幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。第47回はタレントの田中みな実さんについて。

現在、ドラマ『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)に出演中の田中さん。エキセントリックな役が主演女優よりも話題をかっさらっています。全く迷いを感じさせない演技や、メディアで見聞きする情報から、強さを感じずにはいられません。実際のご本人は小柄な方でしたけど、あの強さを見せつけられると「姐さん!」とばかりについて行きたくなるのです。

あの役は彼女以外に誰が演じられた?

ドラマ『M 愛すべき人がいて』に出演している田中みな実

田中みな実

バブル期から時代が変換しようとしていた1993年。芸能界に憧れて、福岡県から上京してきたアユ(安斎かれん)は、レコード会社「A VICTORY」のプロデューサー、マックス・マサ(三浦翔平)に才能を見出されて、アーティストを目指す。自分の言葉で歌詞を綴り、デビューを目前に控えたように見えるが、周囲にはその様子を許さない人物の姿がいて……。

と、いうのが『M 愛すべき人がいて』のあらすじ。現在、第3話までが放送、新型コロナウイルスの影響のため、第4話以降の放送は未定になっている。とはいえ、3回の放送でこのドラマが残した爪痕は非常に大きい。話題書が原作ではあるし、最近では珍しく主演女優が新人という設定。そして大映ドラマを彷彿させる作風など、私たち観る側の印象に残りやすい要素が数多く封じ込められている。

この作品で田中さんが演じているのは、マサの秘書・姫野礼香。右目に眼帯をしたビジュアルにもインパクトはあったけれど、それ以上に目が離せなくなったのは怪演だ。右目を失ったのはマサに責任を負わせながら、彼を愛するあまり、執拗に追いかけ回す礼香。全ての演技がオーバーで、セリフに独特の抑揚がつく。

「見える、見えるよ! マサの未来が……!!」

「許さなあああい」

「まだ離婚する気はないのかなあ? だってさ……私の目の代わりになるって言ってくれたよね?」

この雰囲気に既視感を覚える。古くは『スチュワーデス物語』(TBS系・1983年)で、片平なぎさが義手の手袋を口に加えて外すあのシーン。直近では『奪い愛、冬』(テレビ朝日系・2017年)で、水野美紀が魅せてくれた、愛する夫をソンビのようにどこまでも追い詰めた、あの怪演。この特殊メイクに近い演技を見せてくれる女優の座の中央には、水野さんが鎮座していた。でもそろそろアップデートをしたくなる。そんな絶妙のタイミングで、女性支持率No.1をぶっちぎる、みんなのみな実の登場である。

美しさへの努力は包み隠さず、公開してナンボ

放送当初、田中さんのファンからするとなぜ彼女がこの役を演じているのか不思議だったと思う。でも振り返ると、他に礼香ポジションにつけるのは、昨今の芸能界に見当たらない。もし私の勉強不足なら許して欲しい。

水野さん効果で、最近では怪演も珍しくはない。でもこの演技は非常に奥行きが深く、その人のパブリックイメージが問われる。恐らく水野さんは、演技とのギャップが功を奏した。ただ美しいだけの人ではなく、後ろを振り向かない潔さが全面に出していた。そして田中さん。彼女は普段、女性雑誌で見せる甘さと"強い"イメージを兼ね備えて登場した。無敵である。きっと、この役で世間を騒つかせるのは、田中さんにしてみたら計算のうちだったはず。

私が個人的に田中さんを好きだと思うのは、開けっぴろげ(風)なところ。美容に関しては、時間もお金も惜しまないとはっきり公言している。ひと昔までは

「私、美容には本当にうとくて、何にもしていないんです」

と、聞く側を困らせる美の持ち主が多かったけれど、田中さんのおかげでその風向きは変わった。努力を隠さず、共感材料に転換させる。それが女性の心を掴んでいるのだと思う。だって、私たちも田中さんにはなれないけれど、そこそこの努力はしているのだから。

そんな風に回想すると、田中さんの人生は全てが計算尽くしだったのであると改めて。

人よりも器量良く生まれた時点で勝ち組なのに、そこから教養を蓄えて、局アナに。ここで物語を終わらせることなく、次は芸能界という荒波へ。その波を外すことなく乗りこなし、次に田中さんはどんな波を目指しているのだろうか。

彼女こそ、マサ以上の名プロデューサーである。

※『M 愛すべき人がいて』の第1~3話は、ABEMAにて無料配信中。配信の情報は5月7日(木)の確認によるものです。変更になる可能性がありますのでご了承ください。

小林久乃

エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。エンタメやカルチャー分野に強く、ウェブや雑誌媒体にて連載記事を多数持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には15万部を超えるベストセラーも。静岡県浜松市出身、正々堂々の独身。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。