ビッグデータの活用が叫ばれて久しいが、現在、企業が取るべきとされているアプローチは果たして正しいのだろうか……。そんな多くのビジネスパーソンが抱えているであろう疑問に応えるべく、日本アイ・ビー・エム ソフトウェア事業 インフォーメション・マネジメント事業部 ビッグデータ/DWHソリューションズ 上級ITスペシャリストの野嵜功氏に、“もう一歩先”のビッグデータについて話を聞いた。

日本アイ・ビー・エムの野嵜功氏が講演を行う「なぜ、これからは『リアルタイム・ビッグデータ』なのか?~ビッグデータは新たなフェースへ」の申し込みはこちら(参加費無料、9月27日金曜日開催、東京・竹橋)

今すぐデータを生かせなければビッグデータがもったいない!?

日本アイ・ビー・エム ソフトウェア事業 インフォーメション・マネジメント事業部 ビッグデータ/DWHソリューションズ 上級ITスペシャリスト 野嵜功氏

「もちろん、データを一度蓄積してから分析することは、ビッグデータ活用の第一歩です。しかし、それだけで本当にビジネスの現場で“使える”のかと言えば果たして十分でしょうか。例えば、蓄積した大量の取引履歴を分析することで『おもちゃ屋に月曜午前に30代の女性が来店した場合、60% の確率で教育玩具を購入した』という複合条件が判明したとします。従来は、このような知見はマーケティング部門が利用するのみでしたが、本来これは実店舗でも利用できるノウハウです。これを全国の店員を集めてノウハウとして教え込むのは、大変な労力が伴います。変化の早い最近の消費者や現場の嗜好を、その都度広めることは困難ですし、忙しい店員の方々の時間を割いて日ごろからそういった複合条件に注意を向けていただくのは、非現実的でもあります。そこで発想を変えて、そうした知見をコンピュータに移植し、店舗の入口で最近の自動販売機のように顔から性別と年齢をリアルタイムに推定させ、月曜午前に30代の女性が来店したときに、即座に “教育玩具をお奨めしましょう” といったアドバイスを店員に送ることで、ビッグデータから得た知見を、ビジネスにもっと生かすことができるのではないでしょうか」。


こうした新しいビッグデータへのアプローチを応用すれば、ビジネスだけでなく、人々の生活や社会にも大きな変革をもたらすことができる。2つほど例を挙げると、まず、あるスマートフォン・アプリをインストールした人の所在と滞在時間を把握し、その人が好みそうな商品を置く店が近くにあった場合、今その店でお得な買い物ができるクーポンをタイムリーに送って、クレジットカードの利用につなげる、といった使い方が米国で最近注目されている。もうひとつは、金融機関の窓口において、その場で全取引を検査すること。犯罪につながる可能性のある取引を見つけ出す検査の徹底は、昨今国内外の金融規制当局から強い要請があるが、これをリアルタイム化することでさらに被害を防ぐ期待を高められる。

「リアルタイムに活用できなければ意味のない情報、というものが世の中にはたくさんあります。例えば、前述のクーポンも、消費者が用事を終えて電車に乗ってしまってから届いても意味がありませんし、金融機関の窓口では、目の前に犯罪者がいる時に疑わしい取引をすかさず識別できた方がいいに決まっています。今すぐに手に入れてこそ意味がある情報を、コンピュータがビッグデータから抽出してタイムリーに教えてくれる……といった、企業や消費者に新しい価値をもたらす使い方は、ほかにもいろいろとあります。もちろん、スマホのアプリは利用情報を事前に明確にするなど個人のプライバシーには最大限の配慮を払った上で、ビッグデータを活用できる局面はまだまだあるのだということを、ぜひとも多くの人たちに知ってもらいたいです」。

海外では活用が始まっている「リアルタイム・ビッグデータ」

野嵜氏が提唱するような「リアルタイム・ビッグデータ」は、海外ではすでに多くの成功事例を生み出している。例えば、日本では最近自然エネルギーの活用が高い関心を集めているが、この分野でもリアルタイム・ビッグデータが活用されている。アメリカ北西部では数年前から複数の州が合同で大規模なスマート・グリッド実験を行っているが、ここでの例を見てみよう。

「アメリカでは日本と同じように従来からある大きな電力会社が巨大な発電所で大量の電力を発電し、多くの人々が消費しています。ところが近頃、政府主導で各地に存在する数多くの小さな発電者(=太陽電池パネルや風車を所有する企業や一般家庭など)で発電し、各地の各世帯・各企業で電力を使う『スマート・グリッド』という方向へとシフトしようとしています。そうなると、どこで発電した電力をどこで使うのがベストなのか、リアルタイムで判断してマッチングする必要が生じます。そこで使われたのが、IBMのストリーム・コンピューティングの技術です。具体的にどのような使い方がされたかというと、まずその日の天候を予測して、それに基いて電力需要の変化を予測するとともに、日光の照射量や風量などからどこでどれだけの電力が得られるのかも予測。需要と供給予測の検証から1日の送電計画をあらかじめ立てておき、リアルタイムに予測を微調整しながら最適なルートでの送電を実現することが求められたのです」。

それにとどまらず、自然エネルギーによる発電では必ず考慮が必要になる、電力需要の抑制の仕組みも実験されている。つまり、10万Kwの需要に対して、8万Kwの電力しか得られなかった際に、どう配分を決定するかということだ。具体的に試みられたのは、発電者側と消費者側で、欲しい電力量と価格を提示してリアルタイムに取り引きをし、成立したら、約束したタイミングで送電する、といった“リアルタイム電力市場”の仕組みまですでに実験されているのだ。

このスマートグリッド実験以外にも存在する数々の「リアルタイム・ビッグデータ」の取り組み事例については、9/27日に開催されるセミナー、「ビッグデータは新たなフェーズへ ~なぜ、これからは『リアルタイム・ビッグデータ』なのか?」での野嵜氏の講演において語られる予定だ。そこでは事例にとどまらず、今後のリアルタイム・ビッグデータ活用の可能性、さらに具体的な取り組み手法や考え方についても言及されるという。ビッグデータへの取り組みを考えている事業者、すでにビッグデータを活用している事業者の方々はもちろん、電気・ガス・水道などのインフラ事業者の方々にもご参加いただき、もう一歩先のビッグデータのあり方について知見を得るチャンスをぜひ逃さないようにしていただきたい。