車載市場を中心に、自動車部品やコンシューマ関連機器、産業機器などあらゆる電子機器の内部で電気と信号をつなぐコネクタの専業メーカー、イリソ電子工業。多くの拠点を海外に展開する同社では、長年オンプレミス環境で使ってきた基幹システムのサポート終了を機に、将来のビジネスを見据えた業務改革、グローバル オペレーション統合といった視点から、システム刷新とクラウド移行を計画しました。結果として、クラウドにおいて高い信頼性を持つ Microsoft が提供する SaaS 製品であることや、多言語対応、Office 製品との親和性、コスト削減と運用効率向上を期待し、ERP を Microsoft Dynamics 365(以下、Dynamics 365)に刷新。同時に、セルフ サービス BI 導入等によるビジネス高度化にも取り組みました。同社とマイクロソフトが協働で進めた本プロジェクトの歩み、そしてシステム本格稼働後の現在を深掘りしていきます。
業務プロセス最適化を視野に、既存 ERP の刷新を計画
イリソ電子工業は 1966 年に創立された、コネクタの製造・開発・販売を事業とする企業です。活動は12 の国・地域に広がり、そのうち国内外で製造・販売等を行うグループ会社 11 法人で単一のERPを使用。日本国内、中国、フィリピン、ベトナムなどに開発・生産拠点を構えています。中心となる車載市場では世界中の Tier1自動車部品メーカーと取引しており、製品の種類の多さ、とりわけコネクタのXY及びZ 軸方向 (左右、前後、上下あらゆる方向) での可動技術をコアとする接続ソリューションの提案に強みを持っています。自動車の電動化が進む今、同社としてはその市場はもちろんのこと、同じく進化の著しいロボット内部等への搭載においても、事業のさらなる拡大を目指しています。
同社では 20 年ほど前から、グローバルで基幹システムにERP パッケージを利用してきました。その ERP 製品のサポートが 2025 年に終了することを受け、情報システム部門では「その後」についての検討を始めます。同社管理本部情報システム部部長で、Dynamics 365 の導入においてプロジェクト マネージャーを務めた松田 仁氏が振り返ります。
「既存 ERPの使用 を延長しようとすると、パッチ等を大々的に適用しなければなりません。そこにかなりの費用と手間がかかることに加えて、いずれにしても 2027 年には保守サポート自体が終了することになるため、その先を見据えた対策を検討することが必要でした」(松田氏)。
ERP 刷新の直接的な契機となったのは既存ERP のサポート終了でしたが、他にも課題があり、それらの解決も目指したといいます。
1 つめに、長きにわたり使ってきたことで、システム自体の陳腐化に対するリスクがありました。基本的に24 時間 365 日運用で稼働していたため、ソフトウェア等のバージョンアップが難しいケースが多かったと言います。この運用課題を解決するため、単に既存システムを刷新するだけでなく、オンプレミスからクラウドへの移行も重要なテーマとなりました。
「当社の事業規模では情報システム部もリソースが限られています。今後IT ニーズがより多様になることが容易に想定できる状況も相まって、その状態でオンプレミスやIaaS 環境のシステムを満足に運用していくことは難しいと感じていました。さらに、DR (ディザスタリカバリ)環境を構築・運用したくても、オンプレやIaaS では大きなコストと手間がかかるため躊躇せざるを得ませんでした。その点でもSaaS ソリューションに大きな魅力を感じていました」(松田氏)。
クラウド化によってBCP (事業継続計画)対策が実現され、それによって経済効果が期待できるという点も、クラウド移行に踏み切る大きな理由となったそうです。
そして 2 つめに、蓄積されたデータを分析・活用しようとした際に、既存の ERP では BIツールが実装されていなかったため、情報システム部門によって作り込まれた定型レポートを使用していました。そのため、 ERP 内に収集されているデータをより柔軟かつタイムリーに活用し、ユーザーが利用しやすい BI ツールで統合して、横串で可視化・分析するよう活用したいと考えていました。
新たな ERP 導入に向けて 3 つの選択肢を検討
タイムリミットが 2025 年と明確にわかっていたこともあり、同社は早くも 2018 年から次期システムの企画・構想策定に着手し、複数の選択肢について検討を開始しました。その選択肢は次の 3 つ。1 つ目は、同じベンダーが提供する ERP 製品の最新バージョンへの単純バージョンアップ。2 つ目は、同ベンダーの 最新ERP 製品で一から新規構築する方法。そして3 つ目は、別のベンダーのソリューションに切り替える方法です。
松田氏は3 つの選択肢それぞれについて、翌 2019 年からコンサルティングを交えてより詳細な比較検討を開始しました。コスト、機能面、導入の容易さ、導入後のサポート体制などの観点から評価を行った結果、従来とは異なるベンダーのソリューション導入へと舵を切ることになります。そしてそれらすべての最適なソリューションとして選ばれたのが、「 Microsoft Dynamics 365 」です。
クラウドの利便性と実績、ツール連携等の視点から Dynamics 365 を選ぶ
ソリューション検討は、グローバルに展開する同社ならではのビジネス特性に照らして、多言語多国籍で使用可能な4 社の製品を対象に行いました。機能、運用コスト、セルフサービス BIソリューション、 DR ソリューション、そしてサポート体制等の観点で、ユーザー部門の意見も聞きながら比較を実施。結果としてDynamics 365 が選定された理由について、松田氏は次のように説明します。
「まず高く評価したのは、Dynamics 365 は Azure 上に構築されたSaaS ソリューションであり、マイクロソフトが IaaS から SaaS まで一貫してクラウド環境を提供している点です。さらに、データ基盤からアプリケーション層までマイクロソフトの技術で統合されていることにより、システム全体の整合性や安定性が確保され、運用面でも高い信頼性が担保される点にも大きな安心感がありました。単なる基幹システムの刷新だけではなく、オンプレミスからクラウドに移行するということが重要なテーマとなった今回の取り組みにおいては、こうしたDynamics 365 の統合されたクラウドサービスよって得られる、高い可用性と安心感が決め手となりました。BCP の観点からもクラウドの採用には経営側の賛同を得ており、クラウドベースの仕組みに移行することを必須の要件としていましたが、Dynamics 365 は SaaS 型サービスとしてすでに多くの実績を持っている点も評価につながりました」(松田氏)。
マイクロソフトのソリューションということで、同社で利用している Office 365 製品との親和性や連携性の高さも評価したといいます。さらに前述の BI については元々、基盤の部分は情報システム部が構築・運用しつつ、データ活用自体は業務部門のユーザーが自由に行うセルフ サービス BI を導入・推進しようと考えていたところ、 Dynamics 365 なら BI ツールの Power BI と連携し、Azure の環境上で簡単に実現できるところもポイントになったと松田氏は語ります。そのほか、ライセンス体系とその料金や、製造業における豊富な導入実績も後押しとなり、最終的に Dynamics 365 が選ばれました。
大規模なシステム移行プロジェクトを成功へ導いた、パートナーとMicrosoft FastTrackの支援
導入プロジェクトは、マイクロソフト、及び導入実績の豊富なSIer をパートナーとして、 2021 年 5 月にスタート。移行においては、イリソ電子工業の ERP 環境の特殊性が一つのポイントになりました。
イリソ電子工業は、11 のグループ会社を単一のシステム(シングルインスタンス)で運用しており、会計処理や会社間取引の統一・自動化を実現しています。この仕組みはプロジェクトの鍵となりましたが、移行には特有の難しさもありました。
「シングルインスタンスには多くの利点がありますが、その分、既存シングルインスタンスからの移行は困難です。グループ会社間の取引をリアルタイムで自動化しているため、法人単位での移行はできず、全社一斉の“ビッグバン”移行が必要でした」(松田氏)。
プロジェクトでは、製造業向けに豊富な導入実績を有するDynamics 365 やその他の SaaS サービス、及び製造原価管理の専用システムとのシステム間インターフェース処理を Azure の IaaS に構築しました。同じAzure テナントのIaaS 上に集約することで、データのやり取りなどが容易な状態を実現するのが目的だったといいます。
プロジェクト全体の管理はウォーターフォール型とし、マイクロソフトのクラウドソリューション展開支援サービスである FastTrack と、支援パートナーである SIer が提供するサポートをフル活用しながら構築に臨みました。
FastTrack は、 Dynamics 365 導入プロジェクト全体を通じて、ガイダンスやベストプラクティスの提供に加え、本稼働後のハイパーケアも実施しました。導入期間中には、「Success by Design 」の概要説明や、ソリューション・ブループリントのレビュー、本稼働準備のアセスメントなど、専門的なナレッジやワークショップを通じて、必要なタイミングで的確な分析と支援を行いました。
ウォーターフォールを採用した理由については次のように説明します。
「昨今はプロジェクトの進め方として多様な方法がありますが、一斉に移行・稼働するため一つひとつの局面を区切り、後戻りのない形で着実に進めるにはウォーターフォールが最適だと判断しました」(松田氏)。
ただ、これほど大規模な IT プロジェクトは同社としても久々のことであり、とりわけ業務部門のメンバーは大規模システム導入のプロセス自体に慣れていませんでした。人的リソースやスケジュールの調整は苦労を極め、現場のプロジェクト活動の経験不足ゆえに手戻りも発生したことから、特にテスト工程では時間を要したといいます。
こうした状況の中、Microsoft FastTrack は、テストや機能最適化、パフォーマンス、本番環境への移行など、さまざまな課題に対応するため、イリソ電子工業および開発・導入パートナー企業と密に連携。稼働前後を通じて、日本国内はもちろん海外拠点の課題にも対応し、三者が一体となってプロジェクトの最適な進行を支えました。
「プロジェクト規模が大きいので社内リソースは当然不足しましたし、その分は SIer に頼ったり、タスク締め切りの時間差や工程の切り替わりをうまくやり繰りしたりする必要がありました。」と松田氏。対象の業務領域や連携システムの範囲が広く、システムテストには特に時間を要したといいます。
「カットオーバーに向けたデータ移行に関しては、約 2 年かけて何度もテストを繰り返し、移行プロセスの習熟度を徹底的に高めました。その結果、最終的にはトラブルなくオンタイムで一斉に切り替えることができました」(松田氏)。
Dynamics 365 へスムーズに移行し、グローバルでも安定稼働を実現
2024 年 4 月、新システムが稼働しました。致命的な問題は起きませんでしたが、その後も継続して運用安定化を図り、より安定的に稼働しています。Dynamics 365 はイリソ電子工業グループ全体の販売・購買・生産・会計の各領域において、現時点で600 人弱のユーザーに利用されているとのことです。
従来の ERP とは異なる新システムへの移行でしたが、もともとシングルインスタンスで運用していたため、機能要件の集約や変更点の周知がしやすく、事前に各部門で時間をかけて習熟度を高めたことで、大きな混乱は起きなかったといいます。また、企画やソリューション選定の段階から業務部門が関与していたことも、スムーズな運用移行につながりました。
Dynamics 365 への切り替えで得られた効果としては、まず、陳腐化しつつあった従来のレガシー システムからの全面的な移行を実現できたことを、 IT 部門として評価しているといいます。 また、移行に伴いシステムにおける組織構造の定義や業務プロセスを見直し、従来は個別に構築・運用していたデータウェアハウスとのデータ連携とその運用の簡素化を図れたこと、時代に即してアップデートした内部統制の仕組みを構築時に組み込んで強化できたこと、そして構築段階で DR を設計・実装し BCP 対策を大幅強化できたことも評価します。
「移行前に課題として感じていたことが解決し、業務プロセスの標準化、データ活用の高度化とIT 運用簡素化、そしてBCP ・内部統制強化も含め、刷新を機に実現したいと考えていた効果が見られています」(松田氏)。
セルフ サービス BI の実現については、ひとまず仕組みの導入に成功し、今後さまざまな部門でセルフ サービスでの活用を浸透させていきたいと松田氏は意欲を示します。
生産関連ソリューションの充実でさらなる価値創造を目指す
プロジェクトを通じたマイクロソフトの FastTrack による支援に関してはこう話します。
「Dynamics 365 は私たちにとっては初めてのソリューションですので、こういった使い方をしたい、外部システムとこのように連携したいという希望や疑問点に、FastTrack のチームがSIer と協業して、当社固有のビジネス要件や実現したいシステム機能の使い方などを把握したうえでしっかり対応してくれたことがありがたかったですね。SaaS であるためサイジングやキャパシティ計算など当社の力だけでは難しいところもあるのですが、それについても FastTrack で有効なアドバイスをもらえました」(松田氏)。
基幹システムのリプレースが軌道に乗り、グループを通じた業務の標準化やデータ共有・活用、また内部統制や DR / BCP といった点でも強化が見られたことで、同社は次の目標に向けて歩み始めました。
「当社はメーカーですから、やはり生産系、とくに生産現場に関わるところでシステム面から強化していきたいと考えています。将来的には、国内外の複数の生産工場に同一のMES (製造実行システム)を導入して各工場の設備の稼働状況や各ライン上の製造状況、生産計画の進捗状況などを可視化していきたいですし、設計開発のところにも PLM (製品ライフサイクル管理)などのツールを入れて設計段階から原価管理を行い、ERP との連携も進めていきたいと思っています。加えて、業務プロセス改善を支えるIT での支援、Copilot など生成 AI の活用などによるDX を進め、競合との差別化を図っていきたいですね」(松田氏)。
そのうえで、顧客に寄り添って問題解決のソリューションを迅速に提供し、顧客から常に選ばれる会社になることを目指していると松田氏。その未来に向け、マイクロソフトにも重要パートナーとしてさらなるサポートを期待したいと、希望を語ってくれました。
[PR]提供:日本マイクロソフト


