IoTは当初、製造現場への適用に関心が集まっていたが、現在では日常のオフィス業務の中にも取り入れられるケースが増えている。その1つが会議室の可視化ソリューションだ。富士ソフトが中心となり、日本マイクロソフト、パトライトの3社が、それぞれの強みを持ち寄って実用化を進めているものだ。その取り組みについて、富士ソフト エリア事業本部 インテグレーション&ソリューション部 MSソリューション&クラウドグループ Azure Solutions Architect Expert 主任の佐野 友則 氏、パトライトグローバルマーケティング本部 グローバルマーケティング部 PMM1課の笹川 景 氏、日本マイクロソフト IoT& MR営業本部 Azure Sphereソリューションスペシャリストの市村 哲弥 氏に聞いた。

3 社の連携でオフィスにもIoT の価値を提供

――会議室ソリューションを開発することになった背景を教えてください。

佐野:富士ソフトでは、これまでIoTソリューションを多く手掛けてきた中で「IoT の価値が製造現場以外にもたらされていない」といった課題を認識するようになりました。そこで、IoTと幅広い業務を連携させ、IoT システムとして決め手になる次の一手を提供すべく取り組みを進めています。

その中で開発を進めているうちの一つが「会議室ソリューション」です。これについてまず起点となるのは会議室予約で、PC であるSurface の内蔵カメラで撮影した顔画像で予約者を自動的に特定し、「Microsoft 365」の「Exchange Online」に登録します。

会議室では、人感センサーで利用状況を取得。これらをクラウドサービスである「Microsoft Azure(以下、Azure)」を通して「見える化」するのですが、Outlook だけでなく、会議室に設置したシグナルタワーから光と音声で知ることができます。

笹川:シグナルタワーは、クラウド上で動くアプリケーションの状態を光と音声で可視化できる「NH-FV シリーズ」を採用しました。よく設置されるのはサーバールームですが、災害情報システムや防犯システム、コールセンターにおける待ち呼の状態表示など、業界・業種を問わずさまざまなところで導入されている製品です。

――パトライト様のオフィスにも導入予定だと聞きました。

笹川:そうですね。私は主に新商品企画を担っているのですが、社内業務改善に関して他部署から相談を受けることもあります。パトライトでは、会議室の予約状況では満室であっても実際には使用されていないことがあり、解決の手立てを求めていたところでした。

佐野:パトライト様自身がオフィスに課題を感じていることが判明したため、ユーザーの立場でもご協力いただき、より実用的なソリューションへと磨き上げることができています。

会議室予約の手間を削減し業務を効率化

――会議室ソリューションの詳しいシステム構成について教えてください。

佐野:本システムは、大きく分けて4つの機能から構成されます。

  • 会議ソリューションのシステム構成図
  • Surface で顔写真を撮影し、Azureへ送信
  • 送られてきた顔写真を識別し、Exchange Online へ予約を自動登録
  • 会議室の人感センサーの情報をAzure へ送信
  • Azure に送信された③のデータとExchange Online の予約状況から現在の情報を可視化

富士ソフトは、Microsoft の幅広いサービスを駆使してIoT データを有効活用するソリューション群である「IoT プラットフォーム on Office 365」を持っており、今回のソリュー ションでも、Azure を基盤として連携を実現しています。

市村:「Azure IoT Hub」などのPaaSサービス群、Microsoft 365 のExchange Online や「Power BI」などのほかに、IoT デバイスとクラウドをエンドツーエンドでセキュアに接続する「Azure Sphere」も用いられています。これはIoT デバイスのセキュリティを保護する万全の仕組みを提供するもので、セキュリティプログラムの随時更新、IoT 機器のファームウェアアップデートといった本来お客様自身での対応が必要になるデバイスセキュリティ対策をマイクロソフトが代わりに提供することができます。

――このソリューションによって実現する新たな会議室にパトライト様はどのような効果を期待されているのでしょうか。

笹川:予約者の調整業務削減に期待しています。少人数で急に打合せをしたいとき、予約済で満室でも実際に使用されていなければすぐに利用したいですよね。この会議室ソリューションがあれば、使われていない会議室を即座に予約し直せるようになります。

さらに、不必要な予約だけの会議が可視化されるので、分析し共有することで、必要な会議を必要な時間だけ予約する意識を一人ひとりに根づかせたいと考えています。最終的には、会議室の最適人数・室数の設計にも役立てるつもりです。

With コロナ時代に対応した会議室を視野に

――パトライト様においては、今後さらなる機能追加やIoT の導入を構想しているそうですね。

佐野:顔認証での会議室予約は、Azure の「Face API」を利用して実現しようとしています。個人情報に該当する顔写真を取り扱うことになりますが、パトライト様はAzure Sphereによる強固なセキュリティをご理解くださっており、社内での説明もスムーズに進む見込みだと聞いています。既存の会議室予約システムは社内イントラネット上にあるのですが、クラウドと接続させる上でセキュリティを担保する仕組みは必須要件でした。

笹川:パトライトでは予約の効率化だけではない会議室のIoT 化に取り組む構想を描いています。新型コロナウイルスによって今後のオフィスは、いわゆる「3密」を避けた運用が不可欠となります。そこで、会議室の人感センサーに加え、会議室を俯瞰できるカメラから会議室内の人数や距離を識別し、一定の人数以上が集まっていることを検知するとシグナルタワーから音声で注意喚起するシステムを検討しています。

また、会議を効率化する仕組みづくりも目指しています。会議室にマイクを設置し、音声をリアルタイムでAzure に送信して「Speech to Text」でテキスト化することで、議事メモを会議予定に添付することを検討しています。

――今後の展開についてお聞かせください。

佐野:皆様に広くご利用いただけるようパッケージ化を予定しております。展開時における変更箇所を最小限にすることや、展開のスピードを早めることができるなど、将来を見据えてマイクロサービス化を念頭においた開発を進めてきました。

市村:今回の取り組みを通して、高いセキュリティと利便性を合わせ持つソリューションを短期間で構築できることを実証できました。今後はAzure Cognitive Services の多彩なAPI やサービスとの連携、Azure Sphere とAzure RTOS を組み合わせたエッジデバイスによるリアルタイム処理の実装など様々な付加機能を追加していくことで、会議室にとどまらず、お客様の要件に応じた幅広い用途へ展開していきたいと考えています。

Azure Sphereとは?

Azure Sphereとは、デバイスの中心となるハードウェアチップ「Azure Sphere MCU」にそこで動作するLinux ベースのセキュアOS「Azure Sphere OS」、クラウドベースのセキュリティサービス「Azure Sphere Security Service」、の3つが連携し、IoTデバイスのセキュリティを一気通貫して実現するためのソリューションです。日本におけるAzure Sphereの窓口としては、半導体・電子部品・情報機器・組込み向けハードウェア&ソフトウェアの各製品を取り扱う技術商社のアヴネットが代理店を務めています。

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