金融サービス事業を中心に幅広いビジネスを展開する SBI グループ。その 1 つである SBIリクイディティ・マーケットでは、低コストで安心・安全に FX (外国為替証拠金取引) が行える環境を整備するため、次世代取引システムの導入プロジェクトを始動。その一環として、取引データベースを含めた FX プラットフォームの刷新に着手します。高いパフォーマンスと安定性の実現を目指した同社は、システムの要となるデータベースに SQL Server 2022 を採用。マイクロソフトの Early Adoption Program (以下EAP) による先行導入企業として、Microsoft Azure のサービス・機能を組み合わせた高可用なシステムの構築を進めています。

次世代取引システムの導入プロジェクトが始動、その一環としてデータベースの刷新も検討される

SBI証券や SBI FXトレード、住信 SBIネット銀行などを展開する SBI グループの事業に、為替取引のプラットフォームを提供している SBIリクイディティ・マーケット。2021 年度の外国為替取引金額は 10.2 兆ドル、FX (外国為替証拠金取引) 口座数は業界第 1 位を誇る 172 万口座、FX 預り残高も業界第 1 位となる 3,198 億円と大規模なビジネスを展開している同社は、新たな為替商品サービスの開発や、ブロックチェーンや AI、ビッグ データ分析といった最新技術の活用も積極的に行っています。海外事業の促進も含むさまざまな分野での FX ビジネスの拡大を目指すなか、課題となっていたのはその基盤となる FX システムの老朽化でした。設立時に構築したシステムを、改修を重ねながら十数年にわたって使い続けてきたことで、ビジネス要求に対して迅速な対応が難しくなっていたのです。課題解決に加え、パフォーマンスの向上も含めた次世代取引システムの導入が求められていたと SBIリクイディティ・マーケット システム開発部長の吉川 裕太 氏は背景を語ります。

  • SBIリクイディティ・マーケット株式会社 システム開発部長 吉川 裕太 氏

    SBIリクイディティ・マーケット株式会社 システム開発部長 吉川 裕太 氏

「システムについて、周辺部分の改修は行ってきましたが、基盤部分にはずっとメスを入れられない状況が続いていました。そういったつぎはぎを繰り返してきたことで、昨今のビジネス要求に対してタイムリーに応えられないという課題が顕在化し、さらにビジネスの規模が拡大したこともあり、ビジネス サイドが求めるパフォーマンスを担保できなくなっていました。こうした課題を解決するため、2021 年 10 月に次世代取引システムの導入プロジェクトを立ち上げました」(吉川 氏)。

こうして、プロジェクト マネージャーに就いた吉川 氏を中心に、SBIリクイディティ・マーケットの次世代取引システム導入プロジェクトが始動しました。目標としたのは「低レイテンシと高可用性の追及」「速やかなビジネス展開」「トータル コストの最適化」「10 年先を見据えたアーキテクチャ」の 4 つ。吉川 氏は「速くて安全、扱いやすくてコスト的にも優れていて、導入したら 10 年先も問題なく使えるアーキテクチャを目指しています」と説明します。

構成の検討が進められるなかでデータベースの検討に入った際、マイクロソフトからの提案を受けたと吉川 氏。これを受けて最新の RDBMS (リレーショナル データベース管理システム) である SQL Server 2022 の採用検討を開始したと当時を振り返ります。

「既存システムでも SQL Server を採用していました。当初は導入実績も豊富な 1 つ前のバージョンを採用する方向で考えていたのですが、当時から定期的な情報交換を行っていたマイクロソフトから、最新バージョンである SQL Server 2022 の提案を受けました。ただその時はまだリリースされていなかったため、EAPに参加して検証を進め、4 つの目標を達成できると判断して採用を決定しました」(吉川 氏)。

データベース構築チームのリーダーで、本プロジェクトにおいては SQL Server 2022 の早期導入検証を担当した SBIリクイディティ・マーケット システム開発部の洪 成昊 氏は、SQL Server 2022 を先行導入した経緯と採用の決め手について、こう説明します。

  • SBIリクイディティ・マーケット システム開発部 洪 成昊 氏

    SBIリクイディティ・マーケット システム開発部 洪 成昊 氏

「当社は設立当初からデータベースには SQL Server を採用しており、開発部門にとってはもちろん、経営層や事業部門にとっても信頼できるシステムであるという実績がベースとして存在していました。EAP に参加して、我々が求めているパフォーマンスや機能面で想定以上の結果を得られたことが、採用の決め手となりました」(洪 氏)。

Always On 可用性グループやインテリジェントなクエリ処理などの先進機能を活用、Azure SQL Managed Instance を用いた DR サイトの構築も視野に入れてシステムを構成

EAP の検証結果に手応えを感じ、SQL Server 2022 の採用を決定した SBIリクイディティ・マーケットは、マイクロソフトのサポートを受けながら先行導入企業として次世代取引システムの構築を進めていきます。SQL Server 2022 はクラウド (Microsoft Azure、以下 Azure) との連携を考慮した機能強化が図られており、本プロジェクトにおいても、従来のオンプレミス環境とクラウドを組み合わせることで、可用性とパフォーマンスの両立を目指したと言います。吉川 氏は、次世代取引システムの開発におけるチャレンジとして、Azure Kubernetes Service (以下、AKS) をオンプレミスで実行できる AKS ハイブリッド デプロイメント オプションを利用することで、セキュアな環境でアプリケーションを稼働する仕組みを構築したと話します。

「マイクロソフトが提供する Kubernetes のプラットフォームである AKS は、一般的にパブリック クラウド (Azure) 上のマネージド サービスとして利用されているケースがほとんどですが、本プロジェクトは金融会社に提供するシステムということもあり、我々が管理するオンプレミス環境下に設置するという構成にしています。具体的には、AKS ハイブリッド デプロイメント オプションを使用して、Windows Server 上に仮想サーバーを作り、その上に AKS のクラスターを作って、コンテナーベースでアプリケーションが稼働するようにしています。データベース部分も、Windows Server 上で SQL Server 2022 を稼働させるという構成を採用し、FX プラットフォームとして稼働させる仕組みを構築しています。ただ、AKS は基本的に Azure 上で動作することを前提としたサービスであり、Azure との連携機能も豊富なため、本プロジェクトでも Azure Active Directory (Azure AD) や Azure Container Registry といったサービスを活用しており、その意味ではオンプレミスとクラウドのハイブリッド構成を目指していると言えます」(吉川 氏)。

既存システムの開発から運用・保守までに携わっている洪 氏は、システムを構成する上での工夫として Always On 可用性グループを採用していることを挙げます。

「次世代取引システムのデータベースは、オンプレミス環境の物理サーバー 3 台構成で、Always On 可用性グループを構成しています。将来的には Azure SQL Managed Instance のリンク機能を用いた Azure 側の DR サイトの構築も考えています」(洪 氏)。

吉川 氏も「従来のシステムではフェールオーバー クラスターで可用性を担保する作りだったものを、Always On 可用性グループを採用したことで、高い可用性を実現できました」と説明。「フェールオーバー、すなわち稼働中のシステムに問題が生じた際に、待機中のシステムに切り替わる時間が大幅に短縮でき、可用性の部分で大きな改善を実現しました」と力を込めます。また、運用負荷の軽減とパフォーマンス強化という意味においては、SQL Server 2022 で強化された IQP (Intelligent Query Processing: インテリジェントなクエリ処理) 機能も大きな効果を発揮したといいます。

「実行プランを作る際、SQL Server のなかで実行したものをフィードバックして、新しくプランを作り直してくれる IQP 機能が有効でした。弊社の取引システムには 1 秒間に 1 万件以上の取引がありますが、非常に多くの取引をされるお客様がいる反面、そうではないお客様も存在し、またドル円の取引のみで、他の通貨は取引していないといったお客様も存在するなど、データの濃度にバラツキがあります。そのため、実行するたびに最適かどうかをチェックして実行プランを作らないと、タイミングによってはパフォーマンスが大きく低下してしまいます。既存システムにおいては運用面でのさまざまな工夫で対処してきましたが、今回のプロジェクトでは IQP 機能を活用することで運用負荷の大幅な軽減を実現しています」(吉川 氏)。

  • システム概要図

    システム概要図

Azure との連携機能を積極的に活用することで事業継続性を担保し、セキュリティ面での強化も図る

さらに本プロジェクトにおいては、最新の SQL Server 2022 を採用したことで、パブリック クラウド (Azure) との連携に関しても強化が図られています。前述したように、Azure SQL Managed Instance のリンク機能を用いた DR サイトの構築を視野に入れていることから Azure 上でデータを保全することで、オンプレミス環境に問題が発生した際のビジネス継続性の担保を期待していると言います。AKS ハイブリッド デプロイメント オプションや SQL Server 2022 を用いてオンプレミス環境に構築した FX プラットフォーム上で稼働するアプリケーションは、Azure 上でも容易に動かすことができるため、DR サイトとして十分に機能すると吉川 氏。「まだ検証中の部分もありますが、AKS レイヤーでは、Azure 環境下でもアプリケーションの稼働が確認できています」と語り、課題が残ってはいるものの、事業継続の観点でも本プロジェクトは大きな効果が得られるはずだと力を込めます。

プロジェクトを推進するにあたっては、検討段階における SQL Server 2022 の提案をはじめ、マイクロソフトのサポートが重要な役割を担いました。「EAP に参加した時から、技術的な支援はもちろん、そもそもどうやって進めていけば良いのかといったところに始まって、密接なサポートをいただきました」と洪 氏は語り、「事例やドキュメントもほとんどないなか、マイクロソフト本社からも技術支援をいただき『この設定で正しいのか』といった部分も確認してもらえたことが、スムーズにプロジェクトを推進できた要因になったと実感しています」と喜びを口にします。吉川 氏も「サンプル クエリを作ってもらったりと、かなり密接なサポートが受けられました」と、マイクロソフトの支援を高く評価しています。

2023 年 2 月末の時点では、総合テストを実施している段階にある本プロジェクトでは周辺システムの環境構築も並行して行われています。同年 3 月以降は UAT や受入試験、本番同等の環境を使った Dry Run 試験などを実施し、6 月以降「積立」サービスを皮切りに、段階的なリリース (既存システムからの移行) を進めていく予定です。

「弊社ではさまざまなサービスを提供しているため、まずは比較的影響の小さい積立 FX サービスからリリースを行い、顧客数の多い FX サービスについては、これから総合テスト、受入準備、UAT などを実施して 11 月のリリースを目指しています。開発側としては『できれば一括でリリースしたい』というのが本音ですが、お客様のことを考えると影響の少ないサービスからの切り替えは当然の話です。ただ、現行システムが非常に密結合なシステムになってしまっており、サービスを分離して進める部分でかなり苦労しました。このため、次世代取引システムにおいては、システム構成の簡素化・疎結合化も重要な目標として設定しています。今回のプロジェクトでは個々のアプリケーションもコンテナー化し、その単位で動かせるようにしていますし、お客様の数に応じて立ち上げる数を変えることも可能にしています。このように、アプリケーションの動かす環境を問わない仕組みを実現したことで、インフラ投資をする前に、『まずはパブリック クラウド上で試してみる』というスモール スタートが行える環境を構築できると考えています」(吉川 氏)。

全体的なパフォーマンスに関しては、まさにこれから確認していく段階ですが、現時点でもセキュリティ面で確かな成果が出ていると吉川 氏。「たとえば既存システムでは、データベースへの接続など様々な設定情報をアプリケーションの設定ファイルにそのまま記述しているケースもあり、システムの機密情報保持という面では懸念が多い状況でした。次世代取引システムでは、AKS 側でシークレットという形でアプリケーションの基盤部分にそういった情報を持たせることができ、開発者が詳細な内容を意識せずに利用できるほか、機密情報の管理が容易に行えるようになりました」と語ります。

またデータベースに保存されている個人情報に関しても、接続ユーザーの権限に応じて、見える情報・見えない情報を SQL Server 側で制御できるようになったと言います。従来のシステムでは、データをマスクするクエリを流して、大量のデータのアップデートを行ってから公開するといったプロセスで運用されており、本プロジェクトは、セキュリティ面だけでなく、運用負荷の軽減においても大きな成果が得られています。

Azure との連携を深め、ハイブリッド クラウド環境を推進、さらにマルチクラウド化も目指していく

SBIリクイディティ・マーケットでは、今回の取り組みで得られた成果を、社内で稼働している他のシステムへもフィードバックしていきたいと考えています。データベースに SQL Server 2022 を採用しただけでなく、マイクロソフトが提供する Kubernetes のプラットフォームである AKS をアプリケーションが稼働する基盤に採用するなど、マイクロソフトのサービスを中心にシステムが構成されており、今後の展開においてもマイクロソフトに期待するところは大きいと吉川 氏は語ります。

「AKS については金融サービスに関わる制約によって、今回は Windows Server 上に構築していますが、マイクロソフトでは HCI ソリューションとして Azure Stack HCI を提供しており、こういったサービスを活用することで、Azure との連携を深め、オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境を構築していきたいと考えています。先ほど話したように、まずはパブリック クラウドで動かしてみて、取引のボリュームが増えてきたらオンプレミス環境に移行するといったスモール スタートを実現できればと思います」(吉川 氏)。

なお同社では目的や用途に応じて最適なものを選択するというマルチクラウドでビジネスを展開していく予定です。昨今ではミッション クリティカルな業務もクラウド上で行われるようになったと吉川 氏は語り、可用性・事業継続性の観点においてもマルチクラウド戦略は重要になると予想しています。また、現状では Azure 以外のパブリック クラウド上に DWH を構築していますが、今回の次世代取引システムは Azure との連携を重視していることもあり、Azure Synapse Analytics をはじめ、Azure が提供する Data & AI サービスの活用も視野に入れていると言います。

2022 年 11 月に正式リリースされた SQL Server 2022 を先行導入し、FX 取引システムにおけるパフォーマンスの向上、セキュリティの強化、可用性の担保を実現した SBIリクイディティ・マーケット。マイクロソフトは、今後も支援を続けます。

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