2022年の末にOpenAIがChatGPTをリリースして以降、生成AI(Generative AI)というキーワードを耳にしない日はないと言ってよいだろう。こうしたIT技術というのは、IT業界の中だけで話題になっていることが以前までの通例であったが、生成AIに関してはそうしたITのメディアだけでなく、一般のメディアでも毎日取り上げられるような一種の社会現象となっている。

そして今、生成AIの革命が、ビジネスパーソンにおける生産性を向上させる為の必須デバイス、モバイルPCを大きく変えようとしているのをご存知だろうか。そのキーワードとなるのが“AI PC”である。AI PCとは生成AIを、PC上でより効率的かつ安心に使えるための新しいPCの名称として使われている単語だ。

こうした生成AIのトレンドは、ビジネスパーソンが日常的に使っているMicrosoft 365のような生産性向上ツールにまで広がっており、AIを使いこなしていかなければ競合他社との競争に勝てない、そんな時代を迎えつつある。

AIのアプリケーションを処理する演算器の位置がクラウドからローカル、そしてハイブリッドへと変わっていくというトレンド

AI PCはその名の通りAIアプリケーションが実行できるPCという意味だが、これまでとの大きな違いはAIアプリケーションをどこにある演算装置で処理するかにある。

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上記の図は、AIの処理をどこにある演算装置(プロセッサー)で行なっているかを模式的に示したものだ。これまでのAIアプリケーションのほとんどが、クラウド、つまりインターネット上に置かれたデータセンターに格納されているCPUなどで処理される。そうした処理を行なうために、クライアントとなるPCは、データをクラウドにアップロードし、そのデータを元に処理が行なわれ、結果がクライアントに返される。

スマートフォン関連各社が提供している音声アシスタントなどがその典型例で、クライアントとなるスマートフォンに向かってユーザーがしゃべった音声データが、データセンターのサーバーにアップロードされ、サーバーのプロセッサーが音声認識を行ない、その結果をクライアントに返し表示する。

しかし、このようなフローを踏んでいる為、データを送ってから結果が返ってくるまでの遅延(レイテンシー)が発生し、ユーザーにとってはただ結果が帰ってくるのを待つしかない状況が発生するわけだ。また、データをクラウドにアップロードしなければならないため、セキュリティーの観点からクラウドストレージを使っていない企業にとっては、セキュリティー上の懸念があることも指摘しておきたい。

さらに、こうしたクラウドAIを提供する場合、アプリケーションを提供する企業はローカルのアプリケーションを管理するコストと同時に、クラウドにあるサーバーを利用するコストが発生する。このコストが固定費として発生することになるため、中小企業にとっては負担の増加になりかねないのもクラウドAIの弱点と言えだろう。

これに対してAI PCでは、PC上にある何らかのプロセッサーを活用してAIの処理が行なわれる。これにより、ローカルのストレージに格納しているデータを直ちにプロセッサーが読み込んで処理を開始し、結果を返すことが可能になる。クラウドAIの場合には、その処理が終わるまでのネットワーク回線が遅かったりすると数秒程度かかる場合があるが、AI PCであればミリ秒単位で処理が完了し、ユーザーにとって快適なAIの活用が可能になる。

またローカルAIでは、ストレージ上のデータはPCの中だけで処理されるため、自社のデータがインターネットに出て行ったりすることがない。セキュリティー上の懸念からクラウドストレージを使用していない企業にとっても、AIが活用できる新しい機会を提供すのがローカルAIだということだ。

ただ、こうしたローカルAIが現実になったからといって、クラウドAIがなくなるかと言えば、そういう訳ではない。クラウドAIは、より大規模なAIの動作を可能としているため、クラウドAIでしかできないことも存在する。そのため、自社データがクローズなサーバーにまではアップロードされてよいという形での運用を行なっている企業であれば、ローカルAIとクラウドAIの良いところを活用する、ハイブリッドAIと呼ばれる使い方を検討するのが現実的だと言えるだろう。今後はこうしたハイブリッドAIがトレンドになっていくと考えられている。

AI PCを特徴付けるのはSoCに内蔵されているNPU、AI処理を高性能・低消費電力で実行可能

AI PCのもう一つの大きな特徴は、NPU(Neural Processing Unit、エヌピーユーと発音する)と呼ばれる、新しい種類のプロセッサーが搭載され、それを利用してローカルAIの処理が行なわれることだ。

現代のノートPC、特にモバイル向けノートPCは、SoC(System on-a-Chip)と呼ばれる、一つのチップに複数のプロセッサーを内蔵している半導体により実現されている。昔のPCには、CPU(Central Processing Unit、中央演算装置)とGPU(Graphics Processing Unit)、そしてI/Oコントローラがそれぞれ別のチップとして基板上に実装されていたのだが、2010年代の前半に1チップに統合されSoC化された。CPUはソフトウエアの起動やデータの処理などを行ない、GPUはグラフィックスの処理や、大量のデータを並列に処理するなど、それぞれ異なる役割を担っている。

なお、ゲーミングPCなどではより強力な性能を持つGPUが、SoCから独立した形で別途搭載されている例がある。というのも、ゲーミングPCやワークステーションPCなどでは、グラフィックスや大量のデータ処理により高い性能を必要とするためで、そうしたPCでは今でもGPUが別で搭載されている。

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そうしたCPU、GPUに加えて最新のSoCにはNPUという、AI処理に特化した専用のプロセッサーが統合されている。具体的にはAIの推論処理と呼ばれる、学習済みのAIモデルがネコはネコ、犬は犬と判別する処理を、CPUやGPUに比べて高い性能で、かつ低消費電力で行なえるというわけだ。このNPUが登場した背景には、AIの処理をローカルで行なうにあたり、既存のCPUやGPUよりも高性能かつ電力効率に優れたチップが必要となったことにあり、ここ1~2年でNPUの順次統合が進んでいった。

最初にNPUを統合したのは、Arm版Windows(Windows on Arm)向けにSoCを提供しているQualcommで、現行製品の“Snapdragon 8cx Gen 3 Compute Platform”にも搭載している。その他にも、2024年の中頃までに商用製品に搭載し出荷される予定となっている次世代製品“Snapdragon X Elite”には、より高性能なNPUを搭載していることを既に明らかにしている。また、Windowsプラットフォームで一般的に使われているx86プロセッサーを提供するAMDとIntelも昨年NPU内蔵製品を発表し、既に出荷を開始している。

また現在のPC業界では、そうしたNPUを活用するアプリケーションの開発にも取り組んでいる。SoCベンダーは、ローカルでAI処理を行なうアプリケーションの開発を促進する開発キットを、ISV(独立系ソフトウエアベンダー)に対して提供中だ。このため、既にCPU/GPUを利用したローカルでのAI処理を行なうアプリケーションの数は、数百もの数にのぼっている。その代表格となるのが、Adobeが提供するクリエイターツールのCreative Cloudであり、Premiere ProやPhotoshopなどのアプリケーションでは、すでにCPUやGPUを利用したローカルAIの機能を実装している。

今後はNPUへの対応が進んでいくことになると予想されるが、既にCPUやGPUを利用してAI推論を行うアプリケーションが、NPUに対応することは難しい話ではなく、時間が経つにつれその数は増えていくだろう。なお、Windows 11の標準機能であるビデオ会議のカメラエフェクト(背景ぼかしや自動フレーミング)機能であるWindows Studio Effectsは既にNPUに対応しており(というよりもNPUがないと機能が使えない)、CPUへの負荷が高いことが知られる背景ぼかしをCPUに負荷をかけずに利用可能だ。今後はそうしたアプリケーションがISVからも提供され実際に利用できるようになっていくと思われる。

Microsoft Copilotがビジネスシーンを変えていく、生成AIを活用しないとビジネスに勝てない時代がすぐそこに

そうしたPCにWindows OSを提供するMicrosoftは、生成AIブームが発生する以前から、OpenAI社とのパートナーシップを構築してきたことで、世間から生成AIならOpenAI+Microsoftという認識を持たれるようになっている。それらを活かしMicrosoftはOpenAIとのパートナーシップを効率的に活用した生成AIサービス「Microsoft Copilot」の提供を昨年から開始した。

Microsoft Copilotは、Microsoftの生成AIに関するサービスアプリケーションの総称で、その傘の元にさまざまなサービス、アプリケーションが提供されている。たとえば「Copilot in Bing」はWebブラウザーベースの対話型AIサービスになっており、ChatGPTと同じようにユーザーがプロンプトを通じてAIに指示を出せば、さまざまな事をAIにやってもらえる。そのなかでも特にCopilot in Bingは、Microsoftの検索サービスである「Bing」との連携が行なわれており、最新の情報に弱い(AIモデルが学習するまでに時間がかかる)とされるChatGPTよりも最新の情報が表示されるのが大きな特徴だ。

そのMicrosoft CopilotのWindows版が「Copilot in Windows」だ。Copilot in Windowsは、Copilotの機能がWindowsに標準搭載されたもので、最新版のWindows 11ではCopilotのアイコンがタスクバーに表示されており、それをクリックすることで画面の左側にCopilotのメニューが表示され、やはりプロンプトに指示を出すことで、AIにさまざまなことをお願いできるようになる。また、ビジネスPCとしてユーザーが利用する場合には、データの保護機能が提供され、情報漏えいのリスクを低減することも可能となっている。

さらにMicrosoft 365を契約している企業ユーザーは「Copilot for Microsoft 365」という、Microsoft 365に生成AIの機能を追加するサブスクリプションを導入できる。このCopilot for Microsoft 365を契約すると、Word/Excel/PowerPoint/Outlook/OneNoteなどにCopilotのアイコンが追加され、Wordであれば文章の要約を作成したり、Excelであればデータの分析をお願いしたり、PowerPointであればWordファイルの文章を元にスライドを作成してもらうなどの機能が活用できるようになる。

その他に、Copilot for Microsoft 365を契約すると、Copilot in Windowsの中で「職場」というメニューが選択できるようになり、Microsoft 365のクラウドストレージであるOneDrive for Business上に保存されているデータを参照しながら、対話形式で文章やスライドの生成が可能になる。

このようにMicrosoftが提供するさまざまなツールが、生成AIを用いた新しいビジネスPCの活用をユーザーに提供し、それにより企業やエンドユーザーの生産性を上げていく、それがMicrosoftの方向性だと言えるだろう。今後、他社が生成AIを使いこなしており、自分たちは使いこなしていないとなれば、競争に負ける…そうしたことも起こり得る。そうならないように、今から生成AIの活用を検討し、従業員の生産性向上に取り組まなければならない、そうした時代がもう、すぐそこに来ていると言えるだろう。それが「AI PC」というトレンドが象徴していることだ。

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    提供:HP

Copilotキーの実装が始まり、HPは18機種ものAI PCをグローバルに発表。AI PCへの本気度を示す

Microsoftは本年1月に開催されたCESにおいてCopilotキーと呼ばれる新しいWindows PC向けのキー定義を発表した。このCopilotキーは従来のMenuキーを置きかえるもので、多くの製品では右Altキーの右側に配置される。このCopilotキーを押すと、Copilot in Windowsが呼び出されて画面の右側に表示される仕組みだ。MicrosoftはこのCopilot in WindowsをWindowsの標準ユーザーインターフェースのような扱いにする計画で、今後はスタートキーを呼び出すのではなく、Copilotキーを押してCopilot in Windowsを呼び出して何か作業を始める…そうした使い方を訴求していくと説明している。つまりWindowsの中核がCopilotになっていくということだ。

そうしたAI PCの動向に、グローバルなPCメーカーであるHPも先手を打って対応してきている。同社が3月6日と3月7日に米国ネバダ州ラスベガスで開催した販売チャンネルパートナー向けの年次イベント「Amplify Partner Conference 2024」において、法人向けのAI PCを一挙に合計18機種発表し、同社がAI PCに本気になって取り組んでいることを示した。

プレミアム製品ラインの“HP EliteBook/HP Elite x360”、そして普及価格帯向けの“HP ProBook”などが用意されており、それぞれIntelのCore Ultra、AMDのRyzen 8040/7040シリーズなどのNPUを搭載したSoCが採用されている。OSはWindows 11となっており、Copilotキーを標準装備、AI PCとして活用することを前提にした製品だ。また、HPの傘下となっている「Poly」がオーディオやWebカムの品質をチューニングしており、ビデオ会議などにおいても、高品質で行なうことが可能になっている。

最上位の製品としては“HP Elite 1000シリーズ G11”の「HP EliteBook 1040 G11」が用意されている。IntelのCore Ultraを搭載しており、HPがターボファンと呼んでいる二つのファンにより冷却される仕組みを採用、Core Ultraのうち高い性能を誇るHシリーズを選択できるのも大きな特徴である。

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    HP EliteBook 1040 14-inch G11 Notebook PC 提供:HP

また、HPが他メーカーに先駆けて取り組んできたOS起動前のセキュリティーを担保するためのセキュリティーマイクロコントローラーとなるEndpoint Security Controller (ESC)は第5世代へと進化し、PCのファームウエアの安全性が量子コンピューターの進化により脅かされる可能性を防ぐ仕組みが導入されている。

こうした高い性能を持ち合わせ、高品質なビデオ会議を可能とし、かつOSの起動前も含めた高いセキュリティーを実現したHPのAI PCは、日本でも展開される予定だ。ビジネスの生産性をさらに上げていきたいと考えている企業であれば、こうしたAI PCの導入を真剣に考える時期に来ているのではないだろうか。

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[PR]提供:日本HP