高度な ICT システム、サービスに投資して新たな価値を創造する「攻めの ICT」は、企業だけが注目すべきことではありません。厳しい競争下にある教育業界においても「攻めの ICT」は重要です。そして、限られた予算の中から ICT に投資していくためには、既存環境の運用を効率化し、予算とリソースに余裕を持たせる「守りの ICT」を進める必要があります。 攻めと守りの ICT を両立し、学生に質の高い教育を提供し続けている大学が、奈良県北葛城郡に位置する畿央大学です。
「積極的、主体的に学ぶ姿勢」の育成を大きな使命に掲げる同大学では、ICT を活用してこれを強化すべく、2011 年に 8 か年計画となる「情報環境基本計画」を策定。全学生を対象とした Surface シリーズの貸与や、学習支援システム、コミュニケーション基盤、学内ネットワークの整備などを進めました。結果、同大学の学生は、ICT をキーに主体的に学びへ取り組むという文化が定着しています。 こうした取り組みの継続には、当然ながら大きな投資を必要とします。畿央大学では、先の取り組みと並行して、Microsoft Azure を活用した学内システムのフル クラウド化を実施。情報関連経費のおよそ 45% を削減したことで、今後も ICT による学習支援を継続し、そしていっそう強化していくための原資を生み出しています。
プロファイル
畿央大学は、健康と教育のスペシャリストを育てる大学です。社会における健康を総合的な視点で学ぶ健康科学部と、現代の教育課題解決に取り組む力を養う教育学部が設置されています。開学以来の全卒業生 11 年間就職率は 94.3% で「就職に強い大学」として評価されており、学生は卒業後、理学療法士や看護師、管理栄養士、建築士、小学校教諭、養護教諭、幼稚園教諭、保育士などになって社会で活躍しています。
導入の背景とねらい
変革を続ける社会。これに対応できる「積極的、主体的に学ぶ姿勢」を持った人材を育成すべく、全学生を対象に Surface を貸与
「健康」と「教育」のスペシャリストを育てる大学として 2003 年に設立された畿央大学。2,000 名にのぼる学生が日々学びを深めている同大学は、実就職率ランキングで関西 3 位 (2016 年 3 月卒業生、就職者数 300 名以上の国公私立大学が対象) を誇るなど、社会に貢献する人材を輩出し続けています。
社会や技術の変化はとどまることを知りません。変化に対応しながら社会に貢献していくには、専門知識と技術の習得もさることながら、それを基盤とし、生涯にわたって学び続けることが必要となります。学校法人 冬木学園 畿央大学 理事長 冬木 正彦 氏は、昨今の大学教育にはこの「積極的、主体的に学ぶ姿勢」の育成が求められていると語ります。
「大学は単に知識と技術を教え込む場ではありません。それを自ら応用していく、『姿勢を育む場』であるべきなのです。畿央大学では、学生が主体的な学びという姿勢を身につけられるよう、実習に重きを置いたカリキュラムを組み、さまざまな工夫を凝らした環境づくりを進めています。たとえば ICT 環境については、『情報環境基本計画』として 8 か年 (第一期: 2011 年 ~ 2014 年、第二期: 2015 年 ~ 2018 年) のグランド デザインを策定し、整備に取 り組んできました」(冬木 氏)。
インターネットやスマートフォンの台頭を振り返ればわかるように、近い将来、まったく新しい ICT が誕生し、普及して、社会を変えていくことは想像に難くありません。未知の ICT であっても、それを受け入れ、活用し、そして社会的課題を解決していく。未来の社会にはこうした人材が必要であり、そこには「ICT = 有効なツール」という認識のもとで主体的に ICT を活用する能力が求められます。
畿央大学が進めている情報環境基本計画は、まさにこの「有効、かつ主体的に ICT を活用できる人材」の育成を目指して策定されました。日頃から ICT に慣れ親しみ、その過程で主体性を育むべく、畿央大学は情報環境基本計画の核たる取り組みとして、全学生に PC を無償で貸与することを構想。学校法人 冬木学園 畿央大学 教育学習基盤部 部長 大山 章博 氏は、第一期となる 2014 年までの期間に、この 1 人 1 台の PC 貸与を開始したと語ります。
「情報環境基本計画の初期では、まず学務システムと学習支援システムを整備し、コミュニケーション基盤として Office 365 を導入しました。履修登録や出席管理、課題提出など、講義を受講するうえで欠かせない手順をすべてシステム化し、学内ネットワークの高速化、ワイヤレス化など、学生がストレスなく ICT を利用できるようネットワーク環境も整備しました。たとえ PC を貸与したとしても、それを積極的に活用できるサービスや環境がなければ使われずに終わってしまうでしょう。まずは土壌を整備し、これを経た 2014 年より、すべての新入生を対象として PC の貸与を開始しました。現在では 1 年生から 4 年生、全学生が PC を所持し、ICT を有効活用しながら大学生活を送っています」(大山 氏)。
畿央大学ではマイクロソフトの Surface シリーズを機種に選定し、COPE (Corporate Owned, Personally Enabled) 方式のもと、同デバイスを大学で購入して学生に貸与しています。学生の私物 PC による BYOD (Bring Your Own Device) も検討されましたが、単一のデバイスに環境を統一化することによって学生への指示自由度を高められる、操作を学生同士が教え合うなどの効果が生まれる、といった理由により先の方式が採用されました。
大山 氏は、畿央大学の教育において重要な要素となる学生用 PC へ Surface シリーズを採用した理由として、次のように説明します。
「学生が同じ環境のもとで教え合い、学び合う、こういった "アクティブ ラーニング" を加速させるために、全学生の PC を統一したいという考えがまずありました。そのため、提供機種の保守サポートが今後も変わらず継続されること、これが必須でした。今日、デバイス メーカーの統合が相次いでおり、先の継続が約束されるメーカー選びは容易ではありません。Surface は、世界有数の ICT ベンダーであるマイクロソフトがグローバル戦略機種として提供する機種ゆえに、大きな信頼感がありました」(大山 氏)。
大山 氏が触れた信頼感に加え、Surface は、1 日中使い続けられるバッテリ、ストレスなく文字入力ができるキーボード、持ち歩くのが苦にならない携行性など、仕様面についても高く評価されました。こうして選ばれた同デバイスは、今や当たり前のように学生に活用されています。
システム概要と導入の経緯
攻めの ICT の継続に必要な予算、リソースを確保すべく、学内システムのフル クラウド化に取り組む
畿央大学では、学務機能のシステム化やインフラ整備、Surface シリーズの貸与開始などを、すべて「第一期情報環境基本計画 (2011 年 ~ 2014 年)」の内に実施しました。しかし、デバイスの貸与に COPE 方式を採用している以上、2,000 台以上もの PC を大学が調達し、そして管理する必要があります。新入生に PC を貸与するだけでも年間 7,000 万円の投資が必要であり、学生が ICT を有効活用できる環境を継続していくうえでは、既存 ICT の定常運用を可能な限り最適化する「守りの ICT」を進めることが求められました。
大山 氏は、グランド デザインの後半となる「第二期情報環境基本計画 (2015 年 ~ 2018 年)」では、先の ICT 環境をより安全に、そして発展を伴いながら継続して提供すべく、学内システムのフル クラウド化を進めたと語ります。
「畿央大学の取り組みは非常に先端的な取り組みです。他の大学がまだ進めていない取り組みもあるため、『やってみなければ効果がわからない』という側面を多分に擁しています。大きな投資を必要とするわけですから、当然、私たちには効果に関する説明責任があります。つまり、予算とリソースを捻出して取り組みを継続することでしっかりと学習効果を見届ける、ということが求められるのです。そのために、予算を投じるべき箇所と現在かかっている情報経費を最適化すべき箇所を明確に切り分けなければなりませんでした。この最適化に向けた取り組みが、学内システムのフル クラウド化です」(大山 氏)。
畿央大学では、これまで約 40 台の物理サーバー環境のもと学内サービスを提供してきました。しかし、物理サーバーは定期的な機器更新に大きな投資を必要とします。また、定常運用に要する業務量は決して少なくなく、これらが予算や人員リソースを圧迫する問題となっていました。大山 氏は、学内システムのフル クラウド化は、コストとリソース両側面の問題を解消する可能性を秘めていたと、大学特有の特徴を例に挙げて説明します。
「実は大学のシステムは、一般企業と異なり、365 日 24 時間稼働し続けることは求められません。というのも、大学は年間のうち約半分が『授業のない日』となります。クラウドの利点であるスケーラビリティを活用し、授業日かどうかによってリソースを調整すれば、運用コストの大幅な削減が期待できたのです。また、フル クラウド化によって学内システムのセキュリティ水準を向上できるという利点もありました」(大山 氏)。
今日、大学経営においては、セキュリティを確保して教育を安全に提供することも重大なテーマとなっています。畿央大学では数年前まで、クラウド セキュリティに対して不安感を抱く管理者が多数を占めていたといいます。しかし、現在は逆に、「クラウドの方が高いセキュリティを担保できる」という考えが浸透しました。大山 氏はこの理由について、「限られた人数、技術力の情報部門で機密情報を管理する場合と、プロフェッショナルによる厳格な管理体制のもとで提供されるクラウドとどちらが安全なのかを考えた場合、後者となることは明白でした」とコメント。成績を管理する学務システムを含む全システムをフル クラウド化することが、教育の安全性を高めるうえでも有効だと判断されたのです。
もちろん、プラットフォームの選定には慎重を期する必要があります。大山 氏は、選定において重視した要件を説明するとともに、それに適合するサービスとしてマイクロソフトの Azure を選定したと語ります。
「クラウドの一番の懸念は、データの設置場所が学内ではなく外部だということです。万が一、事業者側で問題が発生した場合には、即座に私たちの手元へデータを戻す必要があります。そのため、管轄裁判所が日本であること、そして日本の法令に準拠することが絶対条件でした。これに加えて『グローバル水準のセキュリティを有すること』も条件とし、検討を進めた結果、有力なサービスとして残ったのが Azure でした。複数のサービスを公平に検証した結果 Azure の採用に至りましたが、既に利用している Office 365 や Surface シリーズとの親和性からみても、この決断は最適だったと考えています」(大山 氏)。
導入効果
情報関連経費を 45% 削減。学習支援を今後も継続するための原資を生み出す
畿央大学は、移行にかかわる技術的課題を検証した後、2015 年度より Azure の契約を締結。構築作業を開始します。
これまで物理サーバーをベースに ICT 環境を運用してきた畿央大学にとって、IaaS の活用、そして仮想化環境の構築は初の試みでした。しかし、大山 氏は「マイクロソフトの Premier サポートを活用することで、大きな支障もなくクラウド環境の構築を進めることができました」と、作業がスムーズに進行したことを説明。その結果、同大学は当初計画した 2016 年度で、学内システムのフル クラウド化を果たしています。フル クラウド化から約 1 年が経過した今、大きな効果が生まれていると、大山 氏は語ります。
「機器更新のための投資はもちろん、サーバー ルームの電気代などもフル クラウド化によって不要となりました。また、運用コストも、日曜日や夏休みなど、非授業日において仮想マシンのグレードを落とすことで最適化できています。畿央大学では年間約 2 億円の ICT 予算を設けていますが、フル クラウド化によってその 45% を削減できる見通しです。さらに、定常運用の業務から解放されたおかげで、およそ 1.5 人分の人的工数を削減することができています。こういった『守りの ICT』で捻出したリソースを学習支援側に割り当てることで、学生サービスを今後より強化していきたいと考えています」(大山 氏)。
第二期情報環境基本計画の柱であるフル クラウド化は、畿央大学が今後も学習支援を継続し、そしていっそう強化していくための原資を生み出したといえるでしょう。この計画では、2018 年までに、大学ネットワークと Azure 上の環境を学術情報ネットワーク "SINET" で接続することで、よりセキュアかつ広帯域な環境を整備することを目指しています。
「攻めの ICT」と「守りの ICT」を両立したプロジェクトとして 2011 年から取り組んできた情報環境基本計画について、大山 氏は次のように総括します。
「計画も最終段階を迎えており、あとは SINET 経由での Azure 接続を残すのみです。2017 年度には "Surface 1 期生" とも呼べる学生が卒業しますが、まず従来の学生と比べて ICT リテラシーが大きく向上しています。また、学生が問題解決に協働して取り組む姿を学内のあらゆる場面で見かけるようになりました。本来の目的である、積極的、主体的に学ぶ『姿勢を育む場』としての効果もひしひしと感じています。この 8 年間の改革は、畿央大学における大きな歩みになったと確信しています」(大山 氏)。
今後の展望
情報部門の役割を「教育活動の支援」へとシフトし、より高度な教育の提供を目指す
8 年にもわたる情報環境基本計画は、2018 年度で完了することとなります。畿央大学では、今後、「守りの ICT」によって生みだした原資をもって、教育のパーソナライズ化に向けた取り組みに着手する予定です。Azure 上で蓄積し集約した学生の習熟情報を可視化すれば、1 人ひとりに合わせた教育の提供や、学生が自分自身の技術、専門知識の到達度合いを把握しながら学びを進めることも可能になるでしょう。
「こうした学習ポートフォリオを支えるような機能が Office 365 や Azure に実装されると、畿央大学の教育はより豊かなものになるでしょう。最近の Windows 10 アップグレードでは教育機関向けのフォントが新たに追加されましたが、こうした教育分野に有効なサービスが拡充していくことを、マイクロソフトには期待したいですね」(大山 氏)。
冬木 氏は続けて、学生支援とともに教職員支援も ICT によって強化することにより、畿央大学が目指す教育の提供をより強固なものにしていきたいと、今後の構想を語りました。
「畿央大学の情報部門は、フル クラウド化の取り組みによって、従来の ICT を管理運営するという立場から教育活動を支援する立場へとシフトしました。今後は学生だけでなく、教育を提供する教員とそれを支える職員にまで ICT で支援する対象ユーザーを拡大していく予定です。これによって今後もより質の高い教育を提供し、『積極的、能動的に学ぶ姿勢』を持つ人材を社会に輩出して参ります」(冬木 氏)。
Surface シリーズの貸与と学内システムのフル クラウド化により、学生に対してこれまで以上に質の高い教育を提供できるようになった畿央大学。同取り組みは、次なる「攻めの ICT」のための原資を生み出すことにも成功しています。畿央大学が実践するこれらの経営戦略は、教育機関から行政機関、私企業まで幅広く「学び」となる事例でしょう。
「計画も最終段階を迎えており、あとは SINET 経由での Azure 接続を残すのみです。2017 年度には "Surface 1 期生" とも呼べる学生が卒業しますが、まず従来の学生と比べて ICT リテラシーが大きく向上しています。また、学生が問題解決に協働して取り組む姿を学内のあらゆる場面で見かけるようになりました。本来の目的である、積極的、主体的に学ぶ『姿勢を育む場』としての効果もひしひしと感じています。この 8 年間の改革は、畿央大学における大きな歩みになったと確信しています」
学校法人 冬木学園
畿央大学
教育学習基盤部
部長
大山 章博 氏
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