JR東海は、特急「ひだ」「南紀」の新型車両HC85系が鉄道友の会ブルーリボン賞に選ばれたことを記念し、10月21日に名古屋駅で授賞式を開催した。同社はブルーリボン賞を過去に2度受賞したが、単独での受賞は今回のHC85系が初となる。

  • HC85系のブルーリボン賞授賞式が名古屋駅で行われた

HC85系はキハ85系の後継車両として、2022年7月に特急「ひだ」でデビュー。2023年7月から特急「南紀」の運用にも就き、キハ85系をすべて置き換えた。駆動システムにエンジンと蓄電池(バッテリー)を組み合わせたハイブリッド方式を採用したことなどが高く評価され、2022年9月に第21回「日本鉄道大賞」を受賞。2023年5月、鉄道友の会ブルーリボン賞に選ばれた。

■大阪発「ひだ25号」外国人観光客の周遊旅行等で便利な列車に

筆者は今回、ブルーリボン賞授賞式の取材に先立ち、大阪駅8時2分発の下り「ひだ25号」(高山行)に岐阜駅まで乗車した。取材当日は土曜日ということもあり、発車の20分ほど前から自由席1号車の乗車位置には列ができていた。

7時50分に4両編成のHC85系が大阪駅へ入線。普通車のみの編成で、最後尾の1号車以外はすべて指定席だった。車内は電車並みの静かさ。8時前にようやくディーゼルエンジンのアイドリングが聞こえ、HC85系がディーゼルエンジンを積んでいることを思い出した。

「ひだ25号」は大阪駅を定刻通り発車すると、東海道本線(JR京都線)を走り、新大阪駅、京都駅の順に停車する。両駅とも多くの観光客が乗り込み、とくに外国人観光客が目立った。外国人観光客から見た場合、京都駅を朝に出発し、高山駅に12時14分に到着する「ひだ25号」は、日本の周遊旅行において便利で欠かせない存在といえるかもしれない。

  • HC85系では、各号車の客室内に荷物スペースが用意されている(2022年5月の試乗会にて、編集部撮影)

ところで、外国人観光客が日本の鉄道で苦労するのがスーツケースの扱いである。筆者はスーツケースの置き場に困る外国人観光客を幾度となく見てきた。その点、HC85系はじつによく設計されている。全車両の客室内に荷物スペースを2カ所設置。3辺合計160cm超、250cm以内の特大荷物も収容できる。座席上の荷棚も拡大され、3辺の合計115cm以内の荷物を置ける。

こうした設備のおかげで、外国人・日本人問わず、スーツケース等の大きな荷物を問題なく荷物スペースや荷棚に置けるようになった。HC85系の車内案内表示器が大型で見やすいこともあってか、筆者の隣に座っていた外国人観光客はスマホを見ずに、大型の窓から車窓風景を楽しんでいた。

京都駅を発車した時点で、「ひだ25号」の指定席は満席に近い状態、自由席も7~8割程度埋まっていた。乗客のほとんどが観光客と見られ、関西圏においてもHC85系が支持されていることを実感する。京都駅を発車すると、「ひだ25号」は草津駅、米原駅、大垣駅の順に停車する。各駅とも多少の乗降はあるものの、新大阪駅や京都駅ほどではない。

  • HC85系の下り「ひだ25号」が東海道本線を走行

9時56分、「ひだ25号」は岐阜駅に到着。名古屋駅へ向かう筆者はここで下車した。大阪発の「ひだ25号」を使って名古屋駅へ向かうとなると、岐阜駅を10時8分に発車する特別快速(平日は快速)に乗車することになる。

「ひだ25号」は岐阜駅の3番線に到着した後、4番線に転線するため、引込み線に入る。4番線に入った後、名古屋駅から来た下り「ひだ5号」(飛騨古川行)と連結し、岐阜駅を10時11分に発車して高山方面をめざす。

■環境性能だけでなく、安全性・安定性・快適性も高い評価

今年、HC85系が受賞車両となったフルーリボン賞は、鉄道友の会により1958(昭和33)年に制定された。ブルーリボン賞・ローレル賞選考委員会が選んだ候補車両に対して、鉄道友の会会員が投票を行う。会員の投票をもとに、選考委員会が最優秀と認めた車両をブルーリボン賞、優秀と認めた車両をローレル賞に選定する。JR東海は過去にN700系と285系でブルーリボン賞の受賞歴があるが、いずれもJR西日本との共同受賞だった。

  • HC85系(D8編成)の側面に「BLUE RIBBON 2023」のロゴが入った

  • HC85系の「ブルーリボン賞」プレート

  • HC85系の模型も飾られた

名古屋駅で行われたHC85系のブルーリボン賞授賞式にて、登壇した鉄道友の会会長の佐伯洋氏は、富山駅から名古屋駅まで特急「ひだ」に乗車した経験をもとに、「HC85系が在来線の良さを存分に発揮する素晴らしい車両であることを実感した」と評価した。

続いて鉄道友の会選考委員長の尾藤千秋氏が、ブルーリボン賞の選考経過を報告した。HC85系について、ハイブリッド方式の採用により、CO2削減に対して正面から取り組んだことを評価。走行する飛騨・南紀エリアにちなみ「和」をコンセプトとした車内デザイン、バリアフリー設備の完備、全席コンセント設置などを通じて、安全性・安定性・快適性においても高く評価できるとした。

受賞者となったJR東海代表取締役社長の丹羽俊介氏は、挨拶の中で「HC85系は地元の伝統工芸品が楽しめるナノミュージアムや、地元の高校生による観光案内放送など、地元としっかり連携していく、地元の良さをお客様にアピールする車両」と紹介した。初の単独受賞に対して「格別の喜び」ともコメントしていた。

  • 授賞式で挨拶した鉄道友の会会長の佐伯洋氏

  • 記者からの質問に答えるJR東海代表取締役社長の丹羽俊介氏

  • 鉄道友の会からJR東海へブルーリボン賞の表彰状・楯を授与

  • 関係者によるテープカットが行われた

HC85系はハイブリッド方式を採用していることから、環境性能が注目されがちだった。一方、大阪発の下り「ひだ25号」に乗車し、多くの観光客がスムーズに「ひだ」の旅を楽しんでいる様子を見ながら、HC85系が「当たり前のことを着実にできる」安定度の高い車両であることにも気づいた。ブルーリボン賞の受賞も納得がいく思いだった。