ビジネスで活用されるPCのコンピューティングリソースは増加の一途を辿っており、より高度な処理が必要となる専門分野向けに開発されたワークステーションへの注目度は高まっている。さらにテレワークをはじめとする、場所に囚われない柔軟な働き方が普及した近年では、性能と可搬性を併せ持つノートPC型のモバイルワークステーション需要も増大。
なかでも、現場での作業が不可欠な建築・建設業界において、いままでは据置で使用されるデスクトップ型のワークステーションでしか処理できなかった作業が、一部だけでも現地で行えるようになるメリットは計り知れないだろう。最新のモバイルワークステーションがBIM/CIMの領域で“どこまで使えるのか”、注視している設計者・施工者も多いはずだ。
そこで今回、土木分野への3次元モデルの導入推進と、土木技術者を取り巻く環境整備、並びに人材育成を推進している一般社団法人 Civilユーザ会の長谷川 充 氏、杉浦 伸哉 氏と、モバイルワークステーションの最新モデル「HP ZBook Power 16inch G11 Mobile Workstation」をリリースした日本HPの新井 信勝 氏が対談を実施。本稿では実機を用いたレビューを交えながら、BIM/CIMの進展における最新モバイルワークステーションの役割を紐解いていく。
対談者
一般社団法人 Civilユーザ会
監事 長谷川 充 氏
Civil User Group
幹事 杉浦 伸哉 氏
株式会社 日本HP
エンタープライズ営業統括 ソリューション営業本部
ワークステーション営業部 市場開発担当部長
新井 信勝 氏
いまのモバイルワークステーションに求められるパフォーマンスとは
――まずはワークステーションの現状とトレンドについて、皆様の所感をお聞かせください。
新井氏:ワークステーション市場のトレンドとしては、近年のコロナ禍を経て、モバイル型の需要が拡大していることがあげられます。この傾向は特にBIM/CIMに関わる建設・建築業に強く出ており、同じくワークステーションの利用が多い製造業に先んじてモバイルワークステーションの採用が進んでいる状況です。その背景には、現地や出張先に持ち運んで活用したいというニーズがあるわけですが、我々としては本体やACアダプタの重量、ディスプレイのサイズ、バッテリーの持ち、堅牢性、さらにセキュリティ面など、課題もまだまだ残っているとも考えています。
また、昨今注目されている技術トレンドの「AI」は、ワークステーション市場でも、もちろん注目されています。日本HPでは最新のモバイルワークステーションに、AI処理に特化したチップであるNPU(Neural Processing Unit)を搭載したインテル® Core™ Ultraプロセッサーを採用しており、CPU/GPU/NPUでそれぞれ処理を分担することで、AI処理をより高効率で行い、消費電力面でも優位性を高めています。
長谷川氏:他の業界でも同じだと思いますが、建設・建築業界においても、内勤で仕事をしている時間を仮に8時間とすると、そのうち5~6時間はPC(ワークステーション)を使っています。極端な言い方をすると、もはや身体の一部のようなもので、朝起きてメールチェックから始まり、丸一日一緒に過ごしていることになります。そうなると、机に固定されているデスクトップ型よりも、持ち運びが可能なモバイル(ノート)型のほうが快適に作業できるのは確かで、実際、私の会社ではデスクトップ型を使っている従業員は1人もおらず、全員が可搬利用しているか否かはさておき、すべてモバイルワークステーションを使っています。
最近のモバイルワークステーションは性能向上が著しく、1台ですべての作業を完結させたくなりますが、アプリケーションによっては、デスクトップ型のワークステーションでないと快適に作業できないこともまだまだ多いです。そのため、ここまではモバイル、ここからはデスクトップと線引きして仕事を整理し、働き方を変えていく必要があると考えています。
新井氏:確かに点群データの3Dモデル化など、最新の技術トレンドを扱う際には、より高性能なデスクトップワークステーションが必要になってきますね。そのあたりの線引きは我々としても重要になると捉えています。
杉浦氏:長谷川さんが話されたように、最近では現地にモバイルワークステーションを持ち込んで業務を行うことが当たり前です。以前のワークステーションはCADなど専門用途に使うもの、という扱いでしたが、近年ではマルチタスクでさまざまな用途に利用されています。CADを立ち上げて、2次元の図面でも3次元データでも一緒に見ながら、現場や本社とのコラボレーションで仕事を進めていくような形もあります。そうなると、やはりマシンパワーが少ないと処理が追いつかないことも出てきます。
もちろん、ハードウェアだけの問題ではなく、OSやソフトウェアの作り方など要因はさまざまですが、マルチタスクで一連の業務を安定して進めるためには、やはりハードウェア性能の底上げが有効だと思います。その意味でも、最新のモバイルワークステーションに対する期待値は大きいですね。
新井氏:建設・建築業でも、WEB会議を行うコラボレーションツールなどは頻繁に利用されているのですね。
杉浦氏:そうですね。ほとんどの打ち合わせはWeb会議中心で、データを共有しながら行っています。BIM/CIMだけでなく、複数の業務アプリケーションを同時に立ち上げて仕事を行うという点では、大容量のメモリを搭載できるモバイルワークステーションの特徴が活きてくると思います。
新井氏:最近のWeb会議ツールは機能も増えてきており、CPUやGPUの負荷も高くなっていますよね。NPUを搭載したインテル® Core™ Ultraプロセッサーであれば、ビデオ通話中の背景ぼかしのカメラ処理やノイズ除去の音声処理や自然言語処理などのなど、AIを活用している作業はNPUに肩代わりさせることができます。結果的にCPUやGPUの負荷を軽減し、空いたチップのリソースを他の作業に割り当てたり、NPUは低消費電力で動作するのでバッテリー持続時間を延ばしたりすることも可能です。
――近年では、サブスクリプション形式で提供されるソフトウェアも増えており、最新機能をすぐに使えるようになっています。このあたりは実際に使われている側からするとどう感じておられるのでしょうか。
長谷川氏:ありがたいのが半分、迷惑なのが半分ですね。やはりハードウェアを毎年変えることは難しく、サブスクで機能が追加されて処理が追いつかなくなるのはありがた迷惑な側面があります。ただ、ユーザーからの要望があっての機能追加なので、その機能を使えば業務の効率化が図れるシチュエーションというのもあるはずで、その意味ではありがたいと感じることも多いと考えています。
新井氏:今後はさまざまなソフトウェアでAIを使った最新機能が多く追加されていくと思います。生産性の向上や業務効率化といった観点ではぜひとも活用して欲しい。そういった意味でも、AI機能を強化したワークステーションというのは、ひとつの選定基準になるのではないかと考えています。
「HP ZBook Power 16 inch G11 Mobile Workstation」の実機をレビュー、CIMユーザーである長谷川氏が実感したメリット
――今回の対談にあたっては、事前に日本HPの最新モバイルワークステーション「HP ZBook Power 16 G11 Mobile Workstation」を長谷川さんにお渡しして、1週間ほどレビューしてもらいました。実際に使ってみて、どのような印象を持たれましたか。
長谷川氏:そうですね、まず私が普段使っているワークステーションが、2年ほど前に購入したインテル® Core™ i7-1255Uを搭載している、日本HPさんのZBookシリーズです。今回インテルCore Ultra 9 185Hを搭載している最新モデルと、それを比較して体感で1.5~2倍程度スピードアップしている印象を持ちました。さまざまな作業を快適かつ安定して行えたので、非常に欲しくなるハードウェアだと感じています。
しかし、先ほど話に出てきた点群データに関しては、やはりまだ限界を感じる面がありました。もともと点群を扱う想定がされたハードウェアではないことはわかっているのですが、どうしても子供心が疼いて、どこまでできるか試したくなりました(笑)。
100GB程度の点群データでテストしてみたところ、まぁ個人差があるのであくまで私の感覚ですが、これならば気の短い人以外はぎりぎり許容できる、というくらいの時間で処理が完了しました。
――なるほど、体感できるスピードアップが感じられるのは大きな差だと思います。その他に専門的なCIMソフトウェア等ではいかがだったでしょうか。
長谷川氏:そうですね、InfraWorksやCivil3D、RevitといったCIMソフトウェアを組み合わせて使ってみました。普段私が使用しているモデルでは、たまに動作に引っかかりを感じたり、一瞬止まったりという挙動がよくありましたが、HP ZBook Power 16 G11ではそういった挙動が滅多に起こらず、先ほど皆さんと一緒に操作させていただいた通り、コマンド実行処理時間、読み込んだ後の描画などについて、回転したりパンしたりといった操作がとてもスムーズで、総じて非常に快適に作業できました。
ただ、先ほど話したサブスクの普及もあってアプリケーションの進化は早いため、おそらく1~2年もするとパワー不足を感じる場面も出てくるかもしれません。ハードウェアとソフトウェアの進化はイタチごっこの様相を呈しているので、これは仕方のないことではあります。ですが結論としては、現時点(2024年7月現在)において、満足度の高いモバイルワークステーションだと感じています。
杉浦氏:CPUのクロックやコア数、メモリ搭載量など、さまざまな部分がパワーアップしているので当たり前かもしれませんが、これだけのサクサク感は以前のモデルではあまり見られないですね。
新井氏:テストに使用したモデルは、最大5.1GHzの動作クロックで16コア/22スレッドのインテル® Core™ Ultra 9 プロセッサー 185Hを採用し、メモリはDDR5-5600で64GBです。内蔵のGPUもインテル® Arc™ グラフィックスに進化しており、その他にもディスクリートGPUも搭載、SSDの性能も旧モデルと比べて向上しています。
取材当日の各種ソフトウェア 動作テストの様子
・動作確認端末
「HP ZBook Power 16 inch G11 Mobile Workstation」
・動作確認ソフト
「Autodesk Civil 3D 2024」
「Autodesk Revit 2024」
「Autodesk ReCap Pro」
――動作テストの結果と、お二人の感想を踏まえて、あらためて「HP ZBook Power 16 inch G11 Mobile Workstation」が建設・建築業界においてどのような価値を提供できるのか、新井さんにお聞きしたいと思います。
新井氏:長谷川さん、杉浦さんの話をお聞きして、1日の仕事でPC(モバイルワークステーション)を使う時間が多いこと、そのなかで生じるちょっとした待ち時間やフリーズがストレスになっていることを実感しました。サブスクが普及してハードウェアとソフトウェアの更新時期に差異が生じていますが、それでも最新ハードウェアの導入が生産性向上に寄与することは間違いありません。特にBIM/CIMソフトウェアに関してはマルチコアよりもシングルコアのCPUのクロック数が求められるケースが多く、その意味でもクロック数の高いインテル® Core™ Ultraプロセッサーを使用した「HP ZBook Power 16 inch G11 Mobile Workstation」を選択する価値はあると考えています。
先ほど話したAIについても、これからソフトウェアやOS側で対応が進むと考えており、ここでもAI機能を強化したインテル® Core™ Ultraプロセッサーが活きてくると思います。サブスクのソフトウェアで新しいAI機能が追加されても、「HP ZBook Power 16 inch G11 Mobile Workstation」ならば問題なく対応することが可能でしょう。
働く人々の負担を減らし生産性を向上させることを使命に、日本HPの挑戦は続く
――冒頭にもお話しいただきましたが、現代のワークステーションには専用ソフトだけでなく、複数の業務アプリケーションを同時起動して業務を行うことが求められています。長谷川さん、杉浦さんから、メーカーである日本HPに期待しているところをお聞かせください。
長谷川氏:マルチタスクが当たり前になっている現代において、モバイルワークステーションで専門的な処理も含めた日常的な業務をこなすという流れは加速していくでしょう。建築・建設業界でもますます導入が進むと思います。ですが性能面で言えば、まだまだ専門的な部分の作業内容や処理内容によってはデスクトップを併用していくことが必要です。技術の進化待ちというのもあるでしょうが、モバイルワークステーションだけですべてが完結できるような世界も見てみたいです。
また、すべてのユーザーに配付するには、まだまだコスト面での課題があります。サブスクが浸透したソフトウェアと同じく、日本HPさんにはハードウェアにもストレスなく買い換えできるような仕組みを提供してくれることを期待しています。
杉浦氏:“モノからコトへ”とよく言われますが、建築・建設業界ではモノのパワーとコトのパワーが拮抗しているんです。たとえば製造業においてはモノのパワーが強く、コトがモノに寄り添うのが当たり前です。しかし我々の業界では、僕らのようにコトをやっている人間が、モノに寄り添おうとすると、1年ごとにワークステーションを買い換えます、というような話になり、経済バランス的にうまくいかなくなります。ここを解消するためには、メーカーと我々がコミュニケーションを取って、進めていくしかないと思っています。
長谷川氏:そうですよね。たとえば会社に入ってきた新人さんに、ハイエンドのモバイルワークステーションを提供するケースは非常に少ない。ところがエントリーモデルを配付されると、できる領域が絞られてしまい、新人さんは「ここまでやればいいんだ」と仕事の箱を決めてしまう。つまりはコトがモノに依存するような形になってしまいます。なので、本当はすべての従業員に最新のモバイルワークステーションを配付するのがよいのですが、その実現には先に述べたような仕組み作りが必須で、クリアすべき課題は多いと思います。
――日本HPとしては、こうした現場の声にどう答えていく予定でしょうか。
新井氏:日本HPでは、冒頭で話したとおり、基本性能はもちろん、可搬性や視認性、堅牢性、セキュリティといったユーザーからの要望を反映した製品作りを続けていきます。長谷川さんには「ワークステーションは身体の一部」とおっしゃっていただきましたが、私たちも働く皆様の負担を減らして、生産性を向上させることを使命と考えていますので、今回お聞かせいただいた話もフィードバックし、よりよい製品を届けていきたいと思います。貴重なご意見、ありがとうございました。
――本日は皆様、ありがとうございました。
[PR]提供:日本HP