(当記事は『日経ビジネスオンライン』(日経BP社)の「2018年注目のセールス&マーケティング」掲載記事からの転載です)

データに基づいた的確かつスピーディな意思決定を、営業や販売戦略で実行していくため、SFAやMA(マーケティングオートメーション)などを導入済みの企業も多いだろう。ここに「未開拓の重点アプローチ企業群」、いわばホワイトスペースの領域を加えてABM(アカウント・ベースド・マーケティング)ができれば、さらなる効果が期待できるはずだ。

BtoB企業が、データの利活用によって営業・マーケティング効果を最大限に引き出すための手法を、株式会社ランドスケイプ 経営戦略チーム 執行役員の吉川 大基 氏と、ヤフー株式会社 マーケティングソリューションズカンパニー リサーチアナリシス部 部長の天野 武 氏に聞いた。ヤフーにおける事例とともに紹介しよう。

データは精度・鮮度・粒度が命

データをビジネスに利活用することは今に始まったことではなく、営業やマーケティングの管理手法としてのSFAやMAの活用も、もはや一般的なものだ。昨今では、データ利活用のあり方がよりダイナミックになることで、「品質を維持したデータ統合管理」は以前にも増して重要な活動になっている。しかし、データ利活用するための横断的なデータ統合管理の構築に取り組んだとたんに、事業部間のビジネス管理の方法の違いや歴史的な経緯によるデータ品質問題など、様々なデータの問題が顕在化する。

SFAやMAのツールに入力されている顧客情報が、異なる部署では共有されておらず情報が社内に散在していたり、共有されていたとしても欲しいデータを得るのが困難な場合も多い。これは、例えば社名の正式名称と略称がデータに混在しているような「精度」の課題や、入力後に社名変更や組織変更、住所移転などがあっても情報が更新されないというような「鮮度」の課題、経営企画部門では取引データを企業単位で把握したいのに、事業部門では事業所単位で取引データを管理しているなどの「粒度」の課題などが要因となっている。

このデータの課題の解決法として有効なのが「ランドスケイプが提供する日本最大の法人マスターデータ『LBC』(Linkage Business Code)を活用したCDI(顧客データ一元化:Customer Data Integration)」だと、ランドスケイプの吉川氏は話す。

  • 図:法人マスターデータ『LBC』(Linkage Business Code)

『LBC』は、全国の事業拠点を網羅し、CDIを目的として構築された法人マスターデータで、その網羅率は国内拠点の99.7%におよぶ (約820万拠点)。企業データといえば、法人番号のような公のものから民間の信用調査会社などが提供するものまで様々だが、同社が構築したデータはそれらのカバー範囲を超え、事業所や学校、病院、公共施設、個人商店などのデータも含む網羅性に特徴がある。

ランドスケイプでは、この網羅性のある『LBC』を辞書(リファレンス)として、クライアントが持つデータと照らし合わせることでデータクレンジングし、事業所単位のコードを付与することでCDIの支援を行なっている。同社が保有する過去情報や企業名ナレッジなど約20種類にもおよぶマスターデータも活用しているため、一般的なデータクレンジングのプログラム・ロジックでは処理できないパターンも含めて補正できることが強みの一つである。

データ利活用をする上で、目的にあった品質の高いデータが必要だ。 『LBC』を活用したCDIソリューションは、データ品質の向上をする上で最適なサービス、ソリューションといえるだろう。

「重点アプローチ企業群」=「ホワイトスペース」をあぶり出す

『LBC』は様々なソースから情報を収集、日々更新しているため、精度の高いデータを利用できるだけでなく、企業のグループ関係なども把握できる。これにより、顧客データと照らし合わせることで、企業グループ内での既存顧客・未取引企業や、支店・営業所も一目瞭然となる。もし未取引企業の親会社と取引があれば、親会社を経由して未取引企業への営業活動が可能になり、複数の支店や営業所の一部しか取引がなければ、他の拠点へのアプローチをする、といった戦略が可能になる。

ランドスケイプでは、クラウド型のデータ統合ソリューション『uSonar』も展開しており、ホワイトスペースをWeb上で可視化できるようにしている。『uSonar』は、データの集計・加工・分析等の処理を行なうための視覚効果の高いツールではなく、データ利活用を効果的に推進するためのデータ品質の劣化を防ぎ、利活用の要求レベルに迅速に追随できるデータ管理基盤として機能する。

  • 図:顧客データ統合ツール「uSonar」概念図

この『uSonar』を導入する企業の多くは、意外に見落とされがちだったホワイトスペースへのアプローチが可能になった。多くの企業では、SFAやMAで名刺情報を獲得した顧客への営業・マーケティング施策にとどまってしまい、まだ接点のない潜在見込み客へはアプローチできない場合が多い中、大きな強みとなる。

既存顧客や、取引はないものの担当者情報を得ているリード情報をしっかりと育成するのもマーケティングでは重要であるが、『uSonar』のように既存顧客の傾向把握からホワイトスペースを予測し析出できれば、さらに大きなビジネス展開が効率的に可能になるだろう。

精度の高いデータの一元化によって、「未開拓の重点アプローチ企業群」=「ホワイトスペース」もあぶり出し、ターゲット企業をアカウントとしてとらえるABMを実現することで、SFAやMAの効果を最大限に引き出せるようになるというわけだ。

データ利活用を一過性のものとするのではなく、継続的に価値を享受し続けるためには、データ品質の劣化を防ぎ、利活用の要求レベルに迅速に追随する『uSonar』のような市場を俯瞰できるデータ管理基盤が必要だといえるだろう。

【導入事例:ヤフー株式会社】市場を俯瞰した営業戦略が可能に

「LBCとuSonarを導入したのは、組織の統合再編にともない、広告商品ごとに分かれていた顧客DBを統合する必要が生じたからです」こう語るのは、『LBC』と『uSonar』のユーザーであるヤフーの天野氏だ。

ヤフーでは、トップページに表示されるブランドパネルと呼ばれるディスプレイ広告をはじめ、検索結果ページに表示される検索連動型広告など、様々な広告商品が存在する。商品ごとに広告配信システムが異なるため、同一の広告主が別のID体系で管理されていたり、広告代理店やメディアレップを経由する複雑な商流のため、広告主の統合管理が容易ではなかった。

「DBが名寄せ・統合されていなくてもサービスそのものには問題はありません。例えば、通信販売で一人の人が複数のIDを作ったとしても、支払いをすれば商品は届きます。つまり、物とお金の流れには影響はありません。でも、マーケティングの観点からは1人が10個買ったのか10人が1個ずつ買ったのかが分かる必要があります」(天野氏)との判断から、顧客マスターDBを構築することになり、複数の会社を比較検討した結果、マッチング率や名寄せの精度が高かったことと、費用面でも優位であったことで『LBC』を選定した。

ヤフーでユニークなのは、外部から購入した広告統計のデータと『LBC』の組み合わせだ。広告統計データと自社顧客データとの紐づけに『LBC』を用いている。これにより、ある企業が年間に広告費がどれだけであり、そのうちインターネット広告にどれだけ出稿しており、ヤフーはそのうちの何%シェアを取れているのかを可視化している。

ヤフーでは中小企業や地方の企業へのプロモーションにおいても『LBC』を利用している。具体的には、『LBC』の企業属性を利用して、訴求内容の異なる5つのグループに分け、それぞれのグループ内でデータマイニングによって算出された獲得確率の高い企業から優先的にアプローチを行った。

また、その効果を計測するために、それぞれのグループ内でランダムにサンプリングされたグループを設定している。その結果、アプローチした企業の顧客化率はランダムなグループと比較して7倍であった。

『LBC』や『uSonar』を活用することで、データ利活用をするためのデータ管理基盤を構築できた。加えて優先的にアプローチすべき市場を俯瞰した営業戦略の立案が可能になったことは、次の営業やマーケティング施策を打つ上で、とても価値のある情報になっている」と天野氏は話す。

  • ヤフー株式会社 マーケティングソリューションズカンパニー
    リサーチアナリシス部 部長 天野武氏

アドテク×ホワイトスペースで、リードを量産できるABMを実現

吉川氏は「次なる戦略として強化している領域は、BtoBだけでなく、BtoE(Business to Employee)の領域」と話す。

最近では、個人のPCやスマートフォンを所属する企業のネットワークに接続して使用している人が増えている。そのアクセス情報をもとに、所属している企業を推測し、ターゲティング広告に活用できるのだ。

例えば、大手メーカーに所属する個人のユーザー端末(既存顧客を除く)のみに広告などをターゲティングすることも可能になる。つまり、ターゲティングの精度をより高めることができる。ヤフーによるデータ分析においても、企業で働く人の業種の異なりによってWEB上での行動履歴や行動時間が異なってくることが分かってきた。

DMPやSNSなどのアドテクを活用して、ホワイトスペースの中でターゲットとすべき人だけに広告を打つことのできるサービスを、ポータルサイトやSNSなどの大手プラットフォーマーやメディアレップと連携して開発している」と吉川氏。「本来なら営業担当者に送客したいのは、未開拓の重点アプローチ企業群、いわゆるホワイトスペースから析出した担当者のリード情報。そのリード情報をどのような顧客体験を通して営業担当者に送客するかが重要」という点を強調する。

既存のMAやSFAの効果をさらに高めるために、またリードを量産するためのABMを実践するためにも、ランドスケイプの『LBC』や『uSonar』を活用したデータ管理基盤の構築と、DMPやSNSなどのアドテクと連携したホワイトスペース攻略方法を検討する価値はあるのではないだろうか。

  • 株式会社ランドスケイプ 経営戦略チーム
    執行役員 吉川 大基 氏

  • ヤフー株式会社 マーケティングソリューションズカンパニー
    データ事業推進本部 リサーチアナリシス部
    部長 天野 武 氏

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アドテクノロジーでリードを量産するABM

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