資生堂が全国約 9000 名を数える美容職のコミュニケーション変革に取り組んでいます。2022 年 10 月には、創業 150 周年を機に、店頭で応対・接客を行う国内ビューティーコンサルタント(BC)の名称を「パーソナルビューティーパートナー(PBP)」にあらため、これまでの「美をリードする存在として美しくなる方法をお伝えするコンサルタント」から「お客さまのなりたい美を一緒に創り上げるパートナー」へと進化させました。併せて 2021 年から取り組んできた中長期経営戦略「WIN 2023 and Beyond」に沿って、日々変化する市場環境に迅速に対応するデジタルトランスフォーメーションを加速するため、PBP が利用するコミュニケーション基盤を刷新し、Microsoft 365 の現場担当者(フロントラインワーカー)向けライセンス Frontline Workers License(F プラン)を採用しました。PBP 一人ひとりにメールアドレスを配布したうえで、Microsoft Teams を使ったチャットや Web 会議で必要なときにすばやく全社員とコミュニケーションできるようにしたのです。資生堂がコミュニケーション変革に取り組む狙いと現時点での成果を聞きました。
美容職向けに Microsoft 365 F プランを採用、全社共通のコミュニケーションツールを整備
1872 年に日本初の民間洋風調剤薬局として東京・銀座で創業し、現在では約 120 の国と地域でスキンケア、メイクアップ、フレグランスなどの化粧品事業を展開する資生堂。企業使命である「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD (美の力でよりよい世界を)」の実現を目指し、本業であるビューティービジネスを通じて、世界中の人々に幸福を実感できる機会を提供しています。
ユニークなブランドや事業で新しい価値を生み出している資生堂ですが、お客さまに最も近い存在として現場におけるビューティーイノベーションをリードする存在が PBP です。同社では、昨年創業 150 周年を機に、店頭で応対・接客を行う美容職である国内ビューティーコンサルタント(以下、BC)を「美をリードする存在として美しくなる方法をお伝えするコンサルタント」から「お客さまのなりたい美を一緒に創り上げるパートナー」へと進化させることを発表しました。
具体的には、2022 年 10 月から BC という呼称を「パーソナルビューティーパートナー(PBP)」に変更し、急速に変化・多様化するさまざまなニーズに寄り添い、お客さま一人ひとりの「自分らしい美」を一緒に作り上げるパートナーとして位置づけを進化させました。一般にこうした改革の取り組みは、現場担当者の意識や文化の改革と切っても切り離せないものです。そこで資生堂では PBP向けのコミュニケーションツール基盤の刷新にも併せて取り組みます。資生堂インタラクティブビューティー IT本部デジタルプラットフォーム部 片桐 皓子 氏は、こう話します。
「IT とデジタルの力で、業務生産性の向上とコスト効率アップ、組織風土の活性を実現する狙いがありました。資生堂では、全社の New working style 実現を目指してさまざまな取り組みを進めています。これまで PBP には全社共通のコミュニケーションツールがなく、専用のチャットツールでコミュニケーションをとっていました。また職掌ごとに複数のアプリを使い分ける必要があり、スピーディーな事業実行が阻まれるケースが多くありました。そこで環境や職掌ごとなど輻輳化しているツールとインフラをシンプルにして、事業実行力を高めることを目指したのです」(片桐 氏)。
そこで採用したのが Microsoft 365 です。資生堂では 2020 年 2 月に全社的に在宅勤務に切り替えて以降、リモート環境でも安心して利用できる全社共通のツールとして Microsoft 365 の更なる利活用を進めてきました。PBP 向けに Microsoft 365 の現場担当者(フロントラインワーカー)向けライセンス Frontline Workers License(以下、F プラン)を新たに導入して、Microsoft 365 を全社共通のコミュニケーションツールとして整備したのです。
タブレット「B-TAB」内にインストールした 5 ~ 10 個のアプリを使い分ける状況だった
PBP はお客さまへのコンサルティングや業務システムの利用にあたって「B-TAB」と呼ばれるタブレット端末(iPad)を使っています。資生堂では、社給デバイスとして PC(Windows PC)やスマートフォン(iPhone)を部門ごとに計 2 万 5000 台規模で支給していますが、そのうち B-TAB は 1 万 3000 台規模(9000 名弱の PBP に加え、店頭設置の機器や PBP と連絡を取るためにスタッフも所持)と半数以上を占めています。B-TAB 内には作業ごとに専用アプリがインストールされ、PBP はそれらを使い分けながら業務を行う必要がありました。
「チャットツール、ノート機能、販促物やアンケートを保存する専用フォルダ機能など、職掌によって異なるアプリがあり、少なくとも 5 個、人によっては 10 個のアプリを使い分けていました。また、一人ひとりにメールアドレスが付与されておらず、チャットツールも部門を管轄するマネージャーなどとは異なる製品を利用していました。そのためマネージャーと直接コミュニケーションを取る、トラブル時に Web 会議ですばやく報告するといったことができませんでした。さらに、PBP が担う店頭業務と密接に関わりのある、マーケティング部門や研究部門、人事部門などスタッフ部門とも直接つながる手段がないことも課題でした。資生堂ではお客さまの声を大事にしており、変化するお客さまの声をよりスピーディーに各部門が共有することが重要となっています」(片桐 氏)。
コミュニケーションツールの選定では、こうした複数ツールを「シンプル(Simple)」にすること、多層化・輻輳化した連絡体制を「より短く、早く(Short)」すること、お客さまにいちばん近い PBP とスタッフ部門のコミュニケーションを「より速く、直接(Straight)」行うことをテーマに取り組みを進めました。これらを推進するためのシステムとしての要件を満たしながら、全社的なコミュニケーションツールとして採用している Microsoft 365 と同じ機能が利用でき、さらに、コスト面も含めて効率良く大規模な環境に展開できる製品が Microsoft 365 F プランでした。IT本部 デジタルプラットフォーム部 マネージャー 髙橋 鉄平氏はこう話します。
「Microsoft 365 F プランを利用すると、B-TAB 内にインストールするアプリのほとんどを Microsoft Teams(以下、Teams)でまかなうことができます。また、PBP 一人ひとりにメールアドレスを付与したうえで、多要素認証を使った本人確認と安全なアクセス環境を提供できます。バックグラウンドで認証基盤を統合できますし、Microsoft SharePoint や Microsoft Power Apps(以下、Power Apps)などのマイクロソフト製品と連携させることで必要に応じて新しい業務アプリを開発していくことも可能です。長年抱えていたさまざまな課題をスマートに解決するソリューションでした」(髙橋 氏)。
Teams でチャットや Web 会議を実現、Outlook でメールコミュニケーションを可能に
プロジェクトではまず Microsoft 365 が提供する 3 つのアプリを導入することから取り組みました。具体的には、Web 会議とチャットツールとしての Teams、他部門と直接メールでコミュニケーションを取るための Microsoft Outlook、安全にコミュニケーションを行うための多要素認証の Microsoft Authenticator です。
導入は 2022 年 5 月からスタートしましたが、その際に懸念となったのは、長年使い慣れたツールを新しいツールに置き換えることへの抵抗感だったといいます。例えば、B-TAB は 5 年以上の利用実績がありました。チャットを中心に使い慣れたアプリも多く、Teams を利用することに戸惑ったり、生産性が落ちたりするケースが増えることも予想されました。
「特にチャットツールは日常的に利用していてなじみのある方も多く、Teams への切り替えがうまくいくか心配でした。また、チャットツールが提供する機能のなかに Teams にはないものもあり、それがきっかけで Teams の利用が進みにくくなることも懸念しました」(髙橋 氏)。
旧チャットツールで利用していたグループチャット、掲示板、ノート、フォルダなどの機能も、Microsoft 365 が提供するアンケート作成ツール Microsoft Forms(以下、Forms)やローコード/ノーコードツール Power Apps を使って、同じ機能をより便利に利用できるようなかたちで活用することにしたといいます。
「グループチャットは、Teams の共有グループやチーム機能で代替しました。より細かな設定が可能になっています。また、旧ツールで使っていたノート機能やフォルダ機能は、Teams の Wiki 機能と Microsoft 365 のファイル機能では機能が足りなかったので、Microsoft Power Platform を利用し、機能を追加開発して、旧ツールのような使い方ができるように仕上げています。Microsoft 365 は、標準で足りない機能や新しいニーズに対応する機能をマイクロソフトの他のソリューションを活用して補完し、大幅にパワーアップできることが魅力です。しかも、ベンダーに追加開発を依頼するだけではなく、自分たちで最低限のコストで開発することができるのが大きなメリットです」(髙橋 氏)。
追加開発した機能を含め、2022 年内には、すべての PBP への Microsoft 365 の展開を完了します。実際に導入を進めてみると、とまどいや抵抗はほとんどなく、むしろ、新しいコミュニケーションができることに歓迎する声のほうが大きいという状況だったといいます。
ツール導入を自分事にしてもらい、お客さまをいかに笑顔にできるかを訴えた
Microsoft 365 を採用したことへの反響としては、次のようなものがあります。
「この通話機能便利ですね! 自由に使っていいんですか!?(PBP)」「B-TAB に Teams が入ったら、セミナー・店舗 MTG どこでもできる! 移動時間フリー最高!(美容職リーダー)」「営業や美容リーダーの予定表が見られる、次にいつ店舗に来てくれるか分かる、無駄な連絡しなくて済む、便利!(美容職リーダー)」「Web ミーティングが制約なくできる! リーダー なのに PBP と 1 on 1 できていなくて...全員との 1 on 1 半分の日数でできるね!(美容職リーダー)」。
また、支店長や営業担当者からも次のような声が届きました。
「店舗に行かないと対面での会話できなかった PBP や店長さまと日常的にコミュニケーションが取れる、顔を見て話せる、すごくありがたい…(支店長)」「PBP に売上実績を共有するためだけに、1 時間かけて資料作成…PDF 資料づくりから解放される!!(営業担当)」。
このように新しいコミュニケーションツールの導入がスムーズに進んだポイントは、日本事業の事業企画・美容戦略部門の協力のもとに、現場との密接なコミュニケーションと、利用推進のためのきめ細かいサポートがあったといいます。具体的な施策としては、まずは分かりやすいマニュアルの提供が挙げられます。
「『読まないで OK・見るだけ』をコンセプトにしたマニュアルを Microsoft PowerPoint で作り、B-TAB 上でいつでも 1 クリックで見られるようにしました。文字数を 85 %カットし、3 タップ以内で情報にたどりつくような『1 スライド 1 アクション』のマニュアルです。マニュアル製作を内製化し、現場の意見をすぐに反映できるようにし、最終的に 100 回以上ブラッシュアップして仕上げています」(片桐 氏)。
このマニュアルは非常に好評で、ある美容職メンバー からは「読まないで済む初期設定マニュアルが非常に良い。IT ツールに苦手意識のあるメンバーでもできた。 5 分程度で完了した」といった声も届いています。
マニュアルを通したサポートと併せて、社内外向けの明確なメッセージアウトにも注力しました。その際には、資生堂の各部門、事業所、PBP、得意先さま、ベンダー、それぞれの立場の考え方の違いを受け止め、共感(納得)が高まることを意識したといいます。
「例えば、部門ごとにそれぞれの立場と業務ミッションに合わせて Microsoft 365 を導入するメリットや、業務改善のプランを考え、夢物語を含めて、対話を実施することを心がけました。日本事業や美容部門のトップをはじめ、マネージメントからも、直接ビデオメッセージで取り組みの狙いや目的、成果を資生堂の戦略と紐付けたかたちで発信してもらっています。新しいコミュニケーションツールの導入を自分事にしてもらい、お客さまをいかに笑顔にできるかということを理解いただいたことで、活用が加速していきました」(片桐 氏)。
コミュニケーションの変革をビューティーイノベーションへつなげていきたい
PBP への Microsoft 365 の展開を終えたことで、国内の Teams ユーザーの総数は 3 万人を超える規模となりました。今は活用フェーズに入っていますが、上で紹介した社員の声を裏付けるように、さまざまな導入効果を確認しています。片桐 氏はこう話します。
「これまで会議やセミナーを開催する際には、全員が顔を合わせるためにヘッドオフィスに集合して会議を行っていました。移動や調整に時間がかかり、半年以上前にスケジューリングしてやっと実現することも多くありました。それが今では、必要な時に適切なタイミングで、全員が顔を合わせた対話型のミーティング実施が可能になりました。交通費や移動時間、会場費、出張費は 50 %以上削減できているケースがほとんどです。また、制約が減ったことでクイックにタイムリーにコミュニケーションをすることができるようになりました。効果を実感する声としても『削減した時間の活用をお客さま満足向上に転換できた』『売上拡大のため、対話を増やす動きができそうだ』『営業活動が効率化され、得意先さま、PBP との距離が近くなった』『急速に変化・多様化するお客さまのニーズもより早くキャッチできた』『Teams 会議の活用で、PBP の時間効率も高まり得意先さまにも好印象』があります」(片桐 氏)。
また髙橋 氏は、これからの IT 活用の観点から、Forms や Power Apps を利用することで、Teams の機能を柔軟に拡張していくことができ、このことが、現場に即したアプリ開発に大きく貢献してくると指摘します。
「すでに Forms や Power Apps はさまざまなシーンで利用が広がっています。部門内でも、PBP 向けのユーザーサポートでもフル活用しました。問い合わせに際して都合の良い日時をあらかじめ Forms で申請してもらい、サポート担当者がその時間に連絡を取り合うことで効率良くサポートを提供できるようにしました。また、Power Apps も、Microsoft Power Automate を組み合わせ自分の作業の自動化などに取り組んでいます。創業から 150 年にわたってお客さま一人ひとりにあった美の提供には、対面販売だけでなく、デジタルを活用した新しい提案も重要になってきます。内製化やアジャイルな改善などの取り組みを進め、お客さまに対してもデジタルを生かした新しい提案を実行していきたいと考えています」(髙橋 氏)。
片桐 氏は、Microsoft 365 というグローバルで幅広く利用されているシステムを採用したことで、美容職のグローバルなコミュニケーションやキャリア形成にも役立つと期待を寄せます。
「Teams を使って、例えば中国と日本の美容職メンバー同士がコミュニケーションを取り、国ごとのメイクや提案方法の違いを共有したり、国内でもその地方特有の情報をリアルタイムに把握したりできます。また、災害時の BCP 対策としても利用が可能になります。さまざまなコミュニケーションのあり方を変えていくことで、私たちの企業使命である BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)を目指し、資生堂にしかできないビューティーイノベーションにつなげていきたいと思います」(片桐 氏)。
マイクロソフトは、Microsoft 365 によるフロントラインワーカーへのサポートをはじめ、資生堂の取り組みを IT とデジタルの面から支えていきます。
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