スーパーマーケット業界では、デジタル販促へのシフト、EC強化、セルフレジやキャッシュレス決済の導入など、さまざまな形でデジタル・トランスフォーメーション(DX)に取り組む企業が増えてきている。しかし、その対応を上回るスピードで、社会や消費動向は大きく変化しつつある。今後、スーパーマーケット各社はどのようなDX施策を進めていくべきだろうか?
6月17日に開催されたリテールガイド×マイナビニュース共催セミナー「リテールDX2021 小売流通のDX経営最前線」にて、セールスフォース・ドットコム インダストリートランスフォーメーション事業本部 シニアマネージャー/リテール・ストラテジスト 小川哲氏は、スーパーマーケットを取り巻く環境や海外の動向を紹介しつつ、顧客/店舗/取引先の軸から解説した。
スーパーマーケット業界の現状と課題
小川氏によると、近年ファミリー層のスーパーマーケット離れが進み、特に若い家族層においては、ドラッグストアやコンビニも含め、目的の商品に合わせて店舗を使い分ける傾向が強くなっているという。
さらに、ネットスーパーへの消費者ニーズも変化してきている。以前はネットで購入した商品が自宅に届くという便利さが消費者にとっての何よりの魅力であったが、コロナ禍によってネットスーパーの利用が当たり前になったことで、欠品減少やリードタイムの短縮といったニーズの高度化が進んだ。
スーパーマーケットの特徴は、他の業態に比べて実際の商品や販促物など店舗内のさまざまな刺激で購入を決定する「非計画購買」の割合の高さだ。この場合、必要性を思い出して購入する「想起購買」、主な目的の商品と関連する商品を購入する「関連購買」、割引やクーポンなどの条件によって購入する「条件購買」の促進が重要となり、それぞれに対しては順に、購買履歴に基づく販促、滞留位置やカート情報に基づく販促、特売購入・クーポン利用の有無に基づく販促が求められる。近年では、こうした販促手段を1人1人に合わせた形でパーソナライズしてほしいという顧客のニーズも高まっている。
こうした背景のもとスーパーマーケット各社は、対象によって下記のような課題を抱えているといえる。
【対顧客】
- 顧客がパーソナライズを求めている一方で、来店前/来店中/ECで1to1の商品提案ができていない- ネットスーパーの利便性が低い
【対店舗】
- 既存店を強化したいが、店舗運営が属人的・非効率なため顧客の店舗内・店舗外の行動を分析できていない【対取引先】
- 顧客データをマネタイズに活用しきれていないこのような課題があるなかで、スーパーマーケットは今後どのような将来像を目指していくべきだろうか。以下では、それぞれに対する解決事例を見ながら考えていきたい。
あらゆる顧客接点で1to1の商品提案を
対顧客の課題について小川氏は、「購買・閲覧・お気に入り・問い合わせ履歴などといったさまざまな顧客情報から『顧客カルテ』を作成することで、あらゆる顧客接点で1to1の商品提案を行うというパーソナライズを実現すること」が解決策であるとしたうえで、購買意欲が高まっている来店前/入店時/棚前の顧客へのタイムリーな商品・メニューを提案する方法として、欧州・アルバートハインの決済レスシステム「Tap to Go」の事例を紹介した。
Tap to Goは、事前にスマートフォンアプリから会員情報と決済手段を登録しておき、店舗で買いたい商品を手に取るたびに専用のカードを電子棚の札にかざすだけで、そのまま店外に出られるという仕組み。ここから得られた情報を活用して、近くの店舗の位置やキャンペーン情報など、利用者に適したFB広告が通知される。
「無闇矢鱈に全員に対して同じ広告を出しているわけではない。位置情報や、過去の利用タイミング、趣味嗜好などに合わせて顧客にパーソナライズした形で配信している」(小川氏)
この施策によりアルバートハインでは、メールマーケティングによる+30%の収益増、+10%のクリック率を実現したという。
ECでの購買体験・従業員体験を向上する
対顧客の施策としては、ECにおける購買体験の向上も必須となる。注文時から配送状況の通知、配送時間の可視化まで、多くの企業は主にメールをコミュニケーションツールとして使っているが、小川氏によると、顧客はSMSやスマートフォンアプリのプッシュ通知の利用を求めているという。また、問い合わせをチャットでできるようにしておくことなども顧客体験を向上させる。
またECにおいては、店舗での商品ピッキングの場面に顧客体験・従業員体験に関する課題があるという。
「ECサイトから注文を受けて、該当の商品を見つけてピッキングする作業をアナログの仕組みだけで行うのは難しい。さらに、ピッキングが完了するまでに他の顧客が店舗で購入してしまうことで、注文後の商品が欠品になってしまう恐れもある。顧客の利便性も考えると、ECサイト側で安全在庫を積み増して表示する必要がある」(小川氏)
そして小川氏は、リアルタイムの店舗在庫データをタイムリーにECサイト上に連携し、安全在庫を積み増して表示することで欠品の低減に成功している米国のホーム・デポ、ピッキングの作業担当割当をスマートフォンを活用して自動化した米国のインスタカートなどの事例を紹介した。
また、フランスに本社を置く食品メーカー・ダノンでは、自社ECサイトの分析によって、配送サービスで良い購買体験を提供するなど注文後のカスタマージャーニーがECサイトのコンバージョンレート(CVR)に影響していることが明らかになってきたという。このことからも、ピッキングから顧客の手元に商品を届けるまでの一連のフローをストレスなくスムーズに行うことの重要性がわかる。
取引先からの収入モデルを拡大する
顧客データをマネタイズに活用しきれていないという対取引先の課題に対しては、データを活用することで、ECサイトやデジタルマーケティング上で特定のナショナルブランドを優先表示して広告費を受領するというマネタイズの手段も考えられる。
こうした課題解決策について「従来は、広告費を貰っている商品を店頭で優先的にディスプレイしていたが、これをECサイトの画面やデジタルマーケティングツールなどのオンライン上で行うという考え方」と小川氏は説明する。実際に欧州のアルバート・ハインでは、自社ECサイトのページ上部に広告主の商品を優先的に表示する仕組みを導入してマネタイズを実現しているという。
また、顧客データそのものを利用したマネタイズ方法も考えられる。国内ホームセンターのグッデイは、63店舗のPOSデータを分析し取引先に販売している。小川氏は「たとえば、チラシの内容とその週の売上データの関連性など、売上データだけでなく、在庫・発注・仕入れから、Web上での検索ワード、チラシの内容まで、さまざまなデータをかけ合わせてレポートを作成して販売している」と紹介する。
スーパーマーケットの将来像実現に向けて
今回ご紹介したようなスーパーマーケットの将来像の実現に向け、セールスフォースでは数々のソリューションを提供している。小川氏は、講演の最後に「スーパーマーケット各社のDXをサポートしていきたい」と聴講者に対してメッセージを語った。
現在同社では、欧州のスーパーマーケット業界の現状についてまとめたレポートを無料公開中だ。ぜひ、こちらもあわせてご覧いただきたい。
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