こんにちは。NTTデータグループ 技術革新統括本部 Cloud & Infrastructure 技術部です。 Amazon Web Services (AWS)の日本最大のイベントであるAWS Summit Japanが2024年6月20日、21日の二日間にわたり、幕張メッセで開催されました。この二日間では150を超えるセッションが開かれ、AWSやAWS Partner Network (APN)に所属するパートナー企業による数多くの講演が行われました。 生成AIのブームは落ち着くどころか、より一層盛り上がっており、AWSによるセッションの半数近くが生成AI関連であり、パートナーセッションにおいても必ずと言っていいほど生成AIに関する取り組みについても紹介されていました。 今回は、そんなセッションの中でも最初に行われたAWS Summit Japan開催を彩る基調講演について、今年新しくAWS Ambassadorに任命された眞野将徳からご紹介します。
基調講演は、今年の6月からAmazon Web Services, Inc. のCEOとなったMatt Garman氏のビデオメッセージから始まりました。Matt氏からはAWSが日本に対して2027年までに2兆2600億円を投資する計画を発表したことについて改めて紹介があり、AWSと日本の関係についてアピールしました。
Matt氏のビデオメッセージに続いて、Amazon Web Services, Inc. APJ バイスプレジデント & マネージングディレクター 兼 日本マネージングディレクターであるJaime Valles氏が登場しました。Jaime氏はAmazon Bedrockのリージョンが米国の次に日本で立ち上げられたことを紹介し、Matt氏と同様にAWSが日本に貢献していることを強調しました。Jaime氏によると、今回のAWS Summit Japanの事前登録者数は5万人を超えたそうです。
「Technology for Good」- Werner氏の講演
Jaime氏の挨拶の次は、技術プレゼンテーションとして、Amazon.com, Inc. 最高技術責任者(CTO)兼バイスプレジデントであるWerner Vogels氏が登場しました。Werner氏はグローバルにおけるAWSの最大のイベントであるre:Inventでも各種技術トピックの基調講演を毎回行っていることでも有名です。
Werner氏の講演のテーマもAIに関するものでした。
“AIが機能し始めたらもはや誰もAIと呼ばなくなるだろう”というフレーズから講演は始まりました。AIは決して最近突然現れたものではなく単にそれが成功して浸透することで徐々にAIと呼ばれなくなるだけだという主張とともに、哲学者の時代にまでさかのぼりながらAI技術の歴史を紹介しました。そしてAIと呼ばれなくなった実例として、Amazonの倉庫における自律走行ロボットやレコメンドエンジンを取り上げました。確かに十数年前、私が学生時代の頃はレコメンドエンジンがブームとなっており協調フィルタリングをはじめとした、Amazonや他の企業のレコメンデーション技術について、いかに賢くお勧めを推薦できるかの議論が活発に行われていましたが、最近はなかなか聞かなくなりました。しかし、この技術は当たり前に存在しています。
そしてもう一つ、Werner氏の講演の中で強調されていたのが「Technology for Good」です。これは、同時通訳では「善のテクノロジー」と訳されていましたが、技術を追求するだけでなく、その技術が悪用されないように責任のある活用が重要であるということです。
責任のある活用、善の活用とは何かと言えば、人類の課題への対策であるとWerner氏は説きます。今後さらに増えていく世界人口に対して、食、医療などが課題となりますが、それらに対応して、持続的な未来を実現するためにこそ技術が活用されるべきと主張しました。責任のある技術活用としては、私たち NTT データも、AI の活用を進めていく一方で、不適切な利用が行われることがないよう AI ガバナンス室を設立し、適切な AI 活用を推進しています。
https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2023/032301/
(2023年3月23日 株式会社NTTデータ 報道発表)
講演では、以前は善のテクノロジーの推進は、非営利団体によって進められることが多かったのに対し、近年ではエンタープライズ企業がビジネスとしてそれに取り組んでいることが多くの事例とともに紹介されました。
近年の技術において、データは不可欠なものです。しかし、役に立つデータの多くは特権的なものであり、必ずしも善のテクノロジーを進めたい人が自由にアクセスできるものではありません。また、どんどんデータの量は増えていき、その膨大なデータの山から役に立つものを発見することが非常に困難になっています。
セッションの結びとしてWerner氏は「Good AI needs good data. Good data needs good AI. Good work needs good people.」という言葉とともに、善のテクノロジーを進めるためにはデータの民主化が必要であること、大量にあるデータから役に立つ情報を引き出すにはAIや機械学習の技術が役に立つこと、そしてそのような善の活動を進めていく人を広げていく必要があることを改めて強調し、Werner氏の講演は終了しました。
AWSの生成AIへの取り組み - 恒松氏の講演
Werner氏の講演に続けて、アマゾン ウェブサービス ジャパン合同会社の執行役員である恒松幹彦氏が登場しました。恒松氏の講演は、AnthropicのJared Kaplan氏、ソニーグループ株式会社の小寺 剛氏、ispaceのDan Lamar Woodham Jr.氏の3人のゲストを招きながら進められました。
講演では、改めてクラウドがもたらす価値とAWSが非常に多くのサービスアップデートと値下げを繰り返していることと、国内の事例がいくつか紹介されました。 AWSの生成AIへの取り組みとして、Anthropicと強く連携していることが強調され、AnthropicのJared氏が登場しました。Jared氏からは、同社は設立当初からAIを安全に使うことを目的としていることと、競合他社よりもコストパフォーマンスが良く高い性能が発揮できるとアピールがありました。
そして恒松氏から、Anthropicとの連携の一つとして、Claude3が東京リージョンでも2024年7月から使えるようになることが突如発表され会場は大いに沸きました。このリリースにより、国内にデータを閉じておきたい要件に対して対応できるようになり、より活発なエンタープライズ用途での利用が期待できます。
AWSは生成AIを活用するために三つの層に分かれたサービスを提供しています。インフラストラクチャ、ツール、アプリケーションの三層です。これまではインフラストラクチャの層とツールの層の二つが厚く提供されてきました。たとえば、専用チップを積んだインスタンスや、最近注目を集めているBedrockのようなサービスなどです。これらに加えて、最近ではアプリケーションの層として、利用者側で複雑な準備をすることなくすぐにAIのパワーを享受できるAmazon Qシリーズが多く提供されています。これら三つの層のサービスを目的に合わせて活用することで、簡単にAIのメリットをビジネスや提供サービスに組み込むことができます。
さらに恒松氏から、生成AIを真に活用するためには、技術面の要素以外にもカルチャーやスキル面の要素が必要であり、そのためにパートナーや支援プログラムがあることの紹介がありました。支援プログラムによって生成AIでビジネス効率化を進めたいなどの目的に対して、ユースケースの定義やモデル選定、システム化などの支援を受けることができます。このAWS Summitで概要が発表された生成AI実用化推進プログラムですが、2024年7月22日に応募受付開始のアナウンスがありました。メディア等で報道されている通り、NTTデータもパートナーとして連携しています。
生成 AI を用いたお客様のビジネスイノベーションの加速を支援
https://aws.amazon.com/jp/local/generative-ai-acceleration-program/
(2024年7月22日 アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社)
今や、AWSは宇宙開発にも利用されています。事例の一つとして、月の水を宇宙開発の燃料として活用しようとしているispaceのLamar氏からAWSをどのように活用しているかの紹介がありました。
最後に、恒松氏のあいさつで基調講演は幕を閉じました。
基調講演を聴講して
基調講演の感想ですが、やはり生成AIのブームは引き続き熱いと感じました。そして、Bedrockのリージョンが米国外では日本でいち早く公開されたことや、Amazon Q Businessの日本語対応など、日本での生成AI活用に向けた投資・開発がされていることは非常に頼もしく感じます。
その一方、話題が生成AIに偏りすぎているとも感じるなかで、Werner氏の講演では生成AIという用語はあまり使われず、画像認識と組み合わせた機械学習技術なども多く取り上げられており、Werner氏の講演からは生成AIから始まる今のAIブームを一過性のものに終わらせないという思いを私は感じました。
講演後にブースを回る中でも、必ずしも生成AIに頼るわけではなく適材適所で使っていくべきというAWSのエンジニアの方と議論させていただきました。幅広い技術を活用して、私たちの課題、私たちのお客様の課題を解決し、「Technology for Good」を体現していくことが重要であると感じる基調講演でした。
著者紹介
眞野将徳 MANO Masanori
NTTデータグループ 技術革新統括本部 Cloud & Infrastructure技術部
アプリケーション開発、コンテナ技術の研究開発を経て、現在はNTTデータ全体のクラウドビジネス拡大のため、クラウド基盤の標準化およびユースケース拡大を推進。
2023年よりJapan AWS Top EngineerおよびJapan AWS All Certifications Engineers、2024年よりAWS Ambassadorに選出。
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