寒さが本格化し、忘年会などで帰宅が遅くなることも多い師走真っ只中の金曜日。東急電鉄は大井町線に有料座席指定サービス「Q SEAT」を導入し、12月14日夜から運行開始した。帰宅時の着席サービスを導入する鉄道事業者が増える中、東急電鉄が出した答えは、サブターミナルを使用し、いつもの列車に座席指定車両を加えるというものだった。

  • 「Q SEAT」連結の6020系

「Q SEAT」車両は大井町線急行用の新型車両6020系に連結されている。大井町駅を発車して大井町線を走行し、田園都市線に乗り入れ、長津田駅へ向かう急行として運行される。大井町駅19時30分発の列車以降、およそ1時間に1本の運行頻度である。

初日はすべて満席、1,100名が会員登録

東急電鉄鉄道事業本部事業戦略部企画課課長、小里好臣氏によると、「朝5時から予約を開始し、8時には全列車満席になりました」とのこと。会員登録はすでに1,100人を超えたという。当日の予約は大半がネット予約である。試行的に始まった「Q SEAT」だが、「いまは乗客の状況を見ているところ。そこから判断して列車を増やすかどうか検討したい」と小里氏は言う。

  • 多くの帰宅客で混雑する大井町駅

  • 駅に貼られた「Q SEAT」のポスター

  • 「待たずに座れる」ことをアピール

  • 東急電鉄の小里好臣氏

  • 「Q SEAT」を案内する駅係員

  • 一番列車を見守る駅長と区長

「Q SEAT」の初列車が発車する時間帯は帰宅ラッシュであり、大井町駅も多くの利用者であふれていた。着席ニーズに対応するためとはいえ、通勤車両の1両を「Q SEAT」の専用車両としても大丈夫なのだろうか。

そんな疑問に、東急電鉄鉄道事業本部事業戦略部企画課の小口正紀氏は「専用車両を増結車両として組み込んだため、混雑への影響は少ないと考えています」と答えていた。大井町線の急行用車両は最近まで6両編成だっただけに、7両編成で投入された6020系の1両を専用車両に置き換えても、影響は少ないということだろう。

「Q SEAT」で大井町線経由の利用を促進

有料座席指定サービス「Q SEAT」の専用車両は、大井町線の急行用車両6020系の3号車に連結されている。ロングシート・クロスシートに転換可能な「デュアルシート」車両であり、普段の運用時には窓側に背を向けたロングシート、有料座席指定サービスを提供する列車ではクロスシートとなる。座席数は全45席。有料座席指定サービスは平日夜に運行される大井町発長津田行の急行5本で提供される。

座席指定を受ける際、ネット予約もしくは駅の券売機を使用することになる。ネット予約だとチケットレスとなり、スマートフォンの画面に指定された座席が表示される。券売機で購入する場合、大井町駅ではホーム上になく、改札外に設置されているため注意が必要。座席指定料金は400円。もちろん運賃が別途必要となる。

急行停車駅のうち、大井町駅・旗の台駅・大岡山駅・自由が丘駅が乗車可能駅、二子玉川駅・溝の口駅・鷺沼駅が降車専用駅。たまプラーザ駅まで有料座席指定サービス区間で、ここから長津田駅までは自由に乗降が可能だ。

  • ホーム上にウェイティングエリアへの案内も

  • ウェイティングエリアでは3列に並ぶ

  • 「Q SEAT」の初列車は1番線ホームから

  • 初列車の案内が示される

  • ホームドアに間違いのないように案内が

  • いよいよ列車が入線してきた

かつて田園都市線は、現在のように渋谷駅へ向かい東京メトロ半蔵門線に乗り入れるのではなく、大井町駅へ向かっていた。つまり現在の大井町線がかつての田園都市線だった。しかし渋谷方面へ直通し、渋谷~中央林間間が田園都市線となる過程で、このルートの混雑が慢性化。大井町線を経由するルートの見直しも行われるようになっている。

今回の「Q SEAT」導入も、東急電鉄が呼びかける大井町線経由のルートでの利用を促進するためのものであり、ビジネス街の品川エリアと住宅街の田園都市線沿線エリアの結びつきを強めようとするためのものともいえる。

初列車の乗客に記念品も配布される

大井町駅19時30分発の初列車を前に、「Q SEAT」のウェイティングエリアには多くの利用者が集まってきた。初列車ということもあり、一般の帰宅客というより鉄道ファンらが多かった印象。親子連れやこどもたちの姿も見られた。

発車時間が近づくと、初列車の乗客に記念のボールペンが配られる。「Q SEAT」車両を連結した6020系は19時25分に入線し、ドアが開くとすぐに乗客が車内へ乗り込んで行った。アテンダントによる乗客への案内を行う声がホームに響く。

  • ラッピングされた車体に「Q SEAT」のロゴも。田園都市線へ直通し、長津田駅まで運行される

  • 出発時にはアテンダントが車内で一礼。ドアが閉まり、続いてホームドアも閉まって大井町駅を発車した

乗客が車内に入り終わり、発車時刻の19時30分になると、アテンダントが車内で一礼し、ドアが閉まった。続いてホームドアも閉まる。そして列車が大井町駅1番線ホームから発車した。「Q SEAT」の車内には電源コンセントやカップホルダー、車内Wi-Fiが設けられており、快適な時間を過ごせるだろう。終点の長津田駅には20時11分に着く。

大井町駅19時30分発の急行が発車した後も、同駅20時30分発・21時20分発・22時27分発・23時9分発と、「Q SEAT」を利用できる列車が計5本運行される。初日から全列車満席と好調であり、今後もその状況が続くなら、いずれ増発も検討されることだろう。