高次脳機能障害

高次脳機能障害では以下のような後遺症が出る。

■記憶障害………「新しいことが覚えられない」「直前にあった出来事をすぐ忘れる」など
■行為障害(失行: しっこう)………「服を着る・脱ぐ、コップに飲料を注いで飲むなどの動作に関する行動プログラムが失われ、その行為ができなくなる」など
■言語障害(失語)………「相手の言葉が理解できない(感覚性失語)」「自ら伝えたいことが言葉にできない(運動性失語)」など
■認知障害………「左右のどちらかの空間を認識できない(半側空間無視)」「自分が病気であることが理解できない(病態失認)」など

これらの高次脳機能障害も、患者の在りし日の生活を取り戻そうとするうえでは厄介だと福島医師は話す。

「例えば認知障害の半側空間無視では、左右どちらかが見えなくなり、見えない側への注意力もなくなってしまいます。さらに『病態失認』といって、自分が病気であることを認識せず、自分の体がまひしているとか自分が重症であることを理解しないという症状も出てきます。仮に視野が半分見えなくなったとしても、それが異常だと気づかないんですね」。

この病態失認は、社会復帰に必要不可欠なリハビリテーションを行ううえで大きなマイナス要素となる。患者は「自分の体はどこも悪くない」と思い込んでしまっており、リハビリをする意味や必要性が理解されにくいからだ。臨床現場では、このようなケースは少なくないという。

"2重の苦しみ"に悩む現場

言語障害(失語)にも注意を払ってもらいたい。失語には「運動性失語」と「感覚性失語」がある。前者は言葉を理解できるが発することができず、後者は言葉は出てくるもその意味が理解できない。

「言葉の意味がわからない感覚性失語だと、リハビリへの介入がうまくいかないことがあります」として、医療現場からすれば感覚性言語の方が厄介なケースが多いと福島医師は指摘する。また、運よく言葉を操る言語領野に壊死が見られなくても、病態失認になってしまうと、患者本人のリハビリへのモチベーションが低くなってしまう可能性がある。

言語領野へダメージがあれば、感覚性失語がリハビリを阻む。ダメージを免れても、病態失認に蝕まれてしまえば患者への介入が難しくなる――。高次脳機能障害による"2重の苦しみ"に医療現場は頭を悩ませているが、最もつらいのは当の患者自身であることは間違いない。

本稿で紹介した後遺症を避けるためには、当たり前ながら脳梗塞を発症しないことが大切。血液の粘稠度(ねんちゅうど: ねばりけがあって濃いこと)を下げるため、こまめな水分補給をしっかり心がけるのはもとより、高血圧糖尿病、高脂血症、たばこなどの動脈硬化を促すリスクファクターにも気を配るようにしよう。

記事監修: 福島崇夫(ふくしま たかお)

日本大学医学部・同大学院卒業、医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本癌治療学会認定医、日本脳卒中学会専門医、日本頭痛学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医。大学卒業後、日本大学医学部附属板橋病院、社会保険横浜中央病院や厚生連相模原協同病院などに勤務。2014年より高島平中央総合病院の脳神経外科部長を務める。