2023年11月14日・15日の2日間にわたって、「VMware Explore 2023 Tokyo」が開催された。デジタルテクノロジーを活用したビジネスの最前線で活躍するキーマン達が集結し、数多くのセッションやブース展示が用意され、最新テクノロジーを用いたサービス・ソリューションや導入事例が紹介された。その中で、本稿では、日本総合研究所によるプライベートクラウドの事例講演についてレポートする。

SMBCグループのシステムを支えるプライベートクラウド基盤の変遷

シンクタンク・コンサルティング・ITソリューションの3つの機能を軸にビジネスを展開する株式会社日本総合研究所(以下、日本総研)は、三井住友銀行(SMBC)グループのシステムインテグレーターとして基幹システムの開発・運用を担ってきた。「根付くプラットフォーム、広がる未来:SMBCグループのExplore」と題した同社の事例セッションでは、日本総研 プラットフォーム基盤システム本部 チーム長の高野 雄太 氏が登壇。SMBCグループのITを支える次世代プライベートクラウド構築プロジェクトについて講演を行った。

  • (写真)高野雄太氏

    株式会社日本総合研究所 プラットフォーム基盤システム本部 チーム長 高野 雄太 氏

「2010年にサービスを開始したSMBC向けの第1世代プライベートクラウド基盤では、仮想化が普及していなかった時代で700以上の仮想マシンを構築・運用してきました。2013年には、各システムに保有しているオンプレミスサーバーの仮想集約を目的にIaaS提供に特化した第2世代のプライベートクラウド基盤を構築し、SMBCグループ各社(当初は4社)の共通基盤として提供を開始。さらに2015年には、従量課金制を採用し、サーバーリソースをスピーディに提供できるようにした第3世代の共通基盤をリリースしました。この基盤では、提供範囲をグループ会社10社に拡大。システム特性が異なるハードウェアを提供することで、SLAに応じて最適な基盤を選択できるようにしたほか、IaaS上にコンテナ基盤を立ち上げ、コンテナ環境も利用できるようになりました」(高野氏)

第2世代では1,200以上、第3世代では6,000以上の仮想マシンを構築・運用するなど、順調に規模を拡大してきたSMBCのプライベートクラウド基盤。2022年末の時点で8,000以上の仮想マシン、450のシステム、30,000コアが利用されていると高野氏は現状を説明し、「利用拡大に伴い、さまざまな課題が顕在化してきました」と現行システムが内包する課題について言及した。

共通基盤の運用を続けるなかで見えてきた3つの課題

高野氏が、第3世代プライベートクラウド基盤が抱える課題として挙げたのは以下の3点だ。

①共通基盤管理の負荷増大
②メンテナンスの負荷増大
③ハードウェア保守切れへの対応

「共通基盤の構築により、従来の物理サーバーを仮想集約することでコストメリットを享受してきましたが、業務要件に合わせて個別カスタマイズした結果、仮想マシンの構成管理負荷が増大してしまいました。例えば、個別にネットワークを引き込んで分割したり、ストレージ機能やクラスタ構成のためにRDMで接続したり、OSのマイナーバージョン(レガシーOS)を指定したりといった個別カスタマイズを行っています。技術的には対応可能だったのですが、全体最適化を目指す共通基盤という観点からみると有効な対応とはいえませんでした。メンテナンスに関しても、物理サーバー台数が500台を超える状況のなかで、システム担当と連携してメンテナンスを実施しています。vMotionによる無停止切替が可能なサーバーでも、実施タイミングの調整が必要なほか、ハイパーバイザーのパッチ適用やバージョンアップも手作業となり、負荷が増大している状況でした」(高野氏)

ハードウェアの保守切れ対応に関しても「サーバーを仮想化していれば、別のハードウェアへの移行も容易と捉えがちですが、これは誤った認識でした」と高野氏。第3世代の共通基盤上に構築されたシステムで、仮想化技術(Cross vCenter vMotion、V2V)を用いて移行できるものは全体の3割弱に過ぎなかったと説明する。

「ハードウェアの保守期限が迫っていたこともあり、従来の物理構成をできる限り維持して仮想集約を進めた結果、世代間移行にいくつかの制約が生じてしまいました。1つはネットワーク構成の変更が必要なことで、これはL2延伸で対応、2つ目のディスクタイプがRDMのストレージではvMotionが使用できないという問題に対しては、現行ストレージをそのまま使用しました」(高野氏)

VMware Cloud Foundationを導入し、守りのITと攻めのITを兼ね備えた第4世代プライベートクラウド基盤を構築

こうした課題の解決を図るため、日本総研は第4世代プライベートクラウド基盤の検討を開始する。金融システムに求められる安定性と信頼性の担保、すなわちモード1(守りのIT)と、昨今のビジネスで重要度を増しているスピードと柔軟性、すなわちモード2(攻めのIT)を併せ持ったサービスの提供という観点から要件を定義。「迅速性」「効率性」「可搬性」「レジリエンス」の4つのキーワードをコンセプトに掲げ、共通基盤の構築に着手したと高野氏は語る。

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「第4世代の共通基盤構築にあたっては、ヴイエムウェアの総合ソフトウェアプラットフォーム「VMware Cloud Foundation (VCF)」が重要な役割を担いました。インフラを構成するサーバー、ストレージ、ネットワークすべてを仮想化でき、さらにインフラ構築やバージョンアップの簡素化を実現する機能を内包したVCFを導入することで、インフラの標準化による迅速性の向上、メンテナンスの自動化による効率性の向上、ハードウェアリソースをソフトウェアで提供することによる可搬性の向上を実現しています。レジリエンスに関しても、システム構成の一貫性を担保することで仮想マシンの可視化や自動復旧を実現。さらにVCFに包含されているVMware Aria Operations Managerを用いて、障害時の状況を把握できるようになるなど、さまざまなリスクへの対応力が向上しています」(高野氏)

  • 図版

第4世代のプライベートクラウド基盤では、前述した第三世代共通基盤が抱える3つの課題が解消されている。①共通基盤管理の負荷増大に関しては、利用者がポータルサイトで要件を入力することで、標準化された仮想マシンが自動構成される仕組みを実装。迅速に仮想マシンを提供できるようになり、個別カスタマイズによる弊害を払拭して管理者の負荷を軽減している。②メンテナンスの負荷増大に関しては、ハードウェアメンテナンス時の仮想マシンの移動やESXiのバージョンアップなどが無停止かつ自動で行えるようになり、ヒューマンエラーの最少化とメンテナンスに伴うシステム停止調整のコスト圧縮を実現している。③ハードウェア保守切れへの対応に関しては、受け入れるディスクタイプをVMDKに統一することで、サーバー・ストレージともに無停止で移行できる環境を構築。無停止でのハードウェア移行・拡張・交換が可能となり、コストの大幅な削減に成功したという。

プライベートクラウドのサービスをPaaS領域にまで拡大していく

こうして、攻めのITと守りのITを併せ持った第4世代プライベートクラウド基盤が2023年度より運用開始された。将来的には10,000以上の仮想マシンが稼働すると予測されている。高野氏は、グループ会社や開発部署に対して、システム構成変更・標準化のメリットを周知していくことが大切だと語る。

「第4世代共通基盤のメリットを享受するためには、各システムが物理構成を排除し、仮想化に適したシステムデザインに変更することが求められます。システム変更は開発者にデメリットと捉えられることもあるため、各グループ会社や開発者、開発部署に向けて、システム構成を変更・標準化することのメリットを説明し、理解を得ることが重要だと考えました。このため、開発部署と密にコミュニケーションを取るための仕組み作りや、説明会・勉強会を通じた変革マインドの醸成(安易なシステムの塩漬けや現行踏襲更改によるデメリットの周知)にも取り組んでいます。第四世代は全体最適を実現するインフラとして組み上げたと自負していますが、利用者に対してインフラの押しつけにならないように、「全体最適」と「利用者ファーストの観点」のバランスを意識して運用していきたいと考えています」(高野氏)

今後は、プライベートクラウドのサービスをPaaS領域まで拡充していく予定だという。OS・ミドルウェアレイヤーの設計がベンダー依存で標準化されていないという現行システムの課題を解決していきたいと今後の展望を口にする。

「昨今はIT技術者不足が深刻化しており、システムの規模によってはOS/ミドルウェア技術者を確保できないケースも出てきています。その解決策としてPaaS領域の共通基盤化を検討しています。ベンダーへの依存を防ぎ、個別設計を抑制できる共通基盤を構築して、開発要員の余力を捻出し、さらなる開発にマンパワーを集中できるようにしたいと考えています」(高野氏)

高野氏は、ポータルサイトの機能強化やアプリストアの提供も視野に入れ、社内のエンジニアがアプリの開発に専念できる環境を整えていきたいと力を込める。運用面においても、すでに利用しているVFCをはじめ、仮想マシンとコンテナを一元管理できるVMware TanzuなどVMwareソリューションの活用は不可欠であると語り、次の言葉でセッションを締めくくった。

「パプリッククラウドが提供している機能・サービスをプライベートクラウドで実現することで、PaaS階層の技術集約による内製化の促進や、オンプレミス・クラウドを意識させない人材の流動化といった未来を実現できると考えています。その実現に向けて、VMwareにはさらなるソリューションの提供と支援強化に期待しています」(高野氏)

  • (写真)高野雄太氏

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