家庭用コンピューターの低価格化、高速インターネット環境の整備、スマートフォンの普及といったテクノロジーの進歩とともに、世界のゲーム市場は急速な成長を続けてきました。アメリカの市場調査会社 Newzoo は、2020 年のグローバルゲーム市場収益規模が、前年比 9.3 %増の 1,593 億ドル(約 16 兆 9 千億円)に達する見込みだと発表しています。

面白いゲームならば、国を越えて遊ばれる時代です。しかし、面白さを損なうことなく届けるためには、いくつかの技術的な壁を乗り越えなくてはなりません。

2020 年 4 月、セガはオンライン RPG ゲーム『ファンタシースターオンライン2』の北米展開を開始し、2020 年 10 月現在は、世界約 185 ヵ国・地域にグローバル版を展開しています。日本よりもはるかに広いエリアで、遅延なくアクションを楽しんでもらうために同社が選択したプラットフォームは、Microsoft Azure でした。

柔軟なサイジングによって、ゲーム プロジェクトのリスクを低減できるクラウドを基盤に採用

セガサミーグループの一員であり、ゲームの開発・製造・販売を行うセガ。数々の名作を生み出してきた同社が手がける、国内最大級のオンライン RPG ゲームが『ファンタシースターオンライン2(以下 PSO2)』です。

『PSO2』は、SF と中世ファンタジーを融合させた世界の中で、キャラクターの成長や他プレイヤーとのコミュニケーション、強敵の打倒、貴重なアイテムの探索などを楽しめるアクション RPG です。

『ファンタシースター』の第一作は 1987 年に発売されており、同シリーズは長く愛されてきました。その最新版である『PSO2』も「無限の冒険」というコンセプトの通り、継続して遊べるゲーム性を持っています。Windows PC 版がリリースされて以降、PlayStation Vita、PlayStation 4、さらに Nintendo Switch 向けにクラウドゲーミング形式で展開するなどマルチプラットフォームで展開する『PSO2』は、2020 年に 8 周年を迎えました。

講演の株式会社セガ 第3事業部 第3開発2部 第2プログラムセクション テクニカルディレクター 遠藤 久志 氏

株式会社セガ 第3事業部 第3開発2部 第2プログラムセクション テクニカルディレクター 遠藤 久志 氏

日本国内で展開されている『PSO2』ですが、前々から海外を意識していたと、セガ第3事業部 第3開発2部 第2プログラムセクション テクニカルディレクター 遠藤 久志 氏は語ります。

「日本で好調に展開できているゲームですから、世界にも発信してきたいという思いは前々からありました。特に、北米は世界で最も大きな市場を有しています。しかし、実際に展開するにあたっては、海外サーバーの運用保守や、現地の文化に合わせたユーザー サポートなど、越えなければならないハードルがいくつもあります。海外への思いはあったものの、話が具体化するまでには時間が必要でした」(遠藤 氏)

技術面でもっとも焦点になった課題の一つは、ゲームサーバーでした。現地でデータセンターを借りることも可能ですが、保守のために直接出向く手間が大きくかかってしまいます。そこで、パブリック クラウドを選択肢に加えたと、セガ開発IT支援部 部長 藤本 光伯 氏は言います。

「もともとセガでは、2008 年という比較的早い段階からゲーム基盤にクラウドを採用していました。そのゲームがどれだけヒットするのか、リリース前に読み切ることはなかなか難しいものです。オンプレミスと比べて、柔軟なサイジングができるクラウドは、ゲーム プロジェクトのリスクを下げてくれる存在だったのです」(藤本 氏)

こうして、各パブリック クラウドに対する、『PSO2』のゲームサーバーとしての検証が始まりました。しかしそこには、オンライン アクション RPG ゲームであるがゆえの、大きな壁が待っていたのです。

ゲームの快適性を損なわないパフォーマンスを、Microsoft Azure Ultra Disks によって実現

株式会社セガ 経営企画本部 開発IT支援部 部長 藤本 光伯 氏

株式会社セガ 経営企画本部 開発IT支援部 部長 藤本 光伯 氏

各社のクラウドを検証した結果、どれもパフォーマンスの要求水準を満たすことはできなかったと、遠藤 氏は説明します。

「『PSO2』はクライアント端末よりも、ゲーム サーバーの性能にパフォーマンスを依存するつくりをしています。国内のサーバーはオンプレミスで運用していますが、データベースに発行したクエリの応答時間が 1msec 以下になるようチューニングを施しています。 IOPS とスループットがともに高水準で担保できなければ、『PSO2』のアクション性を損ねてしまうのです。最初の検討段階では、残念ながら、どのクラウドも要求を満たすことはできませんでした」(遠藤 氏)

「『PSO2』の北米展開にあたって、ゲーム基盤にクラウドを採用することは困難である。」上層部に向けて、遠藤 氏がそんなレポートを書き始めた 2018 年 10 月。「Microsoft Azure Ultra Disks(以下、Ultra Disks/旧:Ultra SSD Disks)」の情報が飛び込んできました。

Ultra Disk は、Microsoft Azure(以下、Azure)が提供する IaaS の仮想マシン(VM)における、最上位のディスクストレージです。高い容量、IOPS、スループットがサポートされており、IO 要求の極めて高いワークロードを動作させることが可能です。

「当時 Ultra Disk はまだリリース前だったのですが、マイクロソフトの方々が本国にかけあってくださり、環境を用意してくれました。早速、パフォーマンスを調べたのですが、その結果は驚くものでした。『PSO2』にチューニングしているオンプレミスのサーバーと遜色ないどころか、それ以上の結果が出せているのです。これなら行ける、と沸き立ちました。 Azure が無ければ、北米で 『PSO2』のサービスを開始することはできなかったでしょう」(遠藤 氏)

セガの提供する商用サービスにおいて、Azure が基盤に採用されたのは、これが初めてのことでした。しかし、オンプレミスからの移行に関して「苦労話はありません」と、藤本 氏は笑みを見せます。

「Azure を大々的に使うのはセガにとって初めてのことでしたが、すんなりと利用することができました。もともと『PSO2』は Windows サーバーで動いていたので、親和性への期待はありましたが、Ultra Disk が非常に高性能だったため、移行にもチューニングにも苦労することが無かったのです。もちろん、オンプレミスとの使い勝手の差はありましたが、技術的な質問にも即座にサポートして頂けました。強いて苦労したことと言えば、Ultra Disk が非常に人気のサービスだったため、初めのうちはインスタンスの確保が大変だったことくらいです」(藤本 氏)

想定の 3 倍以上のアクセスにも対応し、ファンの期待に応える

2020 年、『PSO2』はとうとう北米での正式サービスを開始しました。4 月 14 日に Xbox One、5 月 27 日に Windows PC でリリースされています。

「どれくらいのプレイヤーに遊んでもらえるのか。もちろん事前にリサーチはしていますが、実際は出たとこ勝負です。北米でのリリース当初は、想定の 3 倍のユーザー数となりました」(遠藤 氏)

想定以上のアクセスに対しても、Ultra Disk の機能によって、柔軟に対応することができたと、遠藤 氏は続けます。

「オンプレミスで運用している国内版は、1 ワールドあたりの最大同時接続数がハードウェア性能により制限されている設計になっています。もし、これを越えた場合は、ハードウェアの入れ替えが必要になります。しかし、Ultra Disk には、容量や IOPS、スループットなどの設定を動的に変更できる機能がありました。ですから北米でのリリース時も、同時接続数を 国内版の 3 倍にまで、サービスを止めることなく変更することができたのです。その後も、ユーザーの増減に合わせてサイジングを繰り返すことにより、サービスを損なうことなく、コスト メリットを発揮できています」(遠藤 氏)

『PSO2』の北米展開は、現地のゲーム愛好家にとって待ち望まれていたものでした。2019 年に開催されたカンファレンス Xbox E3 Briefing 2019 で発表された時、大きな盛り上がりを見せています。Ultra Disk をゲーム基盤としたことで、ユーザーの期待を損なうことなく、ゲームの提供が実現したのでした。

こうした Azure の運用に関して、藤本 氏は、管理側視点で次のように評価します。

「他のクラウドと比べて安定している印象があります。障害が起きた時も、情報が細かいですね。何が原因で障害が発生しているのか、非常に高速かつ詳細にレポーティングしてくれるので、運用している側としてとても助かります。また、Azure はダッシュボードの出来が非常に良いと思います。構成を変更したときも、『このプロジェクトに関する値段はいくらなのか』といった料金が非常に明確です。こうした、管理者にとっての使いやすさを、マイクロソフトの営業さんはもっとアピールすべきだと思いますよ」(藤本 氏)

「実は、初めは Azure が大嫌いだった。」と、藤本氏はここで本音を打ち明けます。

「最初に説明を聞いたときは、料金体系も複雑で、提示価格も決して安くなく、もう嫌になってしまい、『絶対使わない』と思ったくらいです。ところが、次第に『なかなかいいじゃないか』と変わってきました」(藤本 氏)

なぜそのように心情が変わっていったのでしょうか。藤本 氏はこう続けます。

「営業の方がよく来て、何回も丹念に説明と提案をしてくれたことが大きいです。『本国で決められているので……』で終わらずに、マイクロソフトは最後までエンタープライズ コンピューティングとして柔軟な対応をしてくれました。第一印象最悪から始まって、最終的にはサービス導入という結婚をしているのですから、まるで恋愛ドラマのようなプロジェクトでしたね」(藤本 氏)

Azure を基盤に『PSO2』の世界展開を達成。さらなるゲームの発信へ

北米での成功を皮切りに、2020 年 8 月 5 日、『PSO2』は、欧州、インド、オセアニアなど新たな 33 ヵ国・地域でのサービスを開始し、10 月現在は、全世界約 227 ヵ国・地域に展開しました。グローバル展開が着々と実現しているのです。

「『日本で作られたゲームをワールドワイドに届ける』ことは、セガの目標の一つでした。 Azure を基盤に『PSO2』を世界展開できたことは、大きな成功事例として、今後の弾みになると思います」(藤本 氏)

2020 年 7 月に配信された、マイクロソフトのオンラインカンファレンス Xbox Games Showcase にて、『PSO2』はさらなる進化を遂げると発表されました。

「2021 年には、『PSO2』を大規模にアップデートした『ファンタシースターオンライン2 ニュージェネシス』を開始予定です。ゲーム システムやグラフィック エンジンなどを一新したシリーズ最新作となりますが、もちろん日本や北米だけでなく、世界規模で展開を予定しています。こうした大きな動きに対応していくためにも、さらに Azure を使いこなしていければと思います」(遠藤 氏)

ゲームの領域では世界で初めて Ultra Disk を採用し、『PSO2』の世界展開を成功させたセガ。2020 年に法人設立から 60 周年を迎えた同社は、今後も、世界に革新的なコンテンツをもたらしてくれることでしょう。

「マイクロソフトは最後までエンタープライズ コンピューティングとして柔軟な対応をしてくれました。第一印象最悪から始まって、最終的にはサービス導入という結婚をしているのですから、まるで恋愛ドラマのようなプロジェクトでしたね」


――藤本 光伯 氏 部長 開発IT支援部 株式会社セガ

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