地域学部・医学部・工学部・農学部 の4学部構成で山陰地方・鳥取県の“知”をリードする鳥取大学。同大学では教育理念である「知と実践の融合」の実現に向け、自ら学べる学生を育成していくため、さまざまな教育関連データの分析基盤と学修コンテンツのレコメンドシステムを構築しました。その目指すところやシステム内容、そしてここまでに見られた成果と今後の展望について、教育支援・国際交流推進機構 高等教育開発センターの三好雅之氏に伺いました。
教育理念の達成に向けて分析体制を強化する
ーー初めに、鳥取大学様の教育理念と目指すところを教えていただけますか。
三好氏:本学は基本理念「知と実践の融合」のもと、地域社会の課題解決や国際社会の理解を志向し、社会の中核となり得る教養豊かな人材の育成に取り組んでいます。この理念が各学部学科、研究科のディプロマ・ポリシー(DP:学位授与の方針)、すなわち卒業時、修了時に身につけておく学修目標にまでつながっています。
ーー所属する部門のミッションと役割、ご自身の業務内容を教えてください。
三好氏:高等教育開発センターは2021年度に設立された組織で、全学的な教育の質保証、教育方針の企画・立案、及び各学部・研究科等と連携して教育プログラムを提供していくことが役割です。具体的には、教育関連データの収集・分析とそれを基にした改善、学修成果の可視化、教員・スタッフの啓発活動等の業務を担っています。
その中で私の役割は、鳥取大学教育DX推進計画が目指すeポートフォリオや学修分析基盤、LMS等のシステム構築・運用、VR/AR/メタバースなど最新デジタル技術を活用した学修支援推進等の業務を推進する立場にあります。
ーー今回の「個別最適な学修方略をサポートするAI・解析システム」(以下、「学修AI解析システム」)と「LMSレコメンドシステム」構築にあたり、どのような背景・課題があったのでしょうか。
三好氏:以前は本センターが担当している業務を専門的に担う組織がなかったため、教育改革が遅れている面がありました。たとえば教育データの収集・分析は、まずデータ自体が各システムに分散しており、効率的なシステム連携がなかったことに加えて、担当する人員も限られていたため、業務負荷がきわめて高い状況だったのです。
そのため、学修成果としてのアウトカムを定めたうえで、データレイクでデータを一元化し、そのうえで学務支援システムやLMS、教育改善につなげる学生アンケートなどと連携しやすいシステムを構築することがテーマとなっていました。
eポートフォリオのデータを有効活用できる分析基盤
ーーそのシステムを実現するにあたり、どう進めていったのですか。
三好氏:eポートフォリオの構築からスタートしました。eポートフォリオの目的の一つは、学生自身で自らの学修の振り返りができ、成長につながること。「知と実践の融合」を細分化すると「フォーマル学習」(カリキュラムで学ぶ内容)、「インフォーマル学習」(部活動、サークル活動、社会活動などカリキュラム以外で学ぶ内容)、そして自ら学修目標を設定し、その方法を考え、かつ評価も行いながら学修を進めていくための「自己調整学習能力」の3つに分かれます。本学では、この3つの成果を可視化し、学生が振り返りを通して成長し、自己の強みをアピールできる仕組みがeポートフォリオだと考えています。
その構築はレゾナント・ソリューションズの協力を得て進めてきたのですが、eポートフォリオから出てくるデータの分析にあたり、既存システムと連携しやすいシステムを構築できるベンダーを探したところ、パナソニック インフォメーションシステムズ(以下、パナソニックIS)の名前を知りました。
ーーパナソニックISの情報を集めている段階で、どのような印象をお持ちになりましたか。
三好氏:パナソニックISが教育データの分析でどのような実績があるのか、情報セキュリティの観点ではどうなのかなどいろいろ調べました。結果、本学の要望に柔軟に対応してもらえるとの実感を得られ、取り組みを進めていくことにしました。
ほかにも数社について調べましたが、パナソニックISはレゾナント社が作ったシステムのこと、そして本学の要望もよく理解していただいており、発展的提案をしてくれるパートナーだと感じました。
AI解析と学修レコメンドシステムの導入で変わったこと
ーーまずは「学修AI解析システム」について、構築の一連の流れと概要を教えてください。
三好氏:フォーマル学習・インフォーマル学習・自己調整学習能力の3つの柱に関する必要なデータ分析基盤として、データレイクを中心に構成したシステムです。流れとしてはデータレイク構築や教育データの自由な分析を実現したいという本学の構想をパナソニックISに説明し、データレイクへの情報集積からスタートしました。システム自体はまだ構築の途中で、いまはデータ蓄積を自動化するなどカスタマイズを進めている状況です。
最終的には各システムとeポートフォリオに入ってくるデータを連携させ、分析に活かしていきます。たとえば授業実践の質、自分で進んで学修できる能力、DP得点の関係性や傾向、要因を見いだせれば、3つの柱の改善に役立つ施策の考案が可能になります。
ーーもう一方の「LMSレコメンドシステム」についてはいかがでしょう。
三好氏:こちらは、学生の様々な学修ニーズに応える課題に対応するため、学外の学修コンテンツも有効活用しようという動きがあり、どのコンテンツを選ぶかが最初のステップでした。そこで2021年度以降、MOOCをはじめとした多分野の学修コンテンツを取り扱う企業及びコンテンツを選定し、連携の取り組みを進めてきたのですが、その活用に際し、学生個々のeポートフォリオ内にある基本情報(学びたい内容や希望職種など)と関連性の高いコンテンツをレコメンドするシステムをLMS上で構築してもらいました。こちらは令和3年度から4年度にかけて全学で本格的に活用を開始しています。
ーー両システム構築でパナソニックISが貢献した部分をどう評価していますか。
三好氏:レコメンドに必要な学修ログの活用に関して的確なアドバイスをもらえたこと、またレコメンド内容について企業の観点を交えながらディスカッションできたことが、とても良かった点ですね。
ーー現時点でレコメンド機能に対する学生の評価はいかがですか。
三好氏:調査に回答した学生の90%が「あるべき」もしくは「あったほうがいい」と答えています。具体的な声としても「レコメンドされたコンテンツを受講するにつれて創作意欲が湧き、親族のためにソフトを作ってみたところ好評を得た。このレコメンドがなかったらやっていなかった」「自分では思いつかない経済界について学ぶ動画がレコメンドされ、社会のことが理解できた」といったコメントが上がっています。そのほか、レコメンド機能が学修意欲の向上に貢献しているとの結果も見られました。
ーー「学修AI解析システム」は、本格稼働はこれからとのことですが、現段階でも成果は出ていますか?
三好氏:DP能力別修得度の計算に必要な準備作業が自動化されて分析時間がゼロになり、業務負荷が大幅に下がっています。さらに定性的な面では、データが連携されることで広い視野から分析のアイデアが生まれるなど、新たな発想の創出にもつながっています。
各学部・学生のニーズに応えるためさらなる進化を目指す
ーー両システムの構築を受け、鳥取大学様としてはどのような展望を描いていますか。
三好氏:データ分析は大学として目指す教育改革に向け、データレイク構築と各システムの連携を進めようというのが出発点でしたが、大学側の構想に加えて各学部それぞれの分析ニーズも数多くあります。今回、全学共通のシステムを構築してきたことで、各学部の細かなニーズにも応えられる体制が出来上がりつつあります。今後はそうしたニーズを吸い上げ、分析の成果を出せるように、パナソニックISの力も借りながらシステムを育成していきます。
レコメンドに関しては、在学生のみではなく卒業生にも活用してもらうことで、たとえば銀行に就職した卒業生のログから銀行で活躍するにはどういったスキルが必要で、そのためにはどういうコンテンツで学ぶのがいいのかというデータを収集し、在学生に還元できます。こういった発展的なログ活用を実践し、将来的には他大学の学生ともログを共有することで、大学を超えた学びを促進できると期待しています。また、県や地域と連携しながら大学の学修コンテンツやレコメンド機能を県民の皆さんや社会で働く企業の方と共有するなど、誰もが学びたい時に学びやすい環境を整備し、鳥取デジタルキャンパスの様な学びの一大コンソーシアムを形成するといった地域貢献も進めていきたいと考えています。
ーーDX推進計画では最新技術活用も挙げていましたが、先進的取り組みとして「Virbela」によるバーチャルクラスルームを導入しているそうですね。
三好氏:はい。当初はコロナ禍で学生が大学に来られない状況でも学びを止めないことが目的でしたが、現在はバーチャル空間での授業やアバター同士のコミュニケーションをはじめ、さまざまな活用を始めています。たとえば医学部のあるサークルでは、学生が入院中の子どもたちへの学修支援や交流をメタバース空間で創造しています。こうした取り組みも教育改善の参考にするため、得られたデータの分析を進めているところです。
ーー最後に、今後のさらなるシステム活用を踏まえ、パナソニックISへの期待をお聞かせください。
三好氏:本学が目指す未来の実現に向け、何が必要で、どういう取り組みをしていけばいいのか、今後も企業ならではの視点からアイデアを出していただければありがたいですね。引き続きご協力をお願いします。
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