働き方改革を推進する企業にとって、テレワーク環境の整備は避けて通れない。だが、どのような導入手順を踏めばよいのかわからないという企業も多い。本連載の第2回となる今回は、テレワーク環境に最適なシステムの選定方法、および労務管理に必要な仕組みについて、これまで多くの企業に働き方改革を支援してきた、日商エレクトロニクスのサービス事業推進部 サービス推進課 課長補佐 藤森譲氏と、同課の副島美希氏に話を聞いた。

リモートデスクトップのメリットデメリット

ICTを利用して本来の勤務場所から離れた外出先や自宅などでも仕事ができる環境を用意するテレワークは、柔軟で多様なワークスタイルやワークライフバランスの向上を目指す「働き方改革」にとって必要不可欠な手段だ。テレワークを導入すれば、育児や介護による離職の防止、遠隔地の人材雇用、災害時の事業継続といったさまざまな効果を企業にもたらす。

しかし、実際にテレワークを導入するのはそうたやすいことではない。藤森氏は「テレワークを効果的に導入できていない失敗例は山ほどある」と警鐘を鳴らす。

  • 日商エレクトロニクス サービス事業推進部 サービス推進課 課長補佐 藤森譲氏

    日商エレクトロニクス サービス事業推進部 サービス推進課 課長補佐 藤森譲氏

「テレワークを導入する際、まずはそのシステム基盤としてどんな方式があるのかを理解しておく必要があります。それぞれに一長一短があるので、それを見極めた上で自社に最適な方式を選ぶようにするべきです」(藤森氏)

テレワークのシステム基盤として最も容易に導入できるのが「リモートデスクトップ方式」だろう。これは、オフィスで利用しているPCのデスクトップを外部のPCやモバイル端末から操作できるようにする仕組みだ。インターネット回線とPC 2台だけですぐに利用を開始でき、低コストで導入できるというメリットがある。また外部のPCには画面イメージが転送されるだけなので、データの持ち出しといった心配もない。

一方でオフィスのPCを常時起動しておく必要があるため、未使用時でも電気代がかかるというデメリットがある。さらに、ID/パスワードが流出すれば簡単にサイバー攻撃を受けてしまうというセキュリティ面のリスクもある。

「リモートデスクトップ方式はPCの運用管理が個人任せになり、ITガバナンスを効かせにくいため、大規模なテレワーク環境には向いていません」(藤森氏)

VDIのメリットデメリットと選定方法

そんなリモートデスクトップ方式に代わり、現在のテレワークで主流となっているのが、「VDI(Virtual Desktop Infrastructure:仮想デスクトップ)方式」だ。

VDI方式はサーバ上の仮想環境にデスクトップを用意し、オフィスからも外部からもネットワーク経由で同じデスクトップにアクセスする。企業のIT部門がデスクトップを集中管理し、OSのアップデートやセキュリティパッチの適用、利用可能なアプリケーションの制限、バックアップなどを計画的に実行できるなど、ITガバナンスに則って運用できるというメリットがある。

VDI方式は厳密に言うと、さらにいくつかの方式に分類できる。最も一般的なのは仮想環境上にWindows 10などのクライアントOSを導入し、各ユーザーが個人用デスクトップを専有する方式だ。このほか、デスクトップを複数のユーザーが共有する方式や、サーバOSのマルチユーザー機能を利用して個人用デスクトップからアプリケーションを共有するSBC(Server Based Computing)方式がある。さらに、クラウド事業者が提供する仮想デスクトップサービスを利用するDaaS(Desktop as a Service)方式もある。

専有型VDI方式が最も柔軟性が高く、ユーザーの利便性も高いが、そのぶん導入・運用コストがかかる。SBC方式は標準化しやすく管理性も高いが、ユーザーの自由度は低く他ユーザーからパフォーマンスの影響を受けやすいというデメリットがある。

「こうした方式は、普段の使い方や働き方を調べてから決定します。どんなアプリケーションを使って、どんな業務を行い、データ量はどれだけ扱っているのか、また処理が集中するピークはいつか、といった情報を集めて最適な方式を選び、デスクトップのスペックも決める必要があります」(藤森氏)

VDI導入に失敗した企業を助けるサービス

藤森氏によると、VDIの導入に失敗する例として多いのは「デスクトップ環境が遅くて使いものにならない」ことだという。業務やアプリケーションがどれだけのCPUリソースを使って処理をしているのか、メモリやストレージ容量はどれだけ使っているのかといった、アセスメントを行わずにスペックを決めてしまうと、このようなケースに陥りやすいという。一方で、ピーク時でもパフォーマンスに影響しないように設計し、オーバースペックの状態で高いコストを負担し続ける企業もあるそうだ。

このように「VDIを導入したものの効果が得られていない」という企業向けに、日商エレクトロニクスでは「リプレースの支援サービス」を提供している。現行システムのヘルスチェックとトラブルシューティングを行い、改めて普段の使い方の情報を集め、最適なVDIを再構築するというサービスだ。

「こうしたアセスメントを事前に行わず、SIベンダーに勧められるがままVDIを導入したために、うまく運用できていないというユーザー企業からたくさんの相談を受けています。またSIベンダー側からも、顧客のVDI環境の改善を依頼されたり、顧客のIT部門も交えながら一緒に折衝したりすることもあります。豊富なVDIの導入実績から、現在はこの導入支援サービスが大きなビジネスの1つとなっています」(藤森氏)

  • 現在の環境が必要としているリソースの把握。サイジング指標を算出したレポートの一例

    現在の環境が必要としているリソースの把握。サイジング指標を算出したレポートの一例

働き方改革には「労務管理」が重要

テレワークを導入する際に注意すべきなのは、システム基盤だけではない。副島氏は「テレワークを導入した際の勤務形態や労働時間など、「労務管理」についても見直さなければいけない」と指摘する。

  • 日商エレクトロニクス サービス事業推進部 サービス推進課 副島美希氏

    日商エレクトロニクス サービス事業推進部 サービス推進課 副島美希氏

「テレワークを導入し、いつでもどこからでも仕事ができる環境が整備されると、勤務時間にかかわらず仕事をすることが当たり前といった風潮になりがちです。しかし、例えば勤務時間外にメールを見ただけでも、企業にとっては労務管理の面で問題になる場合もあるのです」(副島氏)

働き方改革関連法では、長時間労働の是正と残業時間の上限が明記され、企業は従業員の安全配慮義務を強く求められるようになる。テレワークによって柔軟な働き方が実現されたとしても、それにより勤務時間に関わらず際限なく働くような環境になってしまっては、まさに本末転倒なのだ。

「テレワーク環境で労務管理を実施するには、従業員がいつ、どこからシステムにアクセスしたかという『ログ』を証跡として残すことが重要になります。そこで当社では、2018年4月からテレワークに対応した『労務管理支援サービス』を開始しました」(副島氏)

企業の労務管理担当者はWebポータルにアクセスするだけで、労務管理に必要なVDIセッション接続/切断時間、接続時間帯、アクセス元IP等の詳細情報を一覧することができる。労務実態を把握し従業員の健全性を保つためには、テレワークを行っているか否かにかかわらず、従業員の労働時間を客観的に管理することが重要だ。

ここまでは、働き方改革を実現するために必要な、厚生労働省が推進するテレワークのあり方や、リモートデスクトップとVDIによるメリットデメリット、労務管理の重要性について触れてきた。最終回となる第3回では、テレワークを実際に導入・運用している企業の「働き方改革の実態」をレポートする。

日商エレクロトニクスのHPはこちら
https://www.nissho-ele.co.jp/index.html
VDI導入・運用支援サービスはこちら
https://vdilab.nissho-ele.co.jp/
労務管理支援サービスはこちら
https://www.nissho-ele.co.jp/solution/working_time_management/index.html

※記事内の組織名称は2018年3月時点のものとなります

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