コロナ禍で社会は大きく変わった。特に大きな変化が「働き方」だ。在宅勤務を導入する企業が急増し、それに伴って「働くこと」に対する価値観の転換も起きている。その影響を大きく受けるのは、「働く人」で構成される企業組織である。

こうした状況の今、企業の人事部門は、組織がより良い方向に変化していくように社員を導いていかなければならない。

9月9日に開催されたTECH+フォーラム「バックオフィス業務改革 Day 2021 Sept.」には、HRエグゼクティブコンソーシアム 代表 楠田祐氏が登壇。「変質する時代における人事の命運」と題し、これからの企業人事が重視すべきポイントについて語った。

なぜ日本は「働きがい」や「ワークエンゲージメント」が低いのか

楠田氏は現職に至る以前、NECなど民間企業3社に勤務した後にベンチャー企業の社長を10年、中央大学ビジネススクール客員教授(MBA)を7年務めた実績を持つ。

そんな楠田氏は、コロナ禍で変化する社会や会社組織を見つめてきた。その結果、いくつかのことに気づいたという。

まず、在宅勤務により「自律的に働く」ことが会社員にとっての”本丸”になった点だ。また、会社に対する帰属意識よりも「働きがい」を求める社員が増えているともいう。

では、働きがいとは何だろうか。

楠田氏は「働きがいとは、自分の仕事の意味や意義のこと」だと説明した上で、この働きがいを社員に与えられていない企業が多いと指摘する。

「日本企業では部下を異動させるとき、仕事の説明をしないことが多いのです。例えば『10月付けで福岡に転勤してもらう』『何でですか?』『総合職だからだよ。僕も若い頃に行ったよ。ラーメンもうまいよ』……こんな説明しかしないケースが意外と多いのです」

楠田氏

HRエグゼクティブコンソーシアム 代表 楠田祐氏

異動や転勤をさせるにも関わらず、仕事の説明はなく、「着任したら向こうの上司が説明する」としか言われない。そして、着任すると今度は「あれ、聞いてないの?」と言われ困惑する。こうした昭和感覚のジョブローテーションがいまだに多いのだと楠田氏は警鐘を鳴らす。これでは働きがいを持つほうが難しいというわけだ。

一方で、楠田氏は「ワークエンゲージメント」にも注目する。

ワークエンゲージメントとは、仕事に対する強い思い入れや、仕事に対してへこたれずに立ち直る心の回復力、仕事に対する熱意や挑戦する気持ちのことを指す。社員のワークエンゲージメントをどう高めるかがコロナ禍における自律的な働き方で重要になっていると楠田氏は言う。

では、ワークエンゲージメントを阻害する要因とは何だろうか。楠田氏が挙げるのは、「自分のひらめきを上司が邪魔するとき」「家庭より仕事を優先させる上司の部下になったとき」である。つまり、ワークエンゲージメントを高めるには、「心理的に安全な上司であるかどうかが重要」になるというわけだ、。

残念ながら、日本企業の多くはこうした点ができているとは言い難いのが実情である。

楠田氏によると、日本は「熱意あふれる社員」の割合がわずか6%しかおらず、調査対象となった139カ国中132位に甘んじているという(米ギャラップ調査)。また、従業員エンゲージメント指数も調査した28カ国中で最下位だったとのことだ(米ケネクサ調査)。

「悲しい結果ではあるが、これが日本の実態」(楠田氏)であり、日本企業はここからどのように社員の働きがいやワークエンゲージメントを高めていくのかを考えていかなければならないのだ。