インテルは2日、携帯情報機器向けの低消費電力CPU「Atom」(開発コードネーム: Silverthorne)を正式発表した。同社がMID(Mobile Internet Device)と呼ぶ、小型のインターネット端末に搭載されることを想定した製品で、Windows XP/Vista、LinuxといったPC向けのOSがそのまま動作するのが特徴。搭載製品はこの夏以降に登場する見込み。

低消費電力CPU「Atom」(下)と、対応チップセットの「システム・コントローラー・ハブ」(右上)

「Z500」「Z510」「Z520」「Z530」「Z540」の5モデルが用意され、最も高速なZ540の動作クロックは最高1.86GHz、熱設計電力(TDP)は2.4W。L2キャッシュ容量はいずれのモデルも512KB。上位3モデルは2つのプロセスを並行処理することで性能を向上させるハイパースレッディング(HT)技術に対応する。グラフィック機能を統合したチップセット「システム・コントローラー・ハブ」(開発コードネーム: Poulsbo)も同時発表された。

「インテル最小」かつ、TDP 3W以下では「最速」のプロセッサをうたう

グラフィック、ノースブリッジ、サウスブリッジを統合した「システム・コントローラー・ハブ」

Atomおよびシステム・コントローラー・ハブを採用し、無線LANやモバイルWiMAXなど何らかの無線通信機能を搭載したモバイル機器は「インテル Centrino Atom プロセッサー・テクノロジー」のブランド名で呼ばれる。ノートPC市場において、同社のCPUと無線LANを搭載した製品を「Centrino」のブランド名で展開したのと同種の施策となるが、MIDにはインテルが製品を用意しているWi-FiやモバイルWiMAXだけでなく、HSDPAモジュールなどが搭載される場合もあるので、無線通信機能はインテル製品以外で実現しても「Centrino Atom」を名乗ることができる。

Atom、システム・コントローラー・ハブ、ワイヤレス通信機能を搭載したモバイル機器を「Centrino Atom」のブランド名で展開。ワイヤレス通信機能はインテル製品以外でも良い。機器のサイズは具体的には規定されていないが、目安は「ポケットに入る程度の大きさ」という

製品名 動作クロック TDP 平均消費電力 アイドル時消費電力 FSB HT
Atom Z540 1.86GHz 2.4W 220mW 100mW 533MHz 対応
Atom Z530 1.6GHz 2W 220mW 100mW
Atom Z520 1.33GHz 2W 220mW 100mW
Atom Z510 1.1GHz 2W 220mW 100mW 400MHz
Atom Z500 800MHz 0.65W 160mW 80mW

製品の物理的なサイズも小さく、外形寸法はAtomが14×13mm、システム・コントローラー・ハブが22×22mm。同社によれば、Atomは「インテル最小のプロセッサ」だという。同社がEEMBC Suite v1.1を使用して行ったベンチマーク試験結果によれば、ARM11コアを搭載した400MHzのプロセッサを1とした場合、Atom 1.1GHz(HTなし)の性能は6.8、Atom 1.6GHz(HTあり)の性能は13に相当するという。

ARM11コアのプロセッサと比べると、2.75倍の周波数で6.8倍、4倍の周波数+HTで13倍のベンチマークスコアを得られるとしている。表中の「Cortex-A8」はARMアーキテクチャの最新コアで、スコアはインテルの予測による

CPUアイドル時の電力消費を下げる機能としては、「C6ステート」と呼ばれる状態を新たにサポートした。従来、同社のモバイルCPUで最も電力消費の少ない「C4ステート」では、コアクロックおよびクロック生成回路をオフにし、L1キャッシュのすべてとL2キャッシュの一部について、内容をメインメモリに書き戻してオフにすることで、CPU内のすべての回路がオンの状態である「C0ステート」に比べ、12%まで電力消費を下げていた。C6ステートではさらにL2キャッシュのすべての内容を書き戻してオフにすることで、C0比で6%までアイドル時の電力消費を下げた。

同社では、Atom単体ではC6ステート時の消費電力は100mW(Z500は80mW)、システム・コントローラー・ハブを含めたプラットフォームとしてのアイドル時消費電力は1W程度になるとしている。また、Centrino Atomを採用した実際の製品では、12Whのバッテリーを使用した場合で4時間以上の動作が可能になることを想定しているという。

アイドル時は、プロセッサ内の不要な部分をオフにし電圧を下げることで電力消費を抑えている。新たに追加されたC6ステート時は100mWまで落ちる。プラットフォームとしてのアイドル時消費電力は1W程度だという

一般に、プロセッサの性能を1%上げると3%の消費電力増を伴うとされており、インテル製品でも実際に性能1%あたり2%程度の電力増が発生していたが、Atomはこれを1%増に抑えることを目標に設計された

通信事業者3社もゲストで登場

同日行われた発表会ではインテル代表取締役共同社長の吉田和正氏が、Centrino Atomプラットフォームの登場は、MIDによるこれまでにないインターネットの利用スタイルを生み出すとアピール。Centrino Atomが目指す新しい世界を一言で表現すると「full internet experience in your pocket」であり、従来ではPCでないと利用できなかった高度なプラグインやcodecを必要とする「フル・インターネット」の体験を、ポケットの中に収まる小型の機器でも可能にすることが新製品のねらいであると説明した。

Atomのダイが形成された300mmウェハを持つインテル代表取締役共同社長の吉田和正氏

ダイサイズは25平方mm以下で、1枚のウェハから実に2,500個のAtomを製造できるという

また、発表会にはNTTドコモ プロダクト&サービス本部 ユビキタスサービス部長の青山幸二氏、UQコミュニケーションズ(旧ワイヤレスブロードバンド企画)取締役執行役員副社長の片岡浩一氏、ウィルコム代表取締役社長の喜久川政樹氏が招かれた。3氏は、各社が手がけるデータ通信サービスを生かす端末として、Centrino Atom搭載製品への期待を寄せている旨のコメントを寄せた。

左からインテル吉田社長、ウィルコム喜久川社長、NTTドコモ青山氏、UQコミュニケーションズ片岡副社長。青山氏は定額データ通信の開始やドコモに対応したHSDPA内蔵PCの登場、Super 3Gによる250Mbps実験の成功などをアピール。片岡氏はインテルも推進するWiMAXがCentrino Atomと一体となることで、モバイルインターネット機器の発展につながると期待を表明

中でも、Atom搭載端末の発表を今月末に控えたウィルコムの喜久川社長は「昨年5月、インテルの吉田社長と都内のホテルで会談し、新しいチップセットを搭載した端末を世界最速で発売しようと合意した」と話し、この1年間Atom端末のプロジェクトが水面下で進行していたという舞台裏を披露。間もなく製品を正式発表できる喜びを語った。

ウィルコム喜久川社長は発表を控えたAtom搭載端末について言及。しかしこの日は具体的な内容については触れなかった

会場では、クラリオン、富士通、松下電器産業、東芝の4社がAtom搭載製品の試作機を展示したほか、ミラクル・リナックスがMID向けLinux「Asianux Mobile Midinux」の開発者キットを提供(6月予定)、ターボリナックスがCentrino Atom対応Turbolinuxを開発、ソフィアシステムズがMID/携帯情報端末向け開発プラットフォーム「PEARTREE」を提供(第2四半期中予定)することがそれぞれ発表された。

クラリオンの携帯型ナビゲーション機器「MiND」。1月に米国で開催されたCESで発表済

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東芝のCentrino Atom搭載MID。CESで発表済