に満足して帰っていく。つまり彼らは情報を食べているのよ」

情報を食べる、という重みのあるセリフがSNSでも話題を呼んだ。個人的には扱っているメニューに関わらず、飲食店に携わって仕事をしているのなら参考になるネタが満載だと思う。営業時間の短縮など何かと問題を抱えざるを得ない昨今、このドラマから何かヒントを得て欲しい。

さて黒島さん。ファッショナブルな社長とは相反するように、毎回リクルートスーツに身を包んで登場している。これが非常に似合う。ぜひ、紳士服のCMをお願いしたいくらい、似合っているのは清純さが光っているからだろうか。私が彼女の存在が気になり始めたのは『時をかける少女』(日本テレビ系・2016年)の芳山未羽役。艶やかさを売りにする芸能人が多い中、ショートカットで主演を張ったのは強烈だった。

さらに強烈なのは、思い返すと4年前のセーラー服姿から、今回のリクルートスーツまでほとんどイメージが変わらないということだ。

次に狙うはやはり"ヒロイン"で朝ドラ主演か

黒島さんが最近演じた作品で、印象に残っているのは朝ドラ『スカーレット』(NHK総合・2019年)松永三津役。時代背景に合わせたヒッピーコーディネートで登場、ご本人のイメージを損なわない、元気で真っ直ぐな役だった。ところがイメージは一転、修行先の主人・川原八郎(松下洸平)に恋をしてしまう。タイミングが悪く、当時は人気長身(元モデル)俳優と、新人女優の不倫騒動で世間が大騒ぎ。三津の態度がイライラすると、良くも悪くも話題を呼んだ。

この役に飛び込んだのは黒島さんにとっても、勇気が必要だったと思う。原作では世話になった夫婦の夫を奪う魔性の女の役である。

この世にはたくさんの種類の女性が存在するけれど、大雑把に括ると最近は“清楚系”の女性が一番怖いと思う。「私、何も知らないんです」というフリをしながら、言葉少なめに最終的にはスゴ技で男性を奪っていく。そんな火事場の馬鹿力を持っていそうな気がする。思いつく著名人が何人かいるはずだ。渋谷系ギャルのように派手にして、言いたいことを言う女性の方がよっぽどわかりやすい。そういった最近の事情を見越して、黒島さんをキャスティングしたNHKこそスゴ技かもしれない。

ドラマでは不倫にまで至らなかったけれど、妻帯者に恋心を持つだけでもSNSで必要以上に突っ込まれる時代だ。今までの清楚、潔白、健康、純粋となかなか手に入れることのできないイメージを覆すことになるかもしれないのに乗り込んだのは、未来の朝ドラヒロインに向けての布石だろうか。そんな予感がした。

そして『行列の女神~らーめん才遊記~』。最終回では、ゆとりが芹沢の会社にいられるのかどうかもかかってくる。ラストの一杯にまで注目だ。

小林久乃

エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。エンタメやカルチャー分野に強く、ウェブや雑誌媒体にて連載記事を多数持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には15万部を超えるベストセラーも。静岡県浜松市出身、正々堂々の独身。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。