適度な運動がメンタルヘルスにも効果的なのは様々な研究によって明らかにされている。旅先での朝の散歩は心地よく、ジムに通ったりしてフィットネスを生活習慣に採り入れる生活が望ましいことも分かっている。

しかし、本格的にスポーツをするほどのモチベーションも、時間もない。そんな人たちは新しいギアを投入したり、アプローチを変えたりすることが必要だ。たとえばE-Bikeとスマートウォッチを採り入れた「Eサイクリング」なら継続しやすく、なんといってもダイエット効果が期待できる。

■ダイエットは「E-Bike+スマートウォッチ」

サイクリングといえば、有酸素運動を代表する運動のひとつ。息が切れない程度の軽めのペースを守って走れば、脂肪はメラメラと燃え、心肺機能も鍛えられる。脚が太くなるのが心配な人もいるだろうが、ロード選手は脚も細く、体脂肪も10%以下が標準的な体型だ。もう少し身近なデータでいうと、シマノによると3カ月自転車通勤をした人は平均で2.3㎏、体脂肪が1.2%ダウン。条件や個人差はあるが3カ月で7㎏も体重が減った人もいるという。

  • 体重はマイナス7㎏、体脂肪率は4%ダウンした人も(左)。もうひとりも徐々に数値が減少している。

  • 有酸素運動は継続するほどに効果を発揮していく。(シマノ調べ)

本格的にサイクリングを始めるなら、自分の身体に合ったサイズのスポーツバイクがある理想的だ。車種はロードバイクでもMTBでも、クロスバイクでもいい。大切なのはライダーの力を効率的に使うにはポジションで、スポーツバイクならどれを選んでも、重量が軽く精度も高いので走行感も軽い。

そして、今回はシティサイクルとスポーツバイクの中間的なポジションにあるE-Bikeを使う。モーターを補助動力にして急な坂もスイスイと走れるE-Bikeは、世界的に大流行している。日本では時速10㎞までは脚に込めた力の2倍でアシストし、時速時24㎞で補助がなくなるように調整されている。

価格はピンからキリまで。ハイエンドモデルともなればカーボンフレームに、レース用パーツを採用して200万円近い高級車もある。当然、走った感じも大きく違うが、ママチャリタイプもスポーツタイプも道交法のルールは一緒。今回はスペシャライズド「CLEO 2 COMP」を借りたが、手始めに家にある電動アシスト自転車を使ってはじめてもいい。

  • 最長195㎞の航続も可能なCLEO 2 COMP。ロングライドはもちろん、グラベルライドも楽しめる。

  • 20㎜のトラベル量を誇るフューチャーショック3.0 を搭載。手に伝わる衝撃を最大53%も和らげてくれる。

ほかのオススメもイッキ読み!「心と体を整える『ヘルスケア』」特集」はコチラ

もうひとつのアイテムがスマートウォッチだ。細かい機能については説明しないが、スマートフォンと連携することで、メールやSNSの通知を受け取ることができる。そして、なんといっても、健康や運動に纏わる機能が充実しているのが魅力だ。

  • チタニウム製のケースに、走行中でも見やすい最大3000 ニトの輝度を誇る大型液晶が魅力のApple Watch Ultra 2

中でもアップルウォッチは中心的な存在で、最新のWatchOS 10はサイクリスト向けの機能が充実。本格的なサイクルコンピュータに引けを取らない機能が搭載されている。心拍数、乗車時間、走行速度、距離や標高といった基本的なデータのほかにも、1分間のペダルの回転数(ケイデンス)やパワーメーターといった本格的なアスリートが求める数値を表示できる。

また、バッテリー寿命が伸びたApple Watch Ultra 2なら通常使用で最大36時間、低電力モードなら72時間の使用が可能だという。実走行で12時間程度は計測できるので、その気になれば200㎞ぐらいのデータが取れる。

■歩くよりも楽に移動できる

私はスポーツバイクの専門家として、かなりのキャリアを過ごしてきた。しかし、選手と同じようなウエアを着て、毎日を過ごしているわけではない。むしろ専門のウエアを着ている日の方が少ない。もう少し自転車に乗りたい…とは思うが、自転車に乗るたびに着替えるのは億劫だし、忙しくなると乗る機会が減ってしまう。そうした悪循環をE-Bikeは見事に解消してくれた。

なぜなら、E-Bikeだと乗る回数が圧倒的に増える。同じ時間をノーマルバイクとE-Bikeで走った場合、運動量が多いのはノーマルバイクである。だが、坂があるとか、向かい風が…などなどサボる理由を探してしまう。そうした言い訳がE-Bikeにはない。

有酸素運動は20分以上継続すると脂肪が燃焼すると思われているが、最新の考え方では10分ずつ3回でも脂肪は燃えるという。E-Bikeなら半径10㎞程度なら走って行こうと思うし、片道30㎞ぐらいでも苦ではない。自転車通勤でダイエットする調査でも、E-Bikeユーザーのほうが乗車回数は多いため減量幅も大きいという結果があるほどだ。

楽しみとしてのライドはノーマルバイクが勝る。それは趣味だから当然だろう。だが、乗る機会はノーマルバイクよりもE-Bikeが多くなった。ちょっとした移動の積み重ねによって、フィットネス効果もバカにならない。そこに一役かってくれたのがアップルウォッチだ。忙しくてフィットネスの目標に達していないとき、20時前になると、腕にブルブルと振動を与え「まだ、時間はあります!」とメッセージを発してくる。

  • 3つのリングが一周するようにするのが小さな目標になる

  • 心拍数とともに5段階のゾーンが示される。

  • パワーメーターとも連動して本格的なトレーニングにも対応する。

目標を低く設定しているせいで、少しだけ運動して目標を達成したくなる。最寄り駅ではなく、隣の駅で降りて歩いてみたり、ちょこちょこと隙間を見つけてはカラダを動かすようになった。また、ついつい夜更かししてしまいそうなときも、時間をセットしておけば、寝る準備をするように促してくる。

小姑のようでありながら、トレーニングパートナーでもある。睡眠の解析も面白かった。質の高い眠りだったとき、キチンと目標時間を寝た日は体調がよかった。そういうことがグラフになって、数値化されると小さい目標達成をするために努力するのが苦ではなくなってくる。

意志が強い人は自分でメニューをこなせるだろうが、私のように意志が弱い人にとってスマートウォッチは、想像以上に魅力的な存在である。

そして、E-Bikeとアップルウォッチのおかげで、嬉しい経験もできた。

かつて「歩く動作と同じぐらい自然に、自転車に乗れる」。ロード選手で元アジアチャンピオンの彼は、日々、サイクリングをしているので、歩くよりもペダルを漕ぐ方が自然だ、と言っていた。

そんな達人の領域を凡人の私が体験できるとは思っていなかったが、スペシャライズド「CREO2 COMP」なら、そんな歩くよりも自転車に乗ることができた。ペースが遅いというのもあるが、アップルウォッチのデータではウォーキング時よりもサイクリングしているときの心拍数が低かったのだ。

コースが平坦で、ペースも速くない。それが心拍数が低くなった原因だろうが、サイクリングを始めるなら、ユルいペースで十分だ。初心者なら最大心拍数の40~50%ぐらい、ダイエット効果を狙うとしても50~60%程度で走ればいい。アップルウォッチが計測した心拍数をベースに、iPhoneが適切な心拍ゾーンを示してくれるので、無理なく走るだけでいい。

  • ダイエットに効果的なだけでなく、ウェルビーイングにも効くことがデータからも立証されている。

運動習慣を身につけるにはモチベーションをどのように維持するかが大切だ。
E-Bikeは安い買い物と言えないが、初心者でも苦もなく100㎞は走れるし、坂も向かい風も気にならない。投資した分を回収しようという気にもなる。
アップルウォッチにしても、同様だ。本格的なサイクルコンピュータと同等の性能を誇り、ヘルステックアイテムとして身につけて、いろいろなモチベーションを作り出してくれる。

サイクリングはランニングほど手軽ではないが、ペースやギヤを変速して負荷をコントールできるので、フィットネスとしては最適なスポーツだ。

脚を止めても滑走もするし、風を受けて走るのは爽快である。また、流れる景色や走行状況に合わせて集中するので、マインドフルネスな状況にもなる。息がハァハァしない程度のペースで走ること。それだけで、心とカラダにポジティブな時間を過ごせるのだ。

ほかのオススメもイッキ読み!「心と体を整える『ヘルスケア』」特集」はコチラ

文・写真/菊地武洋