2月1日にANAホールディングスは2022年度までの中期経営計画を発表した。2017年に発表した2020年までの計画のローリングの期間を延長し、環境変化要素を織り込んだものだ。JALも2017年に、2020年度までの中期計画を発表しており、2018年度のローリングが行われるかどうかはまた見えていないが、現時点で明らかになっている両社の今後の事業戦略に見られる違いや、機を同じくして公表された第3四半期決算の特徴的な読みどころについて考察してみたい。

  • ANAホールディングスは2022年度までの中期経営計画を、JALは第3四半期決算を、それぞれ参考にして考察していく

    ANAホールディングスは2022年度までの中期経営計画を、JALは第3四半期決算を、それぞれ参考にして考察していく

国内線伸張を見込まないANA、大型化で安定成長を期すJAL

ANAの成長戦略は極めてメリハリが利いている。今後5年間の航空事業の成長の主体は「国際線とLCC」に置き、国内収入は「ゼロ成長」となっている。昨今の国内航空の市場動向、つまり、「国内景気は堅調に推移し、インバウンドやビジネス需要の伸びが持続している」という前提に立てば、長期的な人口減少はあるものの、国内収入に5年間の伸び率がゼロというのはやや違和感を覚えるところがある。

一方JALは、2019年度からのA350の導入を含め、4年間で105%とGDP並みの伸び率を見込んでおり、ANAは実質的に5%程度の国内線の供給減を計画していることになる。

JALは破綻~再生のプロセスの中で機材・路線の最適化=圧縮を進め、現在の収益体質を短期間に作り上げた。その過程で「機材稼動の向上」も大きなテーマとして実践されているため、余剰機材は当然処分されている。

他方ANAは、近年の経営指標としては、機材稼動よりも「機材と路線の適合」にシフトしてきていると思われ、「低需要期の機材の小型化による運航費の低減によって収益性を改善する」という方針に移行している。A320、321、B767などの古い機材が小型化のための機材として使われているが、これらは償却が進み、多少寝かせておいても機材費や維持費が嵩まない。

そのため、機材稼動が落ちるという航空会社にとって避けねばならない事態を抱えても、トータルでの事業収益性が高められるということだろう。新幹線競合の進展による北陸や九州域内の減便も、さらに検討されていよう。

  • ANAはエア・ドゥやソラシドエアなどの"親戚会社"との関係で、地方路線を調整

    ANAはエア・ドゥやソラシドエアなどの"親戚会社"との関係で、地方路線を調整していく

また、ANAは"親戚会社"であるエア・ドゥ、ソラシドエア、スターフライヤーというハイブリッド各社やIBEXエアラインズ、オリエンタルエアブリッジというリージョナル会社を活用。ANA便を休止・減便する路線の補完を任せることで、こまめに地方路線のやりくりを行って地元との摩擦を回避しているし、訓練や整備による乗員・機材稼動のデコボコに対応できることから、生産調整の柔軟性はJALより高いと言えるだろう。

いずれにしても、ブランド化や顧客の惹きつけという視点を除けば、ANA自身が国内路線に注力する余地は、極めて限られてきていると言える。

LCCをひとつの成長軸にするANA、全く触れないJAL

2017年3月のピーチ・アビエーションの増資・連結化を機に、ANAは100%出資するバニラエアに続いて、さらにLCCへの関与を深めている。

ANAが発表した今回の中期では、5年間で2社を合わせたLCCでの売上を倍増するとしており、年率15%を超える成長が必要となるが、2017年度の両社の売上高の対前年伸び率は8~10%であり、達成へのハードルは高い。まだ日本におけるLCCシェアはアジア地区の40%に比べ10%程度と低いため、成長余地は十分にあるとの意見もあるが、シェアが低く留まっている原因は、日本の航空需要の70%を占める首都圏の市場にLCCが入れていないことにある。

羽田空港の発着枠が限界状態にあり、2020年の増枠もそのほとんどが国際線に振り向けられるであろうことを考えると、「首都圏にスロットもセカンダリー空港もない」現状から、LCC各社が年率15%成長を実現するのは厳しいと筆者は思う。地方にはまだLCC需要が眠っていることは間違いないが、路線採算を維持できるかは別問題で、「そんなに飛ばす路線があるのか」ということになってくる。

  • ピーチ・アビエーションも含め、LCCが羽田空港で展開しているのは国際線のみ

    ピーチ・アビエーションも含め、LCCが羽田空港で展開しているのは国際線のみ

ブランド力が浸透しているピーチはまだしも、前期は80%超えの高い利用率で若干の赤字となったバニラエアは、イールドの確保を軸とするレベニューマネジメントに課題があり、安売りを余儀なくされる新路線の開拓は相当大変ではないか。両社とも拡大を支える乗員の確保という頭の痛い課題も残る。

また、計画で言う「ピーチ・バニラの連携強化」は、現実には非常に難しいだろう。そもそも両社の社員のDNAが全く異なる上、現時点でのピーチの成功は「ANAから指図されない=独立心」が原点となっている。そのため、「双方好きにやらせた方がいい結果を生む」のか、「ANAHDの適切な調整が必要」なのか、ANAトップの判断が注目される。

このような背景の中で、LCCの事業拡大を具体化する策として、今回ANAは、「中距離LCC領域への進出」を打ち出した。筆者が以前行ったバニラエアの五島社長との対談でも出ていた「A321neoLR」によるアジア中距離路線の運航をイメージしていると思われる。新たに直行便によるタイやインドネシア等のビーチリゾートやカンボジア等の遺跡へのアウトバウンド需要、タイ・シンガポールなどからのインバウンド需要の開拓を狙っていくことになるのだろう。

6時間超の飛行時間を狭いシートピッチで乗り切ることに旅客が馴染めるか、コストの低い相手国のLCCや大手の安売りとの競合に勝てるのか、などを考えると容易に目論見を成就できるものではないだろうが、果敢なチャレンジに期待したい。

  • ジェットスター・ジャパンには、JAL/カンタスグループ/三菱商事/東京センチュリーリースが出資している。また、2017年12月からは春秋航空日本の安全品質向上としてJALが支援を開始した

    ジェットスター・ジャパンには、JAL/カンタスグループ/三菱商事/東京センチュリーリースが出資している。また、2017年12月からは春秋航空日本の安全品質向上としてJALが支援を開始した

他方、JALの中期計画(外部発表資料)には、国内ではANAに対して優位にある九州・北海道の地域航空での新機材には触れているものの、LCCの記載が見当たらない。赤字への追加出資を繰り返したジェットスター・ジャパンは現在、ジェットスター側が主導権を持っているようだ。国内地方路線でのANA系LCCやハイブリッドとの競争は、JALにとって他人事でなく、JAL系運航会社であるジェイエア・JTAとの連携に関し、今後何らかの打ち手が必要になってくるものと思われる。

また、2017年12月にJALが整備支援を発表した春秋航空日本へは、整備受託のみならず経営スタッフの支援も考えられているとの見方もある。より経営の自由度が増した2018年度以降、JALがどのように関係LCC各社への関与を強めていくのか注目される。

今度は主戦場となる国際線に目を転じてみよう。