都市インフラの整備や地域経済の発展、自然災害対策など、社会基盤の維持に欠かせない産業である建設業においてもDXの波は押し寄せている。2024年4月に施行された働き方改革関連法の影響もあり、深刻化する人手不足をデジタル技術でカバーする取り組みが加速。BIM/CIMや点群データ、XR(クロスリアリティ)といったデジタル技術の活用はもちろん、生成AI技術を用いた業務効率化も推進されるようになり、業務端末にはさらなる性能が求められるようになった。
そして、現場で活用されることが多い建設業で使用する端末として注目されているのが、パフォーマンスとモビリティを兼ね備えたモバイルワークステーションだ。本稿では、エントリー向けのデスクトップ/モバイルワークステーションのラインナップを拡充し、多様な製品を市場に投入している日本HPの担当者に話を伺い、建設業の業務におけるワークステーションの導入価値を紐解いていく。
働き方改革やコロナ禍の影響でモバイルワークステーションの需要が増大
デジタル技術の活用がビジネスに欠かせないものとなったことで、処理負荷の高い専門的な作業を快適かつ安定的に行うための業務端末であるワークステーションの需要は高まり続けている。特に生成AIの活用がビジネストレンド化した昨今では、専門用途だけでなく、一般的な事務作業を行う端末としてエントリー向けワークステーションを導入するケースも散見される状況だ。ワークステーション市場に長らく携わってきた日本HP エンタープライズ営業統括 ソリューション営業本部 本部長の大橋 秀樹 氏は、一般事務に使う端末としてだけでなく、サーバー上で稼働させていたシステムをワークステーションで代替するという流れも出てきていると話す。
「これまでインテル® Xeon® プロセッサーを搭載したハイエンドワークステーション/サーバーでしかできなかった作業が、次世代のインテル® Core™ Ultra プロセッサーを搭載したエントリー向けワークステーションでも行えるようになるなど、性能向上に伴い、ローカル環境で使用する端末であるPC・ワークステーション・サーバーの垣根が取り払われてきているように感じています。昨今の生成AIブームもあって、事務作業向けのPCにも高い処理能力が求められるようになり、エントリーモデルのワークステーションに期待する声は高まっています」(大橋氏)
以前よりBIMやCIM、3D CADといった3次元モデルを扱うソフトウェアを活用してきた建設業においても、ワークステーションが担う役割は変化しており、高い処理能力はもちろん、現場に持ち込むための可搬性も重視されるようになった。その背景には、モバイルワークステーションの性能向上とコロナ禍の影響によるリモートワークの普及があると日本HP エンタープライズ営業統括 ソリューション営業本部 ワークステーション営業部 市場開発担当部長の中島 章 氏は語る。
「ここ5~6年の国内ワークステーション市場の動向とトレンドを紐解いていくと、コロナ禍以前はモバイルワークステーションのシェアは16%程度で、やはりデスクトップ型がメインとなっていました。そこからコロナ禍や働き方改革などの影響もあってモバイルワークステーションの需要が伸び、現在では概ね6(デスクトップ)対4(モバイル)くらいの比率になっています。
在宅勤務にも対応できるモビリティの高さはもちろんですが、一般的なノートPCと同様、モバイルワークステーションの性能向上が著しいことも要因の1つといえます。とはいえ、すべての業種がモバイルへ移行したわけではなく、たとえば設計ルームなど社内での業務が中心となる製造業の製品設計・開発部門などでは、現在もデスクトップ型のワークステーションが主流です。一方、現場での作業が多い建設業においては、コロナ禍を機にモバイルワークステーションへのシフトが一気に進んだ印象です」(中島氏)
もちろん、建設業においても業務領域によっては拡張性が高く冷却性能にも優れたタワー型のデスクトップワークステーションが利用されているが、現場で3次元モデルを確認しながら業務を進めたいというニーズは高く、BIM端末としてモバイルワークステーションを導入する企業は多いと中島氏。続けて「今後、業務の内容や使用するツールによる棲み分けは明確化していくと思います。ワークステーションを提供する側としては、あらゆる部門や業務で導入できるようにラインナップを拡充していく必要があると考えています」と、ハードウェアベンダーが果たすべき役割について言及する。
また生成AI活用においても、業種を問わず社内に蓄積された機密データを“より近い場所”で活用したいというニーズが増大。クラウドからオンプレミスへとシフトする動きも加速している。そのなかで、いきなり大規模な環境を構築するのではなく、エントリー向けワークステーションを用いてスモールスタートするというアプローチが注目されている。中島氏は、BIM/CIM、3D CADなど専門領域のアプリケーションにおいてもAI機能が追加され始めていることを踏まえ、ワークステーションの導入を検討する企業は増加傾向にあると現状を分析する。
「AI活用の観点では、アプリケーションが重要なポイントになると考えています。昨今のアプリケーションは積極的にAI機能を取り込み始めており、AI処理に優れた端末が必要になってきます。AI処理に特化したNPU(Neural Processing Unit)を搭載していない前世代のCPUでは、その効果を最大限に享受することができない場合があるでしょう。このため、ローカル環境、クライアントベースでのAI活用を視野に入れるのならば、NPU搭載のCPUを採用し、ハイエンドGPUも搭載できる最新ワークステーションが担う役割は、より重要度を増していくと思います」(中島氏)
最新のインテル® Core™ Ultra プロセッサー(シリーズ2)を採用し、
ユーザーの声を取り入れ進化するHPの最新ワークステーション
こうした状況のなか、日本HPではワークステーション製品を刷新。業種・業務ごとのニーズを汲み取り、性能強化とラインナップ拡充を図っている。
建設業からの需要が高いモバイルワークステーションに関しては、「ZBook」ブランドで4つのモデルを展開している。エントリーモデルの「ZBook 8」は従来の「ZBook Firefly」の後継となる製品で、NPU搭載の最新インテル® Core™ Ultra プロセッサー(シリーズ2)を搭載。14インチモデルと16インチモデルが用意されており、どちらも有線LANポートを搭載するほか、LTEの搭載も可能となっている。14インチモデルの有線LANポート追加と、GPUモデルでのLTE対応は、日本企業からの声に応えた機能強化となる。
「日本HPでは、定期的にワークステーションを使用されているお客様に集まってもらい、製品についてのフィードバックと要望をいただいています。日本企業ならではの要望も多く、実は14インチサイズのモバイルワークステーション自体も日本からの声に応える形で開発したという経緯があります。建設業のお客様からは、通信の安定性を確保するため14インチの軽量モデルでも有線LANポートが欲しいという声が強く、本社の開発部門にフィードバックし続けてきました。今回、長年のリクエストに応えて有線LANポートが搭載されたのはうれしいポイントです」(大橋氏)
前モデル「ZBook Power」の後継モデルとなる「ZBook X」は、ZBookシリーズのメインストリーム製品で、インテル® Core™ Ultra プロセッサーとISV認証取得のGPUを搭載。専門領域のアプリケーションの安定動作を担保するだけでなく、NPU+GPUによる高いAI処理を実現している。大橋氏は「ZBook FireflyとZBook PowerはBIMの標準機として多くの企業に導入されています。最新モデルは性能が向上しており、エントリーモデルでありながらBIMだけでなくCIMや、少し処理は重いですが点群データの解析などにも利用できる製品に仕上がっています」と説明する。
さらにZBookシリーズのフラッグシップモデルである「ZBook Fury」では、新たに18インチモデルが追加された。こちらは現場での点群データ解析や、VR/MRの活用といったニーズに対応した製品となっており、デスクトップクラスのインテル® Core™ Ultra 9プロセッサーや最新世代のGPUを搭載可能。TDP200WでCPUの性能を最大限に引き出せるため、データサイエンス/AI開発にも対応し、現場に持ち出せるデスクトップ機クラスのモバイルワークステーションとして建設業のあらゆるシーンでの活用が期待されている。
もちろん、建設業においてもデスクトップ型ワークステーションの需要は高く、なかでもAI開発や推論処理など、これまでインテル® Xeon® プロセッサー搭載サーバーで行われていた領域で使える製品が求められている。日本HPでは、タワー型の「Z2 Tower G1i」からBIM標準機としても採用例の多い省スペースモデル「Z2 SFF G1i」、ラックマウント可能なミニ筐体を採用した「Z2 Mini G1i」まで、幅広いエントリー向けデスクトップワークステーションをラインナップ。そのすべてにNPUを実装した次世代のインテル® Core™ Ultra プロセッサー(シリーズ2)が搭載されており、ハイエンドのGPUと組み合わせることで、AI処理に関してはインテル® Xeon® プロセッサー搭載サーバーに匹敵するパフォーマンスを発揮する可能性も十分にあるという。
「今回ご紹介する最新のタワー型のZ2 Tower G1iは拡張性が高く、さらに1200Wの電源ユニットを搭載したモデルもリリースを予定しています。今後出てくるハイエンドGPUも搭載できるため、もはやエントリーの域を超えた、高パフォーマンスの構成にできます。コストを抑えて負荷の高い処理を行いたいと考えているのならば、ぜひ選択肢に加えていただければと思います」(大橋氏)
最新デスクトップ/モバイルワークステーションが「建設DX」を牽引する
建設業の業務端末は、過酷な環境も含め、さまざまな現場での活用が想定される。その点、日本HPのワークステーション製品は、性能はもちろん、堅牢性やセキュリティも担保されており、あらゆる環境で安心して使うことが可能だ。なかでも14インチのエントリーモデルから18インチのフラッグシップモデルまでを取り揃えたモバイルワークステーションが、“建設DX”を実現するうえで重要な役割を担うことを期待していると中島氏は語り、同社のワークステーション事業における今後の展望を口にする。
「これまでのモバイルワークステーションは、あくまでサブ機的な扱いであり、ワークステーションといえばデスクトップという印象をお持ちの方も多いと思います。ただ、最新のモデルを実際に使っていただくと、問題なく業務に使えているというフィードバックが多く、多様な業務で十二分に活用できる性能と安定性を備えていることを理解してもらえています。単なるリモートワークではなく、どこでも仕事を継続できるフレキシブルなワークスタイル、つまり本当の意味でのDXを実現するための“ツール”として、日本HPでは今後もデスクトップ/モバイルワークステーションの性能向上とラインナップ拡充を図っていきます」(中島氏)
日本HPが新たに提供を開始する
ワークステーションを一部ご紹介!
※各製品リンクの日本語版ページは5月中旬以降に公開予定です。
HP ZBook Fury G1i
ZBookシリーズのフラッグシップモデルとして登場したZBook Furyでは、16インチと18インチが用意されており、ユーザーのあらゆるニーズ答えます(上記写真左側、18インチ)。さらにインテル® Core™ Ultra プロセッサー(シリーズ2)を搭載したことで、可搬性と高いパフォーマンスを両立させており、TDP200Wの電源でCPUの性能を最大限引き出すことで、持ち運び先での様々な作業を可能にしています。
HP ZBook 8 G1i
ZBook Fireflyの後継モデルとして登場した、モバイルワークステーションのエントリーモデルであるHP ZBook Fury G1iは、14インチと16インチの2種類が用意されています(上記写真右側、14インチ)。また本機種よりユーザーの要望を叶え、優先LANポートを搭載しており、NPUを内蔵するインテル® Core™ Ultra プロセッサー(シリーズ2)の採用により、複雑で重い処理を行う業務から一般的な業務まで、幅広く活躍できるモバイルワークステーションです。
HP Z2 Tower G1i
高い拡張性と安定した電源、大きく向上した冷却性能を誇る、エントリー向けのタワー型ワークステーションです。さらにインテル® Core™ Ultra プロセッサー(シリーズ2)を搭載したハイパフォーマンスモデルのため、レンダリングやシミュレーションから、ビデオ編集や膨大なデータセットの準備まで、高度なワークフローに対応。
エントリー向けでありながらワークステーションのメインストリーム性能を持つ製品となっています。
HP Z2 SFF G1i
薄型コンパクトでありながら、高性能GPUが搭載可能なカスタマイズ性と、インテル® Core™ Ultra プロセッサー(シリーズ2)を搭載した高いパフォーマンスで、多くのユーザーを支えるスリムタワー型ワークステーションです。
その筐体は前モデルより20%小型化を実現しており、ラックマウントにも搭載することが可能なため、様々な限られた環境のなかで高いパフォーマンスを発揮できます。
HP Z2 Mini G1i
スリムタワー型よりもさらに小さい筐体を持つ本製品は、ミニ筐体でありながら他モデルと同様にインテル® Core™ Ultraプロセッサー(シリーズ2)の搭載が可能となっており、高いパフォーマンスを誇ります。さらにサーバールームのラックマウントへ設置することを想定されて設計されたデザインは、5Uラックに6台の設置を可能にするなど、圧倒的省スペース性を発揮しています。