JR東日本は、上野駅にて文化創造イベント「超駅博 上野 ~停車場から文化創造 Stationへ~」を10月14~30日に開催する。かつて「東北・信越の玄関口」と呼ばれた上野駅で、現代の最先端技術を用い、地域の文化と未来を体感できる企画を展開する。

  • 上野駅15・16番線ホーム前の「AR 車両フォトスポット」。115系とEF64形がバーチャルで登場する

■15・16番線ホームに115系・EF64形、ARで出現

「超駅博 上野」の2022年における対象地域は新潟・佐渡。「文化とは、カタチなく伝承されてきた軌跡。150年を超えろ。」をコンセプトに、鉄道開業150年の歴史を振り返りつつ、伝統芸能や食など楽しめるイベントとなっている。あわせて現代の最先端技術を駅空間で展開し、新しい体験創造に実験的に取り組むという。10月13日に行われた報道公開では、115系とEF64形が出現する「AR 車両フォトスポット」体験が行われたほか、佐渡の伝統芸能「鬼太鼓(おんでこ)」が披露され、イベントに合わせて開発された燕三条背脂ラーメンを試食した。

15・16番線ホーム前では、「文化・歴史とつながるゾーン ~タイムトリップ150年~」と題し、「AR 車両フォトスポット」を10月14~16日と10月28~30日に実施。かつて上野駅を発着し、2022年3月のダイヤ改正まで新潟地区で運行していた115系と、上野駅から上越・北陸方面へ向かう寝台特急などで活躍したEF64形をARで再現した。実物を忠実に再現しており、外観だけでなく、内装や、各部の経年劣化・傷・補修跡などもすべて再現しているという。

期間中、「AR 車両フォトスポット」を体験するには、「JRE MALL」にて「115系電車・EF64形電気機関車 ファイル&コースターセット」(価格2,000円。定員に達し次第、販売終了)を購入する必要がある。その上で、KDDIとSoVeCが共同開発したXRアプリ「XR CHANNEL」をあらかじめスマートフォンにインストールしておく。

15・16番線ホームにて「XR CHANNEL」を起動し、「超駅博 上野」のメニューを開く。「115系湘南色・新潟色」「115系・EF64形」「宙に浮かぶ115系1編成」の中からメニューを選択した後、端末のカメラで上野駅の空間を認識させる。すると、現実にはなにも停まっていない15・16番線に、バーチャルで再現された115系とEF64形が出現。115系は湘南色・新潟色の2種類が出現する。

  • 「XR CHANNEL」アプリで、ARの115系とEF64形が出現。しかし現実には存在しておらず、不思議な感覚に

上野駅全体をデジタルデータとして空間認識させるため、端末の画面にバーチャルで出現した115系とEF64形は、どちらも実際の線路にぴったり載るように表示される。まるで本当に上野駅に停車しているかのように見える。115系は車体前面・側面の種別・行先表示が数秒おきに変わり、あわせて前照灯も点灯・消灯する。種別は「普通」「快速」、行先表示は「新潟」「内野」「矢代田」「長岡」を見ることができた。

AR展開中、端末から115系のモーター作動音やコンプレッサーの音が流れる。首都圏で聴く機会の少なくなった国鉄型車両独特の音が、ARを通じて車両とともに再現されている。音の観点からも、115系が本当に上野駅にいるかのような感覚を覚える。

  • 115系は湘南色と新潟色が登場。車内も徹底的に再現されている。AR展開中、端末から115系の音も

  • 湘南色の115系は空中に上げることもできる

  • 上昇させると、台車や各種床下機器もよく見える

  • 新潟行や内野行など、さまざまな行先も表示された

115系1編成を空中に上昇させるメニューも用意されている。メニュー画面でこれを選択し、ARを展開すると、画面の右側に「車両を上げる(下げる)」のボタンが表示される。それをタップすることで、バーチャルの115系が本当に空中に浮かび上がった。この状態だと、普段なかなか見られない台車・床下機器等もARで詳しく観察できる。経年劣化や、走行中に鉄粉が付いたと思われる状態までARに落とし込まれており、徹底した再現度の高さに驚いた。

AR車両フォトスポットの解説とデモンストレーションを担当した、JR東日本イノベーション戦略本部デジタルビジネスユニットリーダーの佐藤勲氏によると、今回のAR車両はKDDIとSoVeCの協力で実現したとのこと。車両の再現に関して、1編成につき数千枚の写真を撮影し、バーチャルの骨組みに形づける「フォトグラメトリ」という技術を活用したとの説明もあった。

「調べた限りでは、鉄道の駅でこれだけの規模のAR、フォトグラメトリをしているのは、たぶん世界で初めてではないか」と佐藤氏。今後も鉄道資産のお披露目やバーチャル空間での鉄道資産保存に取り組みたいとしている。

なお、「XR CHANNEL」のインストールにあたり、iPhoneの場合はiOS14.0以降・2017年11月以降発売機種(iPhoneX以降、iPhoneSEは第2世代以降)、Androidの場合はAndroid10.0以降・ARCore対応機種で、いずれもメモリ3GB以上の端末での利用が推奨されている。現地で「AR 車両フォトスポット」を体験するなら、事前に手持ちの端末のバージョンを確認してみてほしい。

■中央改札外コンコースで佐渡の「鬼太鼓」披露、五感体験も

報道公開では、中央改札外グランドコンコース「地方・暮らしとつながるゾーン」にて、「鬼太鼓」の演舞も披露された。「鬼太鼓」は佐渡の伝統芸能で、鬼の面を被った演者が太鼓や笛の音に合わせて舞い踊る。この舞は五穀豊穣、家内安全などを祈願し、厄を払うといわれている。

  • 佐渡の「鬼太鼓」。まずは黒い面の鬼が登場し、力強くも流れるような舞を披露

  • 黒い面の鬼に続いて、赤い面の鬼が登場。太鼓の音がコンコースに響き渡る中、迫力満点の演舞が繰り広げられた

ステージに向かって右側に和太鼓が用意され、太鼓の音が鳴り始めると、黒い面の鬼が登場。法被を着た男性らのかけ声と太鼓の音頭に合わせ、力強く、ときに流れるようにステージ上を舞う。その姿には躍動感があり、迫力満点だった。途中で鬼が交代し、赤い面の鬼が登場。黒い面の鬼とは異なり、どっしりと構えた舞い方が特徴的で、こちらも力強さにあふれていた。演舞の終盤になると、太鼓の演奏が激しくなり、鬼が太鼓を叩く場面もあった。

報道公開とはいえ、一般利用者にも見える場所での演舞だったため、気がつけば特設ブース外から「鬼太鼓」を観覧する駅利用者の姿もあった。「鬼太鼓」を含む、伝統芸能の実演等のイベントは10月14~16日に実施。10月25~30日には、指向性スピーカーとディフューザーを活用した五感体験型新潟産直市を開催する。

  • 五感体験装置では、光で表示された五感スポットに立つと映像・音・香りを同時に体感できる

10月14~16日と10月25~30日に設置される五感体感装置も体験した。足もとに表示された五感スポットに立つと、55インチの3面特大パネルの映像を間近に見ることができる。五感スポットに向けられた指向性スピーカーでその音も体感し、足もとと左側に設置されたディフューザーで新潟の自然をイメージした香りも感じる。音・映像・香りを組み合わせた、没入感のある体験を楽しめた。

■新幹線コンコースに自動調理販売機、燕三条背脂ラーメンの味は

最後に、新幹線コンコース内「地方・暮らしとつながるゾーン」にオープンした「拉麺STAND」にて、ラーメン自動調理販売機を取材した。米国シリコンバレー発のスタートアップ企業「Yo-kai Express Inc.」が開発した自動調理販売機が常設され、「超駅博 上野」の開催に合わせて開発した新潟ラーメン「燕三条Se-Abura(燕三条背脂ラーメン)」を販売する。価格は980円。今年4月上旬、トライアルとしてこの自動調理自販機を東京駅「グランスタ」に設置し、好評を博したという。

「燕三条Se-Abura」以外には、一風堂の博多とんこつラーメンと「IPPUDOプラントベース(豚骨風)」(各980円)、Yo-kai Expressオリジナルフレーバーの「東京Shoyu」「札幌Spicy Miso」「九州Tonkotsu」(各790円)が用意されている。決済方法は交通系ICカードのみ。いずれも注文から最速90秒でラーメンができ上がり、熱々のラーメンを新幹線のコンコースで楽しめる。

  • 新幹線コンコース内にオープンした「拉麺STAND」

  • ラーメンは最速90秒で調理。箸とレンゲは下段から

  • 新潟ラーメン「燕三条Se-Abura」

報道公開で試食の機会が設けられ、筆者は「燕三条Se-Abura」を試食した。背脂特有の油の強さがありつつ、醤油のスープと合わさって美味しい一品。出汁は煮干し風味のあっさりした味となっている。太麺がスープとよく絡み、麺自体の食感も相まって食べごたえがあった。トッピングにはチャーシューとメンマ、そして燕三条ラーメンの特徴である刻み玉ねぎが入っている。麺をすすったり、スープを味わったりしている最中に玉ねぎの味も感じられるだろう。チャーシューも薄切りながら肉の味をしっかり感じた。

なお、でき上がった直後は味の濃い箇所が一部あるかもしれないとのことで、よく混ぜてから食べたほうが良いだろう。できたてのラーメンは熱いので、持ち運ぶときと食べるときはやけどに気を付けてほしい。

報道公開の冒頭、イベント概要を説明したJR東日本マーケティング本部まちづくり部門 開発戦略ユニットリーダーの大澤実紀氏は、駅を「通過駅する駅」から「集う駅」に変える取組みを2000年代から行ってきたと説明。その上で、「超駅博 上野」の開催にあたり、「上野の町、駅、それから鉄道、150年の歴史、そして地方の文化や食を、最先端の技術を活用して、新しい体験を皆様にお届けしていきたい」と語った。

今回、報道関係者らに公開された以外にも、3階公園口改札脇の連絡通路「まちとつながるゾーン」にて、10月30日までの期間中、「まち・えき回遊デジタルスタンプラリー」が行われる。10月29日には、「JRE MALL」での事前購入(3,300円)で参加できる、ジャイアントパンダ来日50周年を記念したこども向けワークショップも開催予定だという。