クラウドの活用は、電子カルテなどの厳密な情報管理が求められるシステムでも進んでいる。2025年3月21日、さくらインターネット株式会社が「第3回 さくらのユーザー会」を開催し、新宿・京王プラザホテルとオンライン配信のハイブリッド形式で行われた。ユーザー企業による活用事例紹介では、医療情報システムを展開する株式会社メディサージュの本橋 聡氏が登壇。「さくらのクラウドで実現! 医療プロダクト事業の早期黒字化達成」と題して、国産クラウドを活用するメリットと業界展望について語った。

医療ICTを手がけるメディサージュが注目した「さくらのクラウド」のメリット

臨床検査事業を基盤に医療機関支援や調剤薬局など多彩なサービスを展開するファルコホールディングスで、医療ICT事業・管理事業を担うメディサージュ。「人々の健康を支え、いい人生を提供すること」「健康を支えるインフラを提供すること」をミッションとビジョンに掲げ、主要サービスとして、病院向けクラウド型電子カルテ「HAYATE/NEO」、診療所向け電子カルテ「@homeDr.」、検査依頼・結果紹介サービス「Forest」「TASCAL for ASP」などを展開している。

  • (図版)株式会社メディサージュの主な事業について

そのなかでも「さくらのクラウド」を活用し成果を上げているサービスが、診療所向け保険請求支援「レセスタ(Receipt Knowledge Style)」だ。本サービスの特徴について、本橋氏はこう説明する。

  • (図版)レセスタについて

レセスタは、医療機関が診療報酬の支払いを受けるために、厚生局に提出するレセプトデータの内容をチェックするサービスです。レセプトデータは、患者の氏名や生年月日、利用している国保や社保の情報、病名や経過情報、診療内容、点数などが記載されている医療機関の経営に欠かせない重要データです。これらの内容を点検しながら、各種情報の提供や専門チームによるレセプトに対するQAサービス、診療報酬の改正に関連するセミナー開催などの支援を行っています」(本橋氏)

  • (図版)レセスタについて

本橋氏は、エンジニアとして証券取引システムや経理業務システムなどの開発に携わったあと、自社製品におけるデータ検索・分析システムの開発や医療データ検索システムの開発責任者を歴任してきた。

「医療データ検索システムは、私が初めてサーバーインフラの設計・構築から開発を担当したプロダクトで、その時に活用したのがさくらのクラウドでした。そこで大きなコストメリットがあると感じ、その後に開発を担当することとなったレセスタでも、そのメリットを生かすことにしたのです」(本橋氏)

  • (写真)株式会社メディサージュ ICT事業本部 リーダー 本橋 聡 氏

    株式会社メディサージュ ICT事業本部 リーダー 本橋 聡氏

新サービス「レセスタ」の開発で安定性、ガイドライン準拠、コストの課題に直面

レセスタの開発において、さくらのクラウドを選定する決め手ともなった大きなメリットが「事業存続のための予算問題を解消できる」ということだ。レセスタは同社にとって新しい市場を切り拓くための戦略製品であり、ニーズの先読みがしにくく、プロダクトアウトの側面があった。そのため、事業を存続するためにコストを極力抑えた状態で進めなければならなかった。

開発当初は別の格安クラウドサービスを使っていたものの、サービス事業者都合の急なメンテナンスや、突然の通信瞬断、通信速度が不安定といった事象に悩まされていたという。また、本番環境では医療システムの提供における厚労省のガイドラインに準拠する必要もあった。「著名なパブリッククラウドサービスは安定性やガイドライン準拠といった要件を満たしていたものの、非常に高価です。そこで注目したのが、さくらのクラウドでした」と本橋氏は経緯を語る。

開発環境を移植し検証したところ、安定性やガイドライン準拠といった課題を解消できることがわかった。また、コストも大幅に削減でき、スモールスタートでビジネス展開に合わせて拡張していくことも容易だった。

稼働当初のシステム構成はシンプルでした。Webサーバー2台、Batchサーバー2台、データベース、 ロードバランサー、メールの7つのサーバーで構成され、規模も数十ユーザーが対象でした。その後、利用ユーザー数が増えていくのに合わせて規模を拡大させ、現在は、5000ユーザー約30サーバーを利用しています」(本橋氏)

データセンターは、当初の東京リージョンに加え、石狩リージョンを契約し、ブリッジ接続で運用。開発環境からトラブルに見舞われたことはなく、サーバー台数を増やす作業も容易だったという。本橋氏はこうした点を評価し、「レセスタに加え、新サービスとなる服薬管理システム『ピクスリー』もさくらのクラウドを採用しています」と横展開が広がっていることも明かした。

  • (図版)さくらクラウドの利用状況について
  • (図版)さくらクラウドの利用状況について2

優れたUIを備えた「コントロールパネル」で複雑なメンテナンス作業も効率化

運用にあたっては、医療システム特有の課題に直面することがあったという。たとえば、ネットワーク内での固定IPアドレスを変更することが難しいという点だ。本橋氏はこう説明する。

「医療機関では、アクセス制限をドメイン単位ではなく、IPアドレスで指定して実施するポリシーで決められていることが多いです。IPアドレスは固定で、バージョンアップや新サーバーへの切り替え時に変わることも基本的には許されません。当時はサーバーのOSにはCentOS 7を利用していましたが、CentOSのサポート終了に合わせて、OSの切り替えと新サーバーへの移行が必要になりました。OSの移行にともなって開発言語のJavaやミドルウェアもバージョンアップしなければなりません。サーバーのIPアドレスを変えずに、どう移行するかが課題になったのです」(本橋氏)

そこで活躍したのが、さくらのクラウドのコントロールパネルだった。移行の手法としては、移行先となる新サーバーを旧サーバーと同一のネットワークセグメントに追加し、構成を変えないまま旧サーバーと新サーバーのディスクを入れ替えるというもの。入れ替えが終わったら追加した新サーバーを削除して、旧サーバーを新しいディスクを持った環境で立ち上げる。これにより、同じIPアドレスを保ったまま、サーバーのOSやミドルウェア環境を継続的にアップデートすることが可能だ。本橋氏は「こうした新サーバーの追加、ディスク入れ替え、追加した新サーバーの削除をコントロールパネルから簡単に実施できることも、さくらのクラウドの大きなメリットです」と評す。

こうしたディスク入れ替えを活用したシステムメンテナンス作業は、大規模なセキュリティアップデートの適用やソフトウェアのメジャーバージョンアップなどで活用できる。これにより継続的にシステムを最新の状態に保ち、医療機関を狙ったサイバー攻撃やセキュリティインシデントにも対抗できるようになる。

使い続けることによって感じた、さくらのクラウドの「3つの魅力」とは

そのうえで本橋氏は、さくらのクラウドを使い続けることで実感した3つの魅力について語った。

「1つめは、利用者のことを考えてくれているUIです。Webサイト上にあるコントロールパネルが直感的に操作でき、追加・変更する際などに見積価格が簡単に取得できます。契約もシンプルでわかりやすいです。2つめは、豊富なドキュメントです。目的別にドキュメントがあり、検索がしやすい点もいいですね。設定値に関するオプションの解説もわかりやすく、図が入っているため理解もしやすいです。そして3つめは、充実したサポート体制です。営業サポートの方に相談した際に、必要に応じて技術部の方につないでもらい、直接専門家による相談・アドバイスをいただけるため、心強いです」(本橋氏)

こうした開発者にとってのメリットに加え、営業や経営にとってのメリットも大きいという。

「『さくらのクラウド』 は、国内企業唯一のガバメントクラウド認定*サービスです。 さくらのクラウドを採用したことで、顧客からの信頼度がアップしたことに加え、営業トークにも有効です。また、利用コストが非常に経済的で、事業への貢献度も高く、レセスタにおける早期黒字化を達成できました。加えて、『さくらのクラウド検定』の無料教材が豊富なことも魅力です。基礎的なところから押さえられるため、教育ツールとしても活用しています」(本橋氏)

*2025年度末までに技術要件をすべて満たすことを前提とした条件付きの認定

最後に、今後はレセプトチェック業界の取り組みを活性化させていきたいと展望を語った。

「国の政策である医療DXの目玉機能の1つに『共通算定モジュールAPI』があります。APIを使って各医療機関でレセプトチェックを行えるようになりますが、レセスタの機能が不要になるということでもあります。そのため、新しい製品や機能の開発にもチャレンジしていきます。さくらのクラウドのユーザー会からは、そのためのヒントも得ています。ユーザー会の皆さまと一緒に、業界へのチャレンジを続けていきたいです」(本橋氏)

メディサージュにおける新サービス創出と早期黒字化に向けて、さくらのクラウドが再び大きな役割を果たすことが期待される。

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 診療所向け保険請求支援「レセスタ」

 病院向けクラウド型電子カルテ「HAYATE/NEO」

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 服薬管理システム「ピクスリー」

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