DXの波はマーケティングの領域にも及んでいる。デジタル技術を活用し、顧客との対話によって購買体験を高める「カンバセーショナル・コマース」もその潮流の一つだ。本稿では、モバイルソリューションを全世界で展開するCM.comのゼネラルマネージャー、Hodny Benazzi(ホドニー・ベナッジ)氏らに、海外の最新事情を伺った。
海外の顧客コミュニケーション最新トレンド
──まずは、デジタルマーケティングや顧客コミュニケーションにおける日本と海外との違いについて、感じていることを教えていただけますか。
ホドニー・ベナッジ氏:
デジタルマーケティングの中心がスマホになっているのは世界的なトレンドですが、その上で日本においては、"Eメール"をいまだに主流な顧客チャネルとしているケースが多いと感じています。
一方、欧米ではSMS(ショートメッセージサービス)の活用が20年以上に渡ってスタンダードとなっています。Eメールとの大きな違いは、プッシュ型であることですね。SMSは、より顧客の生活に入り込んだマーケティング活動が可能です。
日本と欧米の分岐点となったのはGSMとiモードでしょう。欧州では1991年に携帯電話の通信規格をGSM(Global System for Mobile Communications)に統一し、国際的な通話やテキストメッセージの送受信を可能としました。GSMはそれから段階的に高機能化されていき、日本や韓国などを除く世界のほとんどの国で使われるようになっています。
一方、日本では1999年にリリースされたiモードが携帯電話の使い方を方向付けたように感じます。インターネットに接続し、キャリアのEメールでコミュニケーションすることが日本では当たり前になりました。
とはいえ現在では、LINEやWhatsApp、Facebook Messenger、Telegramなど、メッセージングアプリの利用が日本でも海外でも一般的になっています。ただ、個人的には、日本企業のLINEを使った顧客コミュニケーションに戸惑うこともありました。
──日本でどのような体験をされたのでしょうか?
ホドニー・ベナッジ氏:
私は、よく行く日本の寿司屋の公式LINEアカウントを登録しています。クーポン券やキャンペーン情報が流れてくるのですが、そこに2つの機会損失を感じてしまいました。
1つ目は言語の問題です。情報が日本語でしか流れてこないので、我々のような日本のレストランによく行く者でも、排除されているように感じてしまいます。
2つ目はコミュニケーションの問題です。私はてっきりLINEで双方向のコミュニケーションができると思っていました。ですから、最寄りの店に好きな寿司ネタがあるかどうか尋ねたのです。しかし返事はありませんでした。せっかくのメッセージングアプリが、メールマガジンと同じような使われ方に留まっていたのです。結局別の店に行ってしまったので、その寿司屋としては集客機会を逃してしまったわけです。
──それでは、海外の顧客コミュニケーションのトレンドをお聞かせください。
ホドニー・ベナッジ氏:
企業やブランドが顧客により近づこうとしています。ユーザーは気軽にコンタクト可能で、自動あるいは人の手で返事が返ってきます。そしてその裏には、いくつものソフトウェアソリューションが動いています。
いつでも誰でもその企業やブランドに質問できたり情報にすぐアクセスできたりするということは、結果として顧客満足度の向上に繋がります。
そして企業やブランドの顧客へのアプローチ は、業種業態を問いません。大企業であっても中小企業であっても、物流や金融業であっても、自分たちの顧客はどういう人物なのかを知りたがっています。それは年齢や性別、住所といったデモグラフィック的な情報のみならず、どんな行動をしている人なのか、何が好き・嫌いな人なのか、という視野までを含みます。そしてそれを把握するだけでなく、そのデータをしっかりと蓄積していることが大きなトレンドです。
その点で我々CM.comは、データの蓄積に基づいたパーソナライゼーションによる、効果的なマーケティングキャンペーンを実施するお手伝いをしています。
もう一つのトレンドは、"24時間365日"であることです。営業時間内でなければ受け付けなかったりコールセンターでひどく待たされたりすることがよくありますが、そういったことをなるべく無くすために、AIチャットボットなど最先端のテクノロジーが活用されています。
日本では「会話型EC」などと訳されていますが、お店に行って、店員と会話をして、納得した上で購入するという「カンバセーショナル・コマース」が潮流になっています。CM.comとしてもこのソリューションを提供しており、多くの企業に導入いただいています。
カンバセーショナル・コマースが生み出す成果
──顧客コミュニケーションにフォーカスしているCM.comはいかにして創立し、世界に展開し、そして日本支社を立ち上げたのでしょうか。
ホドニー・ベナッジ氏:
CM.comは1999年にオランダで生まれた企業で、ユーロネクストで上場しています。独自のクラウドプラットフォームを用意し、企業向けサービスを提供してきました。我々のSaaSサービスは、モバイルマーケティングからAIチャットボット、クライアントサービス、チケット発行、決済、電子署名と多岐にわたります。
我々はグローバル企業ではありますが、それぞれの国に参入するにあたり、商習慣や文化に適応することを重視しています。
日本の場合、非常にビジネスマナーが厳密ですよね。私などは心配していつも部下に相談しているほどです。セキュリティやクオリティに対するこだわりも大きいと感じています。その一方で、仕事終わりに一緒にカラオケに行くと非常に親しくなるなど、日本人ならではの交流の仕方があると思っています。単なるビジネスだけでなく、日本でのあらゆる体験を本社に持ち帰って、日本のアンバサダーとして振る舞うのが私の役目でもあるのです。
日本支社を開設した理由は、「日本企業の世界進出をお手伝いしたい」という思いからです。高い実力を持った日本のブランドは数多くありますから、世界のトレンドを理解している我々が、海外発信のために貢献できることは数多くあると考えています。
──それではCM.comの代表的なソリューションである"Mobile Service Cloud(以下、MSC)"の特徴と、その成果を教えて下さい。
ユープ・ブーセンバーグ氏:
たとえばユーザーがWhatsAppで「こんにちは。新商品の情報を教えて下さい」と、公式アカウントにメッセージを送ったとしましょう。そうすると、かんたんなやり取りであればAIチャットボットで、そうでない場合は受付可能な担当者に自動的に割り振られて、MSCのダッシュボードから質問に答えていくことができます。
受け付けるのはWhatsAppに限りません。WebサイトやInstagram、Facebookからのメッセージであっても、すべてMSCで受け付けることができます。ポイントは、包括的であるということです。過去にどんな商品を購入しているのか、Webサイトのどのページを見たのか、といった情報まで事前に把握できるので、そのユーザーの趣味嗜好に合った「対話」が可能になります。
具体的な成果を公開することはできませんが、確実に言えるのは、多くの企業がこうしたカンバセーショナル・コマースの導入によって、コンバージョン率を10倍に跳ね上げている、ということです。
──2022年にリリースされた新たなソリューション、"Mobile Marketing Cloud(以下、MMC)"についても教えて下さい。
中藤丹菜氏:
「対話」のためのMSCと異なり、こちらはマーケティングに特化したサービスで、「SMSとEメールのマーケティングキャンペーン効果を最大化する」ことを目的としています。
昨今、たとえば猫好きの人には猫のグッズ、犬好きの人には犬のグッズを紹介するなど、ターゲットに適した情報を配信する「パーソナライズされたSMSやEメール」が、高い効果が期待できるマーケティング手法として主流になりつつあります。
しかし一方で、ターゲットのセグメントや情報の掲載先であるランディングページ(以下、LP)作成などは複雑かつコストがかかるという点が難点でした。
MMCは簡単かつ低コストでカスタマーデータプラットフォームに顧客情報を蓄積し配信属性を絞ったり、ターゲットごとにLPを作成しEメールやSMSで配信することができるパッケージサービスです。
日本の企業はEメールアドレスと携帯電話番号を保有しているものの、そもそもSMSを利用してのキャンペーン配信の認知は低いため、まずはSMSのキャンペーン利用から始めてもいいかもしれません。
顧客データ管理やLP作成と聞くと複雑そうに感じますが、イメージとしては、パワーポイントでパーツを組み合わせるような感覚で、スマホ用のLPを製作することができます。
Eメール配信の効果が薄くなってきている今、SMSを活用したり、顧客データを活用し顧客に寄り添ったEメールとSMS配信を行うことで、業界業種・企業規模を問わずにマーケティング効果を高めて頂けています。
長期的な視座で、日本の顧客とともに成長を
──最後に、CM.comが考える今後のビジョンや、これから世に出すプロダクトについて、公表できる範囲で教えて下さい。
ホドニー・ベナッジ氏:
お伝えできるニュースとしては、本人確認とメッセージの技術を組み合わせたプロダクトを近々リリースする予定です。これは、IDをスキャンして事前登録した内容と照合できるもので、チケットの発行・管理・転売防止などに幅広くご活用いただけるソリューションです。日本においても、開催されるイベントは今後増えていくことでしょう。やっと国境が開き、私も久しぶりに日本に来ることができました。
我々は日本市場において、焦って最速で拡大するようなことは考えていません。それよりも、10年20年かけて長期的に成長すること、日本のお客様から学びながらともに発展することを、大切にしていきたいと思います。
関連リンク
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