脳リンパ腫の症状は腫瘍ができる場所によって異なる。脳の言語領野に近い場所なら言語障害が、運動野に近い場所ならマヒといった症状が現れる。以下に主な症状をまとめた。

■失語などの言語障害

言語領野が障害をうけると、会話内容が理解できない「感覚性失語」のような失語に陥ることは、脳リンパ腫を含む脳腫瘍で特異的にみられる症状の一つ。また、ろれつが回らず、うまく話せないなどの障害が出ることも。

■マヒ

手や足のマヒも多くみられる。左右のどちらにマヒが現れるかは腫瘍ができた位置(左半球か右半球か)による。

■頭痛・吐き気・嘔吐

脳リンパ腫の特徴として、腫瘍周りに大きな浮腫(むくみ)ができることがある。浮腫ができると頭蓋骨内の空間が足りなくなり、脳内の圧力が高まる。その高まった圧力が頭痛や吐き気、嘔吐などの症状を引き起こす。

「これらを総称して『頭蓋内圧亢進症状』と呼びます。脳リンパ腫の患者さんは、『巣症状』(脳に病巣があると、その場所が刺激されてその局所の機能が亢進したり、破壊されて局所の機能が脱落したりして、それぞれ対応する一定の症状が現れること)の次に、頭痛を主訴として来院される方が多いです。頭痛で診察に来られて、よく診ると軽いマヒが出ていたりとか、ちょっとろれつが回っていなかったりすると、脳リンパ腫を始めとする脳腫瘍を疑いますね」

■かすみ目・視力低下などの視力障害

悪性リンパ腫は眼球にもでき(眼内リンパ腫)、この眼内リンパ腫が脳へと転移し、脳リンパ腫へつながるケースがある。視神経を腫瘍が圧迫するため、物が見えづらいといった症状が出てくる。厄介なことに、多くの眼内リンパ腫は症状がぶどう膜炎という炎症性の眼疾患と非常に似ている。そのため、診断が難しい場合もあるという。

この「目→脳」の逆のパターンとして、脳リンパ腫を患った患者の1~2割が眼内リンパ腫を併発するケースもある。

■認知機能低下

「ボーっとしている時間が増える」「物忘れがひどくなる」など、一見すると認知機能の低下とおぼしき症状も脳リンパ腫では度々確認される。対象が高齢者の場合は認知症を疑いたくなるが、見分ける一つの目安として症状の進行スピードがあると福島医師は話す。

「認知症は長いスパンで症状が徐々に出てくるのが一般的です。一方で脳リンパ腫は一度発症すると、まるで階段を転げ落ちていくように症状がすぐに悪化します。例えば、半年や1年といった単位ではなく、ここ1、2カ月で急に物忘れがひどくなったというのであれば、脳リンパ腫の可能性があると言ってもいいのではないでしょうか」

脳に腫瘍ができる事実が意味すること

脳には前頭葉や側頭葉、後頭葉などの部位があり、知覚や随意運動、記憶などのヒトのさまざまな機能と密接に関わっている。それだけに、そんなデリケートな場所に腫瘍ができれば、多様な症状が出てくるのも当然と言える。

「毎日パソコン作業をしているから視力が低下して当然」「年齢と共に記憶力が落ちてくるのは仕方ない」などと、最初から決めつけるのは危険。その裏に危険な病気が潜んでいる可能性はゼロではない。転ばぬ先の杖。上記で紹介したような症状が短期間に一気にひどくなるようだったら、脳リンパ腫を疑って医療機関を受診するようにしたい。


記事監修: 福島崇夫(ふくしま たかお)

日本大学医学部・同大学院卒業、医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本癌治療学会認定医、日本脳卒中学会専門医、日本頭痛学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医。大学卒業後、日本大学医学部附属板橋病院、社会保険横浜中央病院や厚生連相模原協同病院などに勤務。2014年より高島平中央総合病院の脳神経外科部長を務める。