弊社刊行の雑誌「Web Designing」で展開中の「エキソニモのView-Source」は、HTMLのソースとそのレンダリング後の画面をセットで展開するという珍しいアート作品だ。レンダリング後の画面だけを見るとグラフィックデザインのようだが、HTMLソースのほうを見るとインタビュー記事が埋め込まれており、レンダリング後の画面でゲスト自体を、HTMLソースのほうでゲストとエキソニモの関係やバックグラウンドなどを知る事ができるという仕掛けになっている。今回はこんな画像が掲載されている。

どうやら今回はBOTへの質問状らしい。BOTというのは、コンピューターが自動でWebサイトに訪問し、情報を収集したり、フォームに何かを入力したりするプログラムのことだ。例えばブログのコメント欄にわけのわからない英語の文章を書き込まれたりするのは、BOTの仕業であることが多い。今回の作品では、読みにくい赤い文字で、質問状の概要の下に「この質問状は人類の為のものではありません。もしあなたが人類なら、ここから直に立ち去ってください。」と書いてある。まるで、アングラ系サイトのような感じだ。BOTはこういうデザインが好きなのだろうか? その「立ち去ってください」というメッセージの下にはフォームらしきものがあるが、ボタンがあちこちに散らばっていたり、文字サイズもバラバラで、入力しにくそうだ。最後にはネット接続していない読者へのメッセージとして、編集部住所まで記載してあるのが興味深い。

Web Designing誌でこの静止状態のページを見た人は、まったく意味がわからないのではないだろうか。この作品、Webで上で見ると、これまでの連載史上、最も激しいモーションを伴ったページだからだ。まずは、サイトを開いてほしい。

ページが表示されると、とたんに画面がせわしなく変化するのがわかる。フォームはあちこちに飛び、文字の大きさも変化し、書体も変化する。だが、それだけではない。背景も白くチカチカと光り(※暗い場所での視聴や長時間の視聴はお控えください)、なにやら謎のノイズも聴こえてくる。

質問状の概要でも引用されていたが、このBOT作品のインスパイア元は、萩原さんにインタビューした連載第2回目だと思われる。元々、ドークボットという一般公募の応募フォームにうっかりスパムのBOTがエントリーしてきたことをおもしろがったところに端を発したこの作品は、BOT=いやなものという認識をアート作品に変えたものであった。

さて、スパムBOTはWebサイトのフォームを見つけてはいろいろな情報を入力し、意味不明なコメントやポルノサイトへのリンクを残していったりするのだが、大抵のBOTはHTMLを元に入力を自動で行なっていくタイプになる。ということで、裏面に掲載されているHTMLを見てみよう。今回はインタビューなどがないので、ソースコード自体に何らかのコンテンツがあるわけではない。そのためシンプルな構成となっている。まず目をひくのが、ネジ部品の型番のようなspanタグのid名だ。

<span id="P-LV314L"><span id="U-MS716S">1. お名前</span><br>

人間には理解不能でも、きっとBOTにはわかりやすいIDなのだろう。BOTにとっては、アクセシビリティが高いのかもしれない。inputタグやtextareaタグには「name」や「subject」、「message」といったわかりやすい名前がつけられており、BOTには楽々入力できる部分である。面白いのは、性別の部分で、「other」という項目も設けられているということ。生物を超越した存在であるBOTにはOtherというカテゴリも必要なのだ。

今回の作品は画面を縦横無尽にフォームが暴れ回るが、実はBOTには効果がない。BOTはHTML自体を読んで、フォームを送信するからだ。HTMLをブラウザで開いてから入力する人間にとっては使いづらいことこの上ないので、このフォームの移動はBOT対策というよりも人間が下手に入力してこないようにするためのトラップといえるだろう。おまけに、四方八方に散らばっている送信ボタンは、ほとんどがresetボタンで、うっかり押してしまうと内容が消えてしまうという点も、こちらのテンションを下げてくれる。フォームの激しい動きは、JSTweenerというJavaScriptのプログラムを使って動いている。

TweenerというのはFlash業界で有名なライブラリで、アニメーションを簡単に作成できる便利な存在。JSTweenerはそのJavaScript版というわけだ。興味のある人は使ってみるといい。JavaScriptでフォームが動いているのなら、JavaScriptを切れば人間でも入力ができると思った人は安直だと言わざるを得ない。なぜなら、JavaScriptを切った環境では、HTML内に書かれた下記の文章が実行されてしまい、10秒ごとに再読み込みをされてしまうからだ。

<noscript><meta http-equiv="Refresh" content="10; URL=./index.html"></noscript>

今回の作品では、いろいろとBOTに対する挑戦的なアプローチを行なっているが、そもそもこのページが質問状であるかどうかという部分に、BOTが気づかない可能性も高い。というのも、タイトル自体がCAPTCHAというコンピューターに読み取りづらくさせるスタイルであるからだ。

海外サイトでユーザー登録などをしたことがある方にはおなじみのことだと思うが、普通に登録フォームなどを用意しておくと、あっという間にBOTが押し寄せて大量のユーザーを登録し、荒らしてしまうということがある。そのため、ユーザー登録の際に人間がかろうじて読める文字を画像で表示させ、それを入力してもらうことで認証とする仕組みが考えられた。これがCAPTCHA(キャプチャ)である。文字の歪みや不必要な線や点によって、コンピュータが読み取るのを困難にするのだ。ただし、最近はCAPTCHAも認識してしまうプログラムがあるためか、より複雑に歪められたCAPTCHAが登場してきた。結果、人間にさえも読み取り不能なCAPTCHAが増えたというのは皮肉な結果である……。

それはともかく、実際に何件の質問状が来るのかが楽しみである。結果が出たらこのコーナーでも紹介していく予定だ。