弊社刊行の雑誌「Web Designing」で連載中の「エキソニモのView-Source」は、HTMLのソースとそのレンダリング後の画面をセットで展開するという珍しいアート作品だ。レンダリング後の画面だけを見るとグラフィックデザインのようだが、HTMLソースのほうを見るとインタビュー記事が埋め込まれており、レンダリング後の画面でゲスト自体を、HTMLソースのほうでゲストとエキソニモの関係やバックグラウンドなどを知る事ができるという仕掛けになっている。
毎月楽しみに待つエキソニモの新作PDFをブラウザで見ようと確認したら見ることが出来ない。よくよく見ると、URLの後の空白ですらURLなようだ。正式には以下のような長い文字列となる。
「http://exonemo.com/view-source/Maitine%20Records%20-%20Tomad%20-%20MP3-KILLED-CD-STAR%20%20(EXONEMO%20VIEW-SOURCE%20MIX).mp3%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20%20.html」
筆者はなんとかURLをコピーしてブラウザに入力して行こうと試みたが、無理だった。結局、こちらへアクセスし、リンクよりたどった。「vol.113 Tomad」というのがそうだ。では作品のほうを見てみよう。今回の作品は、古いテーブのラベルのようなデザインに、少し劣化したような角版の写真が載ったシンプルなデザインだ。青く抜けるような水色の背景に納涼感あふれる白抜きの文字を大胆に配置している。本来、すがすがしいまでのクリアな感触を持つであろうデザインが、今回は何故か少し哀愁というかノスタルジーさがただよう。それは冒頭のテキストからも伝わってくる。なぜだろう? それを探ってみたい。以下にソースを引用した。
P2PがMP3を大量にばら撒き、偽装された拡張子を踏む
危険性を物ともせずに、音楽を取り巻く状況が進化してしまった
Oh-a-a-a oh
君は、P2Pスター
君は、MP3スター
ああ、何故か存在しないものも間違えて引用してしまったようだ。申し訳ない。MP3の登場以来、というよりはiPodの登場以来といったほうがいいかもしれないが、確実に音楽を取り巻く状況は変化している。CDはレコードに比べればCD-Rによって個人でも生産が可能だったが、大量に配るには資本が必要だった。アーティストが多くの人に音楽を届ける方法は、メジャーデビュー以外なかったのである。MP3以降、大量さというのは物量としても感じることができないくらい軽微なものになった。コンピューターの示す数値だけが、MP3の大量配布の事実を伝えている状況だ。個人が世界的に爆発的なヒットを飛ばすということも決して夢物語ではない。
一方、CDのように古いものは、意図せずしてノスタルジー業界にデビューしていくことになる。例えばこの連載におけるbgcolorの指定スタイルもそうなのかもしれない。連載が始まった当初、このbgcolorの指定は予想外の色合いを生み出して、キラキラしていた。慌てふためく人と、状況を楽しむ人、ノスタルジーに浸る人を乗せて時代が進んでいく様子を、エキソニモはソースでこうつぶやく。
業界は慌てふためき、規制に乗り出す
でも技術が変えていく現状は、後戻りしない
もう僕たちは、MP3以降の世界に来てしまった
Oh-a-a-a oh
君は、P2Pスター
君は、MP3スター
申し訳ない。また後半で、含むべきでない引用をしてしまったようだ。気にせず続けていきたい。技術が世界を変えていった後、残ったものに生まれるのがノスタルジーだ。実際、人間の歩いた後には産業遺産や廃線跡など、時代が作った一級品の芸術が誕生する。そこにはわずかながら固い市場が存在し、おかげで人はいつまでもノスタルジーに浸っていることができる。Web技術はどうだろう? いまもてはやされているHTML5、CSS3、Native Client、AR、クラウド……。これらはブームが去ったあと、bgcolorのように本来の用途ではなく、表現の対象として使われていくのだろうか。
話が逸れてしまったが、今回のターゲットであるTomad氏は、現実のいたるところに存在する常識的な思考の外側を歩いている挑戦者に一見見える。しかし、今までの音楽業界にあって皆が誰でも知っている「アルバム」、「ジャケット」というパッケージングスタイルをとっているあたり、うまいなあと感じる。今回の作品を見ていると「そんなふうに過ごしていた日々も、中学生時代にテープへ書いたラベルのように、後で振り返ると微笑ましい気分になれるよ」というエキソニモの暖かい視線が見えてならない。
※この記事は、『Web Designing』2010年12月号に掲載された「エキソニモのView-Source」vol.113の解説記事です。『Web Designing』本誌とあわせてお楽しみください。