いま、企業活動を支える IT は「第三のプラットフォーム」へと移行しつつあります。従来のクライアント / サーバーでの運用から、持ち運び可能なモバイルや、ネットワーク経由でサービスを利用できるクラウドといった、より複合的な情報基盤への転換がおこなわれているのです。

ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)もまた、第三のプラットフォームを活用したデジタル トランスフォーメーションを進める 1 社です。同社は 2016 年度より、データセンターで運用している 2,500 台規模の IT 基盤について、全体の 70% を 推奨パブリック クラウドとして選定した Microsoft Azure 中心に移行する計画を推進。これと並行して、すべての事業部門、サービス基盤を対象に、PaaS を利用したアーキテクチャ設計を標準化したことにより、事業スピードを大きく加速しています。

事業スピードを加速するためのデジタル トランスフォーメーション

ベネッセは「教育」を軸に、さまざまな事業を展開しています。かつて「こどもちゃれんじ」や「進研ゼミ」を利用した人は、同社を「赤ペン先生」のイメージのままに “紙媒体でサービスを提供する事業者”と捉えているかもしれません。しかし、2014 年度からタブレットを使った「チャレンジ タッチ」を導入するなど、近年のベネッセはサービスのデジタル化を大きく推進しています。この舵取りの意図について、株式会社ベネッセホールディングス 執行役員 グループIT本部長兼、株式会社ベネッセコーポレーション 情報システム本部長の高野 篤典 氏は以下のように語ります。

「社会や時代が目まぐるしい速度で変化するようになったいま、市場ニーズやトレンドに合わせて価値あるサービスを提供しつづけるための『事業スピードの加速』が求められています。事業を継続的かつ短期に発展させていくことになりますから、商品サービスのデジタル化が不可欠となっているわけです。これに対応するために、ベネッセでは 2016 年度よりデジタル、IT の組織戦略検討をスタートし、2017 年度に IT 部門と事業デジタル部門の役割機能整理を実施しました。同時に、従来データセンターに構築してきたプライベート クラウド環境をベネッセ グループ推奨として選定した Microsoft Azureへ移行するなど、経営と IT の両面からデジタル トランスフォーメーションをすすめています」(高野 氏)。

  • 高野 篤典 氏: 執行役員 グループIT 本部長<br>株式会社ベネッセホールディングス

従来アナログで提供してきたサービスを電子化することがデジタル化かというと、そうではありません。市場とトレンドの変化を膨大な情報から見極める、そして IT を駆使して迅速にサービスへ反映していく、これこそが「商品サービスのデジタル化」の本質なのだと高野 氏は強調します。

同氏の語る「商品サービスのデジタル化」を全社で実践するには、すべての事業部門が迅速に商品サービスを企画、開発、改良するしくみが必要です。開発体制についても、仕様を厳密に定めるウォーターフォール型から細かな PDCA をまわしていくアジャイル型へ拡大するなどの変革が求められます。ベネッセがグループ全体でパブリック クラウド移行をすすめるねらいは、こうした変革を支えるアジリティ(俊敏性)を IT 基盤にもたせることにありました。

"計画当初、パブリック クラウドへ移行するシステムを全体の 50% に定めたのですが、昨年末にこれを 70% へ引き上げました。技術の発展によって、2016 年度に計画を策定した当時は難しいと思っていたシステムの移行が、つぎつぎと可能になっているからです。パブリック クラウドの持つアジリティを駆使することで、まだまだ事業スピードは加速できると感じています"

-高野 篤典 氏: 執行役員 グループIT 本部長
株式会社ベネッセホールディングス

事業を加速する鍵は、PaaS による「機能の『利用』」

ベネッセがすすめるデジタル トランスフォーメーションには、大きな特徴があります。それは、すべての事業部門、サービス基盤を対象に、PaaS の利用を推奨するアーキテクチャ設計を標準化したことです。

各事業部門が最適な形でパブリック クラウド移行をすすめられるよう、ベネッセでは数多くの構成テンプレートを用意し、「クラウド適用条件」「Web / AP 層PaaS適用条件」「DB 層 PaaS 適用条件」を選択すれば、推奨構成が決まるように判断基準を定義しました。また、テンプレートに沿ったサーバー構築を PowerShell のスクリプト処理によって自動化しました。これをグループ全体に展開しています。このテンプレートでは、DB、Web アプリケーション、認証基盤といった多くの機能に PaaS が利用されています。

  • 「クラウド適用条件」「Web / AP 層 PaaS 適用条件」「DB 層 PaaS適用条件」を選択する基盤選定マニュアル。ユーザーはこれを選択するだけで、推奨構成を定義することができる。

    「クラウド適用条件」「Web / AP 層 PaaS 適用条件」「DB 層 PaaS適用条件」を選択する基盤選定マニュアル。ユーザーはこれを選択するだけで、推奨構成を定義することができる。
    推奨構成には数多くの PaaS が利用されている。

「クラウド標準」「PaaS 推奨」とも呼ぶべきこの方針、フレームワークには、どのような意図があるのでしょうか。事業部門側の IT を担当する株式会社ベネッセコーポレーション デジタル開発部 シニアアーキテクト 植田 省司 氏は、このように説明します。

「機能を実装する場合には、OS のインストール、ミドルウェアのプログラム作成といった作業がどうしても必要になります。これは IaaS でも同様です。事業部門としては、こうした機能は『開発』するのではなく『利用』したいというのが本音にあります。リソースは限られていますから、可能な限りサービス側にこれを注ぎたいのです。PaaS によってプログラムレスに機能を実装できるのであれば、これまで以上にデジタル化を加速することができます。事実、『クラウド標準』『PaaS 推奨』テンプレートによって、あらゆるプロジェクトで、サービス構築や定期改修のスピードが向上しています」(植田 氏)。

PaaS を利用したアーキテクチャ設計には相応の経験やノウハウが必要であり、これをすべて事業部門に任せては、かえってプロジェクトの遅延、失敗を引き起こしてしまうと植田 氏は補足します。ガイドラインの整備を経てパブリック クラウドを社内展開したことは、「PaaS 推奨」を推進するうえで効果的な施策だったといえるでしょう。

このガイドラインづくりを主導した株式会社ベネッセコーポレーション 情報システム部 共通基盤推進課 課長 松本 崇 氏は、植田 氏の触れた「事業スピードの加速」以外にも、パブリック クラウド移行が大きな成果を生みだしていると語ります。

「パブリック クラウドへの移行がすすめば、データセンターにある物理リソースを減らしていくことができます。これまで共通基盤に要していた固定費の約 2 割 を 3 年以内で削減できる見通しです。削減すべきコストを圧縮してそれを投資すべき事へ割りあてる、こうした『選択と集中』は、われわれ IT 部門の大きな命題です。クラウド シフトによって、この命題を推し進めることができると考えています」(松本 氏)。

  • 松本 崇 氏: 情報システム部 共通基盤推進課 課長、植田 省司 氏: デジタル開発部 シニアアーキテクト 株式会社ベネッセコーポレーション

「クラウド標準」「PaaS 推奨」というチャレンジを、マイクロソフトのサポートが支える

ベネッセでは現在、マイクロソフトの提供する Microsoft Azure を利用し、パブリック クラウド移行をすすめています。クラウド選定に際して同社が第一に留意したことは、サポート体制にありました。松本 氏は、「クラウドは技術の発展がきわめて早く、性能、機能の優位がベンダー間でつぎつぎと逆転していきます。ある時点の機能性、性能で優劣をつけることは、それほど大きな意味を持たないと考えました。であれば、ベネッセとして大きなチャレンジとなる『クラウド標準』『PaaS 推奨』へのシフトを密に支援してくれるベンダーを選定すべきだと判断したのです。」と明かし、マイクロソフトをベンダーに選定した理由をつづけます。

「2,500 台超のサーバーを安定稼働させるエンタープライズ レベルの全社共通基盤を構築するわけですから、先行事例や技術情報のもと適切な支援をいただくことが不可欠でした。デジタル トランスフォーメーションの目的は『事業スピードの加速』ですが、構築、移行時のリスクをできるかぎり減らさなければ、サービス インと同時には事業を加速できません。マイクロソフトには、打ち合わせの中での提案や当社が利用する Office 365 のサポートを通じて、構築と移行の手法を『一緒に考える』という姿勢を感じました。同社の支援があれば、リスクを最小化しながら取り組みを進めることができると期待したのです」(松本 氏)。

ベネッセが Microsoft Azure の採用を決定したのは、2016 年 12 月のことです。そこから間もなく、マイクロソフトは松本 氏が寄せた期待に応えられたといいます。先述したガイドラインを例にあげて松本 氏は説明します。

「移行に際しては、プライベート クラウドで稼働する各システムの性能、機能、可用性を踏襲できるテンプレート群を準備せねばなりませんでした。これは単に数を用意すればよいという話ではありません。ガバナンス管理の観点から、あらゆる事業部門の要件に対応できるテンプレートを、必要最小限の数で準備する必要があったのです。当社だけでは困難でしたが、マイクロソフトの支援もあり、検討から半年後には社内展開を開始することができました」(松本 氏)。

"移行目標を当初計画の 50% だった 70% へ引き上げるなど、想定以上のスピードでシステム移行が進んでいます。サービス イン初期から『クラウド標準』『PaaS 推奨』の正道を示すことができたという証であり、マイクロソフトのサポートがあってこその結果だと感じています"

-松本 崇 氏: 情報システム部 共通基盤推進課 課長
株式会社ベネッセコーポレーション

「進研ゼミ」のデジタル学習サービス提供にも PaaS を利用

サービス開発や定期改修といった事業部門側の作業においても、マイクロソフトのサポートは強力に機能しています。ベネッセでは現在、ミッション クリティカル性の高いシステムの案件については、事業部門とマイクロソフトが共同して作業をすすめる体制をとっています。植田 氏は、自らの指揮のもとですすめている「進研ゼミ 小学講座」の基盤移行を例に、こう語ります。

「『進研ゼミ 小学講座』にはタブレットを使って学習を進める『チャレンジタッチ』というサービスがありますが、現在、この提供基盤を Microsoft Azure へ移行するプロジェクトをすすめています。小学講座の会員 120 万人 (2018 年 4 月) のうち、約 4 割が利用する『チャレンジタッチ』は、数万人が常時アクセスするサービスであり、トランザクションの数は 4TB に上ります。ベネッセの代表的なサービスであるのと同時に、当社随一の巨大システムでもあるのです。当然、サービスの停止は許されません」(植田 氏)。

  • 現在移行がすすめられている「チャレンジタッチ」

このシステムは従来、クラスター構成のデータベース サーバーをオンプレミスに構築し性能と可用性を担保してきました。今回の移行では DBMS の PaaS 化が計画されており、求められる性能、可用性からは高難易度のプロジェクトであることが伺えます。しかし、植田 氏は「マイクロソフトと共同し、2018 年 2 月から Azure SQL Database を利用したアーキテクチャ設計を開始しました。SSMAを利用するなどして修正が必要な箇所を洗い出し、5 月には設計作業を完了しています。8 月からはデータの移行作業をスタート予定です。」と、順調にプロジェクトが進行していることを説明、10 月のカットオーバー後も、Microsoft Azure の柔軟性やさまざまな機能を活用した継続的なサービス発展を計画しています。

ベネッセではこうした既存サービスの移行にくわえて、サービスの新規開発など、常時 20 ほどのプロジェクトが Microsoft Azure を活用してすすめられています。高野 氏は、「Microsoft Azure を展開してから 1 年足らずですが、想定以上のスピードで各グループ、各事業部門に『クラウド標準』『PaaS 推奨』を広げることができました。これに比例して更なる事業ニーズに応えながらスピードが加速していくことを期待しています。」と、現状を評価します。

Cognitive Services といった先進 IT を利用し、高付加価値なサービス提供へ

PaaS によって機能を「利用」するによって、今後、ベネッセの事業スピードがいっそう加速していくことは間違いないでしょう。ここでいう機能は、「すでにある機能」に限定するものではありません。AI や IoTなど、自社では開発が困難な機能でさえも、PaaS によって利用できる時代がいま訪れています。こうした先進 IT を利用すればサービスをよりいっそう発展させることができると、高野 氏と植田 氏はともに期待をあらわします。

「いまはまだテストの段階ですが、Azure Bot Service を社内業務の Q&A サービスに活用する試みをはじめています。これがうまくいけば、外部サービスに実装する Bot 機能としても育てていけるでしょう。また、ベネッセグループの第 2 の主力事業である介護事業についても、Cognitive Services を活用することで、どれくらいの頻度でケアすることが効率的なのかを可視化したり、それをソフトウェア化したりといったことができると考えています」(高野 氏)。

「Microsoft Azure は人工知能の API 群として Cognitive Services を提供していますが、以前チームのメンバーにこれを用いた画像処理、自然言語処理のデモを見せたところ、『こんな凄い事ができるなら』と数多くの企画案が生まれました。私たちの役割である『ユーザーに選ばれるサービス提供』に向けて、先進 IT を積極的に利用していきたいと考えています」(植田 氏)。

"お客さまの学習情報をもとにしたアルゴリズムを用意できれば、パーソナライズ化した教育の提供が可能になるでしょう。PaaS を利用して早期にここへアプローチできるよう、マイクロソフトにはいっそうの支援を期待しています"

-植田 省司 氏: デジタル開発部 シニアアーキテクト
株式会社ベネッセコーポレーション

アナログで提供していたものをデジタルに移し替えることが、高品質なサービス提供につながるわけではありません。膨大な情報と IT を駆使してスピーディーに市場ニーズをサービスに反映する、このしくみづくりこそが、デジタル化の本義なのです。ベネッセの取り組みは、デジタル トランスフォーメーションに悩む企業にとって、大きな指針となるでしょう。

[PR]提供:日本マイクロソフト